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公安四課  作者: やん
42/52

FILE.41 楽園の素顔

千代田区永田町171- 国会議事堂前。


虐殺(ぎゃくさつ)反対! 尊厳(そんげん)守れ!」

1000人を超えるデモ参加者が隊列を()し、国会議事堂前に集結していた。議事堂前にはバリケードが()かれ、武装した国防軍と警務(けいむ)ドローンとの間で、暴動寸前の(せめ)ぎ合いが()り広げられていた。


「我々は、国家と国民管理システムによる、強制管理と独裁に断固として反対する! 国家は我々国民を開放しろー!! 人間選別反対(はんたーい)!」

スピーカーを持った男に続くように、参加者達は声を上げる。


国民の怒りと不信感が膨大(ぼうだい)なエネルギーとなって(ふく)れ上がり、もはや国防軍が"警備"で抑えていられる状態をとうに超えていた。(いま)だに一触即発(いっしょくそくはつ)を回避できているのは、デモ隊と国防軍の双方に理性が働いていたからである。


「自由を───」

デモ隊の1人が掛け声と共に振り上げた(こぶし)が、偶然、国防軍隊員の左頬(ひだりほお)直撃(ちょくげき)する。デモ隊の男は(おどろ)き、思わず後退(あとずさ)りした。


「公務執行妨害! 確保ーーー!」

国防軍隊員4、5人が、(おお)(かぶ)さるように、男の確保に動く。(なぐ)()るの応酬(おうしゅう)により、男は(またた)()に取り押さえられた。


その周辺はぽっかりと穴が空き、中心には男の姿が見えない(ほど)、折り重なる国防軍隊員4、5人がいる。


取り押さえられてから3分程度()った頃、男は両脇を抱えられながら立たされる。しかし、明らかに様子がおかしい。自分の足で立つどころか、ぐったりと項垂(うなだ)れている。そして、口からシロップのように(とろ)みのある血が、静かに垂れた。


「し、死んでる!?」

男の様子を見た、デモ参加者が悲鳴を上げる。

「人殺し!!!」

ついに怒りのエネルギーが(せき)を切り、(かたまり)となって国防軍に牙を向く。


国防軍も押し返しを試みるが、津波のようなエネルギーに()す術無く、()まれていく。


そして、惨劇(さんげき)(かね)(ひび)く。


パンッ───。



千代田区永田町231- 首相官邸 記者会見室。


記者団が集まる中、前方左(ぜんぽうひだり)の扉から足早(あしばや)に入室する、小村孝(おむらたかし) 官房長官。国旗に一礼(いちれい)した(のち)演台(えんだい)の前に()く。

静寂(せいじゃく)は、秒針の音さえ響く。


昨日(さくじつ)伊達幹也(だてみきや) 幹事長が、テロリストの卑劣(ひれつ)極まりない暴力によって、お亡くなりになられました。

そして、同時に国民5名の(とうとい)い命が、巻き込まれる形で無慈悲(むじひ)に奪われました。

ご家族ならびに親近の方々には、深い哀悼(あいとう)を申し上げます。また、お怪我(けが)をされた方々も大勢いらっしゃいます。一刻も早い回復をお祈り致します。

さて、この(たび)のテロリストによる蛮行(ばんこう)は、断じて許される事ではありません。テロ行為は、先進国家である我が国に対する挑戦であります。政府としましては、このような暴力による主張に対し、断固非難し、テロの脅威(きょうい)(くっ)しない姿勢で対応をしていく所存でございます」

小村(おむら)の説明は淡々(たんたん)としていた。死んだのは、同じ党、同じ内閣の人間にもかかわらず、顔色一つ変えない。政治家たる者、(おおやけ)の場、ましてや国民の目である記者会見の場で、万が一にも取り乱す事があってはならないのかもしれない。しかし、その表情は、まるで機械のようだった。


説明が終わり、質疑応答の時間になった所で、1人の女性が真っ先に手を()げた。

小村(おむら)は、無言で手を()す。


「日本テレビの森谷(もりたに)です。事件の原因について伺いたいのですが、テロ組織の前身は、カルト教団の明幸生教(めいこうせいきょう)であったと言われています。当時、政府の発表では、行政処分と解散命令によって壊滅したとされています。しかし、電波ジャックによって放映された映像で犯人は、国による虐殺を主張していました。事実でしょうか?」


「全くの事実無根でございます。我が国において、無秩序(むちつじょ)()つ、違法な虐殺行為(ぎゃくさつこうい)が、国家および政府主導で行われた事実は無く、これからも行われる事はございません」

小村(おむら)は、疑惑を否定した。


違和感───。小村(おむら)の説明には明確な違和感がある。そう。"違法な虐殺行為(ぎゃくさつこうい)は行われていない"という点。()げ足を取るようだが、わざわざ"違法な"という言葉を付ける必要はあるだろうか? 森谷佳奈(もりたにかな)は、質問の方向性を変えて追求する。

「一方で、公安による"執行"は、虐殺に当たるのではないかという見方もありますが、いかがお考えでしょうか?」


「公安による"執行"は、裁判制度を廃止した今日(こんにち)における、重要な治安維持システムです。捜査官の恣意的判断(しいてきはんだん)介在(かいざい)する余地はなく、国民管理システムによる厳正なる判断に(もと)づき行われています。その為、執行は犯罪抑止に不可欠であり、虐殺とは異なるという認識です」

小村(おむら)の回答、内容としては申し(ぶん)無いだろうが、まるで台本のまま読み上げられているような、真意こそ他にあるかのような説明に違和(いわ)を感じる、森谷(もりたに)


これ以上、記者会見という場での追求は難しいだろう。早々に見切りを付けた森谷(もりたに)は、質問を変えた。

「政府の見解は分かりました。では、もう1つ。流れた映像によると、一昨日(おととし)の暴動が国家による人間選別のために行われた、いわゆるマッチポンプであったと、犯人が主張していました。事実でしょうか?」


(わたくし)も映像を拝見しましたが、テロリストの主張は、妄言(もつげん)羅列(られつ)で、事実ではありません。あの暴動で、多くの国民の命が(おびや)かされました。当時、我が国の治安維持能力(ちあんいじのうりょく)を総動員し、鎮圧(ちんあつ)に最大限(つと)めましたが、残念ながら多大な犠牲を(ともな)いました。国家の財産である国民の命を天秤に掛けてまで、国家が得られるものなどありますでしょうか?

どうか、国民の皆様には、テロリストの吹聴(ふいちょう)するデマ情報を事実と誤認されませんよう、お願い申し上げます」


「今のご説明だと、一昨日(おととし)の暴動は、我が国の治安維持能力(ちあんいじのうりょく)を超えていたと(とら)える事ができます。

あの暴動では、丸山元也(まるやまもとや) 前官房長官が、暴動の元凶となった仮面を付けたテロリスト数人に殺害されています。要人でさえ命を落とす状況で、先ほど説明された治安維持能力(ちあんいじのうりょく)(かなめ)でもある、公安庁の捜査官は、度々(たびたび)人手不足が指摘されています。

再び暴動が発生した際、この国の治安と秩序、そして国民の命は守られるのでしょうか?」



四課オフィス。


どの局も、ワイドショーは記者会見で持ちきりだった。愛華(あいか)は、大型モニターを切ると、深い溜息(ためいき)()いた。


(にぎ)やかなはずのオフィスは、通夜(つや)のように空気が(よど)んでいる。


天ノ智慧研究会てんのちえけんきゅうかいによるテロ。死者を出した上、首謀者死亡に加え、デマ情報の流布(るふ)。そして重要人物を取り逃がした失態(しったい)。これらは、特課(とっか)・第四課の存続さえ議論しなくてはならない程の大きな問題となっていた。


四課メンバーの帰宅は許されず、別命あるまでオフィスでの謹慎(きんしん)を言い渡されていた。


螺旋階段(らせんかいだん)を重い足取りで()りる、遼子(りょうこ)。その表情は曇っていた。


「どう…だった?」

ソファーから跳ねるように立つ、深月(みづき)。遼子は、深月の(とい)に無言で首を横に振った。


「ったく、あいつはいつまでもグジグジと」

立ち上がる、(しずく)。両手で(ひざ)を強く叩いた音が、辛気臭(しんきくさ)い室内に響いた。


ズカズカと足音を立てながら階段の方へと向かう、雫。勢いそのままに階段の一段目に足を乗せた時、腕が後ろに引っ張られる。思わず振り向く雫の目に、愛華の姿が映った。


「今は…今はそっとしておきましょう」

愛華の表情に強い意思を感じた、雫。


「分かったよ…」

雫は(つぶや)くように言うと、

「お前だけが辛いんじゃねぇ! 遼子も、深月も、愛華も、お前の代わりに報告に行った陽菜(ひな)も! 全員が(そら)の無事を願ってる! お前はリーダーだろう? いつまでも不貞腐(ふてくさ)れてないで、空を救出する作戦でも立てろ!」

続け(ざま)に、寂しそうな表情で怒号を飛ばした。そして、手摺(てす)りから手を離すと、「クソッ」と一言(つぶや)き、ソファーに戻った。


全員が(うつむ)き、やり場の無い気持ちに疲弊していた。


その時、出入り口の扉が開く。


陰鬱(いんうつ)な表情で入ってくる、陽菜。深月は駆け寄り、「どうだった?」と声を掛けようとしたが、(うし)ろから現れた影を見て、言葉を失った。


「きょ…局長? 」

公安庁のトップである天宮碧葵(あまみやみき)の登場に、遼子は思わず(つぶや)き、愛華は起立し敬礼した。


扉の開く音を察知したのか、それとも不穏(ふおん)な空気を(さっ)したのか、自室から出た(あずさ)は、2階から顔を(のぞ)かせた。目の周りは赤く()れ、美人に似つかわしくない(クマ)を作っている。


「全員(そろ)っているね。結構。さて、君達、第四課の処分だが、無期限活動休止および、別命あるまでこちらで用意した個室にそれぞれ移ってもらう。異論は無しだ」

局長自らがオフィスに出向き、処分を言い渡すなど異例にも程がある。冷めた表情の(した)で、天宮(あまみや)の考えが読めない一同。


梓は、天宮(あまみや)(にら)むような視線を向けながら、階段を()りる。


「待ってください! テロリストに拉致(らち)された(そら)……井川(いがわ)の事はどうなるんです? 私達が救出に行かないと」

遼子は咄嗟(とっさ)に質問する。それに対し、真っ先に帰ってきたのは回答ではなく、()てつくような視線だった。


「テロリストではなく、最重要人物だよ。森原 警視正(けいしせい)。井川 警視正の事は残念だった。だが、殉職した人物をどう救出するというのかね?」

殉職などという綺麗な言葉で取り(つくろ)っているが、(よう)は切捨てだ。動揺する一同を押し退()けるように、梓は天宮(あまみや)に詰め寄った。


「空が殉職ってどういう事よ」

怒りのままに、その手で局長を(つか)み掛けたところで、雫が梓の両脇を抱えるように抑えた。


「離して!」

怒りの矛先が雫へと変わる。明らかに普段の梓ではない。今最も危険な人物に最愛の人が拉致(らち)されたという事実が、梓のメンタルを(むしば)み、判断と行動を(あやま)らせていた。それでなければ、局長に(つか)み掛かるなど有り得ない。


馬鹿(バカ)が! 落ち着けよ。自分が何をしたのか分かっているのか?」

雫は、梓を抱えたまま引き()るように(うし)ろへと下がる。


ハァァァという溜息(ためいき)と共に、天宮(あまみや)は口を開いた。

「分からないかね? 拉致(らち)された井川空 警視正は、以後(いご)死亡扱いとし、捜索および救助の一切を行わない。最優秀事項は、新宮那岐(しんぐうなぎ)の確保だ。当然、君達第四課が先頭に立って対応に当たる。

本来なら、特課権限(とっかけんげん)剥奪(はくだつ)に留まらず、解散も有り()る失態を君達は犯した。それをこの程度の処分で済んだのは、これまでの功績を評価した、私なりの親心だ。そこの所、理解してもらいたいものだね」


「そんな親心は有難迷惑なのよ。捜査官でいる事が、救出の妨げになるのなら、捜査官なんて辞めてやるわ」

梓は、腕に着けたデバイスを外し、天宮(あまみや)の前に叩き付けた。直後、視線のみデバイスへと向けた天宮(あまみや)。1、2秒デバイスを見つめ小さな溜息(ためいき)()くと、再び梓へと向けた。その視線は、狂気よりも遥かに暗く、冷たい深淵(しんえん)のようだった。


「それなら致し方ない」

天宮(あまみや)がスッと右手を()げると、外から武装した特殊部隊がぞろぞろと入り、四課全員に(じゅう)を向けた。


「え?」

思わず声が出る、陽菜。理由は誰しもが瞭然(りょうぜん)だった。

特殊部隊が向ける(じゅう)。それは、特課(とっか)にのみ許された、"殺害"を目的に作られた(じゅう)。一同はそれをよく知っている。


その(じゅう)の名は、エンフォーサー。



都内某所 廃マンション。


(ひら)いた目に映る、(ぼや)けた視界。

脱力感は、今が何時で、ここは何処(どこ)で、自分は何をしているのか?といった、5W1Hの思考すら苦痛に感じる。人間は五感を器用に感知し、数多(あまた)の環境に適応するとされるが、五感全てが阻害(そがい)されると、残るのは恐怖のみだと何かの書物に書いていた。まさか、自身がそれを体験する日が来るとは夢にも思っていなかった。

真っ白な和紙に墨汁(ぼくじゅう)を1滴落とすと、次第に(にじ)みながら広がる。まさに、同じ様にじわじわと(むしば)み広がる、その感覚の正体を知っている。その正体は恐怖だ。生物(いきもの)が持つ、根源的な恐怖。(すなわ)ち、"死"由来の恐怖。

そして、その恐怖にブーストを掛けるのは、生物的な"生"への執着と、人間的な感情だ。"死"を意識した人間は、"生"へと執着し、"死"から(のが)れるための抵抗をする。それが更なる恐怖へと繋がるとも知らずに。


「気が付いたようだね。井川空(いがわそら)

まるで水中に耳を()けた時のように、聴覚は阻害(そがい)されているが、その聞き覚えのある声は間違いなく、自身の名前を呼んだ。


徐々(じょじょ)に戻る五感を頼りに、置かれた状況を確認する、空。両袖口が繋がった衣類を着させられ、被検体を拘束するような縦に設置されたベッドに、全身をベルトで固定されていた。


大抵、五感が戻れば、"現実"という絶望に(さいな)まれる。それは、空も例外ではなかった。


戻った感覚により、身体的拘束の不自由を知り絶望し、戻った視覚により、見覚えのない場所に混乱し、戻った聴覚により、無音に恐怖する。自身の心臓の鼓動(こどう)さえ、恐怖を(あお)り、洗息(あらいき)が立つ。

その状況下で、声の主が誰なのかを認識し、空は言葉を失った。


声の主は椅子(いす)を持ち寄り、空の目の前に置くと、両手を組み、前屈(まえかが)みに座った。


男の不敵な()みに、空は睥睨(へいげい)した。

「お前は…新宮那岐(しんぐうなぎ)……。」


空の思考は一瞬止まったが、我に返ると身体(からだ)を動かし、拘束を()こうと抵抗する。


()しておいたほうが良い。手も足も使えない状態で、その拘束は()けない。体力を使うだけだ。本当は、拘束など本意では無いだ。僕は君と話がしたいだけだからね」

笑顔を見せた、新宮(しんぐう)。敵意はまるで感じられない。


対して、敵意剥き出しの空。狂犬のように牙を向けた。

「知ったことか! 今すぐお前を殺してやる」


「刑事の言葉とは思えない。いや、"元"刑事か」

新宮(しんぐう)嘲笑(ちょうしょう)混じりの発言に、それまでの鋭い目付きが(ゆる)む、空。

(なに)?」


「今や君は刑事ではない。それどころか、君は死亡扱いだ」

新宮(しんぐう)の発言に、言葉を失い、目を()く、空。


「あれから3日間。昏睡状態(こんすいじょうたい)だった君が知らないのも無理はない。

公安庁は、地下鉄における騒動と江ノ島シーサイドフロンティアのオープンセレモニー襲撃を天ノ智慧研究会てんのちえけんきゅうかいによるテロと断定し、重軽傷者17万2千人、死者21人と発表した。死者については、内訳も公表していてね。一般人5名、厚生省の特殊部隊15名、公安庁捜査官1名だそうだ。

(さっ)しは付いているだろうが、死亡した捜査官というのが君だ。井川空(いがわそら)。当然、公安庁に君の死を断定できる情報も証拠も無い。つまり最初から、公安庁には君を救出するつもりが無い。君は見捨てられたんだ」

新宮(しんぐう)から(もたら)された情報は、確かに衝撃的なものであったが、不思議と悲観(ひかん)する事はなかった。(またた)()に緊張が()けるように、顔に入れた力も緩む。多分、安心したのだ。自分の意識が途絶(とだ)えた(あと)、仲間がどうなったのかを自身で知る(よし)はない。(ただ)でさえ、特殊部隊の強襲(きょうしゅう)があったりとイレギュラーな事態に(おちい)った現場で、仲間が命を落とす事だって十分に有り得た。だが、今の話が正しければ、少なくとも仲間が死ぬような事態には陥っていない。それだけが、空にとって心の支えであった。


「意外だな。てっきり、(うそ)だと反論すると思っていたが…。君の表情を見れば、(さっ)しが付く。仲間が無事だった事に、ほっとしているんだろう? 確かに命を落とした者は誰一人としていないが、今後もそうとは限らない」

新宮(しんぐう)の意味深な発言に、眉間(みけん)(しわ)が寄る、空。


「第四課は、無期限の活動停止と権限剥奪。そして、個別収容されている」

新宮(しんぐう)は、再び()みを浮かべた。


「個別収容…だと?」

驚きを隠せない、空。処分として、無期限の活動停止と権限剥奪は分かる。ただ、犯罪者で無い彼女達が、収容、それも別々に拘束される意味が分からなかった。


「そうだ。表向きは特課(とっか)としての責務を果たせなかった事に対する処分だが、本質は違う。君達は、この国の深淵(しんえん)にして、本質に近付き()ぎた。君も引っ掛かっているだろう? 野崎哲也(のざきてつや)が言った言葉を」

確かに新宮(しんぐう)の言う通り、野崎哲也(のざきてつや)による(かず)ある暴露の中でも、"あの"ワードだけが耳に残り、疑問に感じていた。


『国民管理システムの正体を"知っている"』


国民管理システムとは、量子コンピュータによる並列演算で(もたら)される、国民一人一人の生体情報と精神情報を数値で管理するシステム、(すなわ)機械(マシン)だと、そう思っていた。

だが、機械に正体などという言葉を使うだろうか? 100歩(ゆず)って、機械に対して正体という言葉を使ったとしても、"知っている"という、別の何かを示唆(しさ)するような表現は使わないはずだ。使うとするならば、公表されているものとは異なる、別の実体がある時だろう。


「何を知っている?」

空は、キッと新宮(しんぐう)(にら)み、()い掛けた。


「ようやく、君と話ができそうだ」

悪魔のような笑みを浮かべる、新宮(しんぐう)。パンドラの(はこ)とも言える国家の真実を開いた時、厄災(やくさい)(はて)に残るのは希望か絶望か。



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