1話
「今日は釣れるといいね」
そう言って僕の隣に腰掛けたアサヒは片足だけを水に浸けた。
「そうだね」
僕は釣り竿を強くしならせてもう一度、ルアーを遠くに飛ばした。
ちゃぽん、水面にウキが浮かぶ、少しの静寂の後、ウキが沈んだ。
当たりだ
釣り竿を持つ手に力が入る。
リールを素早く巻き上げたが釣れたのはゴミ袋だった。
「あらら、ゴミ袋だね」
アサヒは笑いながらゴミ袋を回収した。
実際ここ数日で魚が釣れたことは一度もなかった。
僕らが拠点にしている校舎に偶然釣り竿が流れ着いた。釣りをしている理由はそれだけの暇つぶしだ。
水の中を除いても見えるのは街から流れ着いたゴミだけで魚なんて一匹もいなかった。
そう、僕らの街は沈んだんだ。
その日は突然訪れた。いつものように学校に行く準備をしている最中だった。スマートフォンを片手に朝ごはんを食べている途中、突然垂れ流しのテレビ画面に臨時のアナウンスが速報の音と共に緊急記者会見の画面が映し出された。
アップで映された総理大臣は深刻そうな顔で用意された原稿を読み始めた。
内容はシンプルだった。
地球の地軸に異変が起きていると言った内容だった。
その後、専門家達が話し合っている様子が放送されたが内容は理解できなかった。
テレビの前に座って画面を凝視していた母親と妹は驚いた顔をしていた。
「嘘、、」母親がボソリと呟いた。
その様子からテレビの内容が本当なんだなと実感が湧いてきた。
「ねぇこれから、どうなっちゃうのかな?」
妹がそう聞いて来た。
「そんなこと僕にだって分からないさ」
そう答えた僕に聞く相手を間違えた、、
妹の顔にはそう書いてあった。
沈黙が流れ、もう一度視線をテレビに戻したが
テレビ画面では先ほどの記者会見が繰り返し報道されていた。
「引き続きニュース番組に画面が切り替わったときには家を出る時間になっていた。
「ご馳走様」そう言って皿をシンクに下げて家を出た。