牛乳の味
「本物の牛乳ってすっげえおいしいらしいぜ」
タカシが真剣な顔で言った。
「へえ? そうなんだ」
いいかげんな返事をするとタカシはムッとした。
「マサルは飲んだことあるのかよ、本物の牛乳」
「ないよ、本物の牛乳なんてどこにも売ってないじゃん」
家や学校でボクらが飲む牛乳は偽物である。パッケージには「牛乳(大豆製品)」と書いてある。
「牛乳カッコ大豆製品ってワケわかんねえ」
タカシはそう言っていつも笑う。
つまりは豆乳に植物油や香料を加えて味を牛乳に近づけた飲み物だ……とは言っても本物の牛乳を飲んだことがないので今の「牛乳」がどれだけ本物に近いのかはボクにはわからない。
お父さんは今の「牛乳」はコクが足りないと言い、お母さんはなにか薬っぽい感じがすると言う。いずれにしても本物の牛乳とは違うらしい。
タカシが本物の牛乳を飲む計画を持ちかけてきたのは金曜日の放課後だった。となり町にあるタカシのオジさんの家に牛がいるという。となり町は年一回の秋祭りで闘牛大会をやっていて、そのために飼っている牛なのだ。闘牛のオス牛なら見たことがある。とても大きくて恐ろしい顔をしている。けれどもメス牛はオス牛よりずっと小さく、性質もおとなしいとタカシは言う。オジさんの家にはメス牛の小屋があり、そこに忍び込んで牛乳をちょうだいしようというのがタカシの計画である。
日曜日の早朝、ボクとタカシはメス牛の小屋の中にいた。初めて間近で見る牛の大きさにボクは正直ビビっていた。後ろから近づくとけられるかもしれないので勇気をふるって横から近づく。メス牛の乳房はびっくりするぐらいふくらんでいた。たくさん乳が入っているに違いない。タカシが周りに注意を払い、ボクは低い姿勢でゆっくりと牛にせまっていく。さいわい牛はボクらのことがあまり気にならないようだ。ソーセージのような乳首を手で握って乳をしぼり、持ってきた水筒に牛乳をためる。そうなるはずだった。
ボクが乳首を握ろうとしたとき、突然牛が数歩動き、ボクの水筒が踏み潰されてしまった。どうしよう、せっかくここまでうまくいったのに。
ボクは決心した。直接乳首から飲んでしまおう。ボクは地面に仰向けになり牛の下に潜り込んだ。目の前に牛の股間がある。乳首にも手が届きそうだ。
次の瞬間、牛は「モーッ」と大きな声を出し、長い長い放尿をした。