エピローグ-素敵な報酬
「ねぇ俺どうしよう!俺もう戻れないんだけどぉ!」
「自分で撒いた種でしょ」
翌日の5分前を時計が指し示す。コナーはどこか落ち着かない様子で、泣きじゃくる将校の隣でミルクを飲む。
オレンジのガス灯だけが照らすカウンターの上には、一つのカクテルに一つの蒸留酒、一つのミルクが揃って置かれている。
「君が巻き込まなきゃよかったことだろぉぉぉ……」
元青年将校は頭を抱え、ぼろぼろと大粒の涙を流す。涙は度の強い蒸留酒の中に零れ落ち、再び青年将校の口へと流し込まれていく。
「巻き込んだのは悪かったよ……。でもさ、ほら、気になるじゃない。……報酬」
「君報酬知らないでやってたの!?ちょっとハリエットさん!?」
コナーは赤面してそっぽを向く。翌日まではあと3分を指し示す。ハリエットは彼女らしからぬドレスコーデで、一層華やかに着飾っている。
「まぁまぁ、あなたの今後は私達が請け負うとして」
「請け負うって何!?生涯里帰りもなしですかっ!!」
将校は激しく机を叩く。真っ赤な顔は猿のようにひしゃげ、しきりに嗚咽が混ざっていた。
コナーは暫く喚く彼を見つめ、決まりが悪そうに口を開く。
「そういえば、名前、聞いてなかったね……」
「俺?俺はねぇ……うっ、ぐす……エンターッ……エンダージュ」
「ありがと、エンダジュ、ごめんね」
コナーは顔をかきながら視線を逸らす。滝のような涙を流しながら、エンダジュが膨れっ面を抱き寄せた。
「無事でよがっだね゛ぇぇ」
「ちょっ、おい、鼻水!」
コナーはエンダジュを突き放す。時計の針が真上を指すと、時計は高く鐘を打った。ばねが跳ね返るような音に合わせて、金の余韻が店内に響き渡る。
「そろそろ、報酬を教えてあげましょっか」
ハリエットは報酬の紙を取り出した。コナーの目が釘付けになる。彼女は柔和な笑みを浮かべながら、紙をゆっくりとひっくり返す。
紙には、茶色の装丁で、いくつもの枠が記されていた。
「誕生日おめでとう」
ハリエットは署名済みの用紙を、コナーに押し付けた。
「えぇぇぇぇぇ!」
コナーの甲高い叫び声と共に、店内のランプが一気に灯り始めた。