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公安四課  作者: やん
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EPILOGUE. 未来へ

───3ヶ月後。2122年8月30日。


内紛とも呼べる国家危機から3ヶ月。新宮那岐(しんぐうなぎ)によるパルス攻撃は、3ヶ月が経った今尚、甚大な爪痕を残し、電気インフラの復旧には当面見通しが立たない状況が続いていた。混乱はそれだけに留まらず、インフラの壊滅と暴かれた国家の闇が国民の心を(むしば)み、暴動は1ヶ月半にも渡り続いた。

内紛による死者・行方不明者は、今日(こんにち)に至るまで約3,000万人。負傷者は5,000万人にも登った。

一連の責任を問われた政府は総辞職・解散、各省庁は改変を余儀なくされた。当の厚生省公安庁も組改。内閣府が直轄する警察庁へと生まれ変わった。


警察庁(旧公安庁)本庁舎 屋上庭園。


「もう良いのか? 」

聞き馴染み深い声に振り向く、愛華。


「雫さん…。はい。この通りピンピンしてます! それに、この国が混乱している中、悠長に休んでなんていられませんから」

笑顔で応える愛華に対し、雫は心の底からの笑顔で返す事はできなかった。新宮那岐(しんぐうなぎ)を追う過程で"失った脚"は、若い愛華が抱えるハンディとしてはあまりにも大きな代償だったからだ。


それを察した愛華は、車椅子のハンドリムを不慣れな手付きで操作すると、その場でクルッと回って見せた。愛華のたくましさに、雫は思わず苦笑する。


数分間、2人は口を(とざ)した。お互いに思う事があったのだ。先に口を開いたのは愛華だった。

「梓さん達はどこに行っちゃったんでしょうね…」

愛華の質問に、視線を向ける、雫。


「私が国民管理システム(あの場)に辿り着いた時、そこに向ったはずの梓と陽菜の姿は無かった…。遺体もな」

溜息と共に漏らした雫の回答が、"嘘"だと見抜いた、愛華。失踪した梓、陽菜、そして空、遼子、深月は、雫の手引きで合流し、逃亡したのだと悟った。


(くさび)から解き放たれたんだ。大方(おおかた)、羽根を伸ばしてるだろうよ。

むしろ心配なのは、愛華。お前の方だ」


「え!? 私…ですか? 」

突然、話題の矛先が自身に向き、目を丸くした、愛華。


「あぁ。自分のせいで、空に新宮(しんぐう)を殺させてしまった、そう思っているんじゃないか? 」

見透かされていた恥しさから、照れ笑いで返す、愛華。ただ、最後まで肯定も否定もしなかった。


「あまり1人で背負うな。その為に私がいるんだ。過去よりも未来に目を向けよう。名前は変わっても、私達がこの国の治安を維持する組織である以上、より良い社会を目指すために」

深い溜息と共に青空を見上げた、雫。愛華に告げた言葉は、愛華にだけ向けた言葉では無い。雫もまた、過去の(しがら)みを吹っ切る為に、(みずか)らに諭していた。


「そう…ですね……」

深呼吸で気持ちを切り替えた愛華は、話題を切り替える。

「ところで、そろそろ刑事課再編ですよね? 」


「おっと、もうそんな時間か。4係(ウチ)に配属された不運な奴らを迎えに行かなきゃな」

デバイスに表示された時間を見た雫は、ニヤリと()みを浮かべた。


「お願いですから、新人にはもう少し優しくしてあげて下さいね」

(あき)れた表情で溜息を()くと、車椅子ごと身体(からだ)を180度回転させる、愛華。釘を刺された雫は、「分かったよ」と苦笑しながら、手押しハンドルを握ると、車椅子を押した。


2人は、新人の出迎えに庁舎へと入っていくのだった。




───2年後。2124年4月。


チェコ共和国 第二都市ブルノ。

海軍大佐執務室。


「弊社をお引き立て頂き、感謝致します」

海軍大佐と握手を交わし、部屋を出る、梓と陽菜。迷路のように広い館内を迷う事なく突き進み、振り向気もせず建物を出た。


梓は、門の外に停まるミニバンの扉を開くや(いな)や、「売れたよ〜」とご機嫌に報告した。


「良かったじゃん。けっこう難しい相手だったんでしょ? 」

吉報を聞いた空は、ハンドルを回した。


「そう聞いてたんだけど、案外簡単に折れてくれたの。拍子抜けだったわ♪ 」


「上手くいったんならパーッと美味しい物食べに行こーよ」

空腹を我慢できない子どものように、食事を強請(ねだ)った深月を、「ハイハイ」と(あしら)う、梓。


「そうしたいんだけど残念。この後の予定は決まっているの。交渉中、ココから連絡があってね。近くにいるから合流だって」


5人を乗せたミニバンは、チェコの街に溶け込むかのように走り去って行った。



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