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公安四課  作者: やん
4/52

FILE.3 メッセージ

───3年前。

都内某所 ホテル一室。


男の荒息(あらいき)が、静まり返った空間に(ひび)き渡る。(となり)には、(うつぶ)せの女が横たわっていた。


震えた手でデバイスを操作し始めた男は、とある人物へと電話を掛けた。コール音の最中(さなか)も落ち着きが無い、男。電話相手が応答するや(いな)や、要件を話し始めた。

「助けてくれ…。()っちまった……」



───2120年10月。

荒川区655- 河川敷。


規制線(きせいせん)ホロの外を取り囲むように、何十台もの警務(けいむ)ドローンが立っていた。物々しい雰囲気に加え、通常の事件現場では見ることの無い空間ホロまでもが展開され、まるで隔絶するかのように、一帯全てを外から見ることができないようになっていた。


そこにサイレンを鳴らした1台の警務車(けいむしゃ)が、空間ホロを無視して進入(しんにゅう)する。


停車した警務車(けいむしゃ)は、背面ドアが機械仕掛けに動き大きく開き、直後、飛び出したランプウェイの上を6人の捜査官がぞろぞろと歩く。


「これで3人目だね」

溜息(ためいき)混じり(つぶや)く、深月(みづき)


酷い(ひどい)

愛華(あいか)は、思わず口を右手で抑え、目を(そら)した。


男性と思わしき遺体(いたい)。顔の皮は()ぎ取られ、肋骨(ろっこつ)無理矢理(むりやり)()じ開けられた状態で、(あらわ)になった心臓(しんぞう)には、"papa(ぱぱ)"という焼印(やきいん)が付けられていた。

阿鼻叫喚(あびきょうかん)の表情は、生きたまま解体された事を意味していた。そして、大きく開かれ口は、苦痛とは別の意味で何かを示していた。


鑑識(かんしき)ドローンの調査結果は?」

遺体を前に(しゃが)んだ(そら)は、手を合わせ黙祷(もくとう)した。


被害者(ひがいしゃ)は、岩井健太(いわいけんた)。25歳。無職…ん? 待って。この人、父親(ちちおや)が国会議員で現職大臣(げんしょくだいじん)窪田俊光(くぼたとしみつ)よ? 」

デバイスを遺体に向ける、遼子(りょうこ)。被害者情報に目を通し、唖然とした。


「なるほど…。それで"papa(ぱぱ)" …ね。

3人目の被害者も窪田俊光(くぼたとしみつ) 大臣に(ゆかり)があるとなると、きな臭いで終わらせられないわね。私から局長に大臣への聴取(ちょうしゅ)打診(だしん)するわ」

梓は、足早に警務車(けいむしゃ)に戻った。



公安庁本庁 第四課オフィス。


出入口の扉が開くと共に、室内の照明が一斉に点灯する。6人がソファーに着くと、捜査会議が始まった。


陽菜(ひな)、これまでの経緯(けいい)を出して」

梓の指示で、大型ホロモニターには次々と事件資料が投影される。その中の現場写真は、どれも目を(おお)いたくなるような悲惨なものばかりだった。


「今回のポイントは、一連(いちれん)の事件全てが、窪田俊光(くぼたとしみつ) 大臣を中心とした人物が殺害されているという点よ。

まず、第一の被害者、大嶋未紅(おおしまみく)。34歳。窪田(くぼた) 大臣の公設秘書官(こうせつひしょかん)よ。

表の情報では、外務省に入庁直後から、秘書官としての責務に従事しているわ。ただし、秘書官としての業務区分、権限を越えて、裏で大臣職の大部分(だいぶぶん)を行っていた。窪田(くぼた)からしてみれば、大臣の椅子に座っているだけで、仕事は終わり、金と名誉が入ってくるんだから、さぞ重宝したでしょうね。

しかも、この2人には男女の関係も(うわさ)されていた。火の無い所に煙無し。大嶋(おおしま)が所持していたデバイスには、不倫を裏付ける証拠が大量に保存されていたわ」

珍しく、露骨に軽蔑(けいべつ)の表情をした、陽菜。


「よく、20も上のジジイに股広げられるよね」

深月は嘲笑(あざわら)った。


「深月、ちゃちゃ入れないで」

すかさず注意こそしたが、権力を使った不貞行為に対しては、厭悪感(えんおかん)(いだ)いた、梓。


大嶋未紅(おおしまみく)死因(しいん)は、出血性(しゅっけつせい)ショック」

仕切り直した陽菜は、説明を続けた。


「生きたまま麻酔(ますい)もなく乳房(ちぶさ)、耳、(くちびる)(しり)()ぎ落とされ、陰部(いんぶ)には"prostitute(プロスティチュート)"という焼印(やきいん)が刻まれていた」

生々(なまなま)しい猟奇殺人の説明に、愛華は吐気を覚え、口を手で抑えた。


prostitute(プロスティチュート)売春婦(ばいしゅんふ)…か。身体(からだ)を売って、権力まで自由に使いたい放題だった大嶋(おおしま)には、似合いの蔑称(べっしょう)という事なのかもしれないわね…」

同じ女性であるが(ゆえ)に、死後、不名誉な焼印を刻まれるに至った人生に(あわ)れみすら覚える、遼子。特殊な世界で生き残る(すべ)だったのかもしれないが、身体(からだ)を売るやり方には、同情もできない。特に遼子は…。


遼子の思い詰めた表情を察してか、空は次の話題に切り替えた。

「2人目は?」


「第二の事件、被害者(ひがいしゃ)渡辺昭之(わたなべあきゆき)。56歳。元厚生省参事官で、今は総理補佐官よ。

彼の悪名(あくみょう)は参事官時代から()えないとされているわ。汚職(おしょく)関係の()み消しは十八番(おはこ)って(もっぱ)らの(うわさ)ね。

彼の死因もショック死。生きたまま眼球(がんきゅう)()り抜かれ、その(あと)小型望遠(こがたぼうえん)レンズが押し込まれた状態で発見された。仰向け状態で、両手を天に人差し指を指すような形で遺棄(いき)されていた。焼印同様、意味があると考えるべきね」

陽菜の説明に合わせて、ホロモニターには次々とグロテスクな遺体の写真が映る。こうした猟奇殺人も第四課では日常。感覚が麻痺(まひ)していると言えばそれまでだが、誰しもが飲み物を口にしながら写真(ソレ)を見ていた。1人を除いては。


「愛華ちゃん、大丈夫?」

青褪(あおざ)めた愛華の様子に気付く、空。


「すみません、あまりにも…その。皆さんは平気なんですか?」

(うった)えるように(たず)ねる、愛華。(ただ)でさえグロテスクな遺体(いたい)を写真とはいえ、360度見渡しているのだ。それも1度は現場で生の遺体を目にしているのだから、フラッシュバックして、気分を害さない訳がない。少なくとも愛華には刺激が強過ぎた。


「私達が対処する事件の多くは、常識の範疇(はんちゅう)容易(たやす)凌駕(りょうが)するものばかりよ。慣れと言えばそれ(まで)だけど、事実(じじつ)に対して向き合う責任があるの。

だから、今の愛華のように、いちいち被害者に感情移入(かんじょういにゅう)なんてしていられない。冷たいようだけど、他人事(ひとごと)なら気分も(がい)さないでしょ? 」

淡々(たんたん)(こた)える梓に対し、言い返す言葉が見つからない、愛華。


被害者に寄り添う刑事になりたい…そう思っていた。だけど、今の自分はただ感情移入(かんじょういにゅう)しているだけなのか、と自問自答してみるも、答えは出なかった。


「すみません。止めてしまって」

申し訳なさそうに口を(つぐ)む、愛華。それを見ていた遼子は、梓の言葉に付け加えるように愛華に言葉を掛けた。

「まぁ、私達(あたしら)も経験を積んだ上で、それがベストだったと学んだんだよ。冷酷だろうと客観視する事が、自分自身、引いては仲間も救う事にも繫がるってね。愛華の反応は一般的だし正しい。それは無くしちゃいけないものよ。だけど、刑事として生きていく為に乗り越える壁も存在する。それを少しずつ経験してくと良いわ」

遼子のアドバイスに「はい」と返事をした愛華の表情に、伸び代を感じた、陽菜。手応えを感じたのか、説明を続けた。

「ちなみに渡辺(わたなべ)は、舌に"Liar(ライアー)"と刻まれていたわ」


「嘘付き…か」

(つぶや)く、空。


大嶋未紅(おおしまみく)に刻まれた"売春婦"という烙印(らくいん)は、生前の行いに対する侮蔑(ぶべつ)だった。一連の事件が怨恨(えんこん)による犯行だとするなら、"売春婦"たらしめる行いに被害を受けた者がいる。

そして、恐らくは同一人物が、渡辺(わたなべ)の"嘘"に対しても、何らかの被害を受けたと見るべきだろう」

何に対して"嘘"なのかこそ、真相への糸口になり得る予感を覚える、空。


「そうですね…。その線で考えれば、第三の事件は、岩井健太(いわいけんた)の父親、窪田(くぼた) 大臣から被害を受けたという事になります。ただ、岩井健太(いわいけんた)の死が父親のとばっちりというのは考えにくいですが…」

愛華が岩井健太(いわいけんた)への怨恨(えんこん)の可能性を捨てきれないのには、データベースに記録された内容にあった。


岩井健太(いわいけんた)。兼てより、親の権力におんぶに抱っこで悪事を働いてきた、俗にいう馬鹿息子だった。窃盗、暴行、強姦と三拍子揃った悪行を積み重ねる(たび)、第五課が捜査をしては権力に阻まれていた。一昔前のように、もし紙媒体で資料化すれば、保存ファイルは分厚くなるだろう。


「細かい事は分かんないけどさ。3人目って窪田大臣(ジジイ)の息子なんでしょ? このバカ息子がやらかした揉み消しに、大嶋(おおしま)渡辺(わたなべ)も関わったとかじゃないの? 」

深月の直感(ちょっかん)は確信を突いていた。


岩井健太(いわいけんた)がキーだったという事ね」

納得の表情を浮かべる梓に対し、理解が追い付かない、愛華。


「つまり、事件の発生順と犯人の動機が逆だって事だよ。事件の順から見れば、大嶋未紅(おおしまみく)の事件が起因して、渡辺昭之(わたなべあきゆき)岩井健太(いわいけんた)へと繋がっているように思えてしまう。だから、個々の事件に繋がりが見出だせない。

でも、岩井(いわい)の犯した罪を窪田(くぼた) 大臣が揉み消す為に、大嶋(おおしま)渡辺(わたなべ)を利用した…。その事への怨恨(えんこん)であれば、辻褄(つじつま)が合うでしょ? 」

空に、第四課のインスピレーションをチューニングされた愛華は、目を丸くして(うなず)いた。


「そうそう、それ! 事件の原点さえ分かれば、私達(うちら)のターゲットも見えてくるってね」

自分の直感により解決を見出だせた事で、深月は鼻高々に満足な()みを浮かべた。


早速(さっそく)岩井健太(いわいけんた)の起こした事件、それも公安(うち)に入る前に揉み消された事件が無いか洗いましょう。きっと、大臣(タヌキ)への良いお土産になるわね」

梓は、ニヤリと()みを(こぼ)した。



───翌日。


ホロキーボードを叩く音がオフィス中に響く中、陽菜の指が止まり、その場で立ち上がった。

「これって…」


(みんな)、ちょっと集まって!」

陽菜の呼び掛けに、ソファーへと集まる一同。


「これ…3年前のコールドケースね。第一課が相当煮え湯を飲まされて、第四課(うち)に来る直前で、何故(なぜ)か局長判断でお蔵入りになった…」

足を組んだ梓は、目を細めた。

当時、捜査が難航していたが為に、班長・木嶋丈太郎(きじまじょうたろう)が毎日のように(いら)ついていたのを思い出していた。犬猿の仲である木嶋(きじま)の気持ちを(さっ)するつもりなど毛頭無いが、常に何かの力に(はば)まれる歯痒(はがゆ)さは、同じ捜査官として同情していた。


「たしか、相模湾内(さがみわんない)漁業関係者ぎょぎょうかんけいしゃが発見したのよね? 浮遊物(ふゆうぶつ)に魚が(むら)がっているのを不審(ふしん)がって、引き上げてみたら腐敗(ふはい)した遺体(いたい)()れたとか」

遼子がソファー前のデスクを指で(つつ)くと、モニターには発見当時の写真が投影される。遺体(いたい)は、腐乱によって原型すら留めていないニューネッシー状態だったが、海洋哺乳類や大型魚類にしては体構造的に不一致な点が多いという漁業関係者ぎょぎょうかんけいしゃの証言により、事件化したのが経緯だ。


「あぁ。発見直後は状態が悪過ぎて、身元の特定には時間がかかる見通しだったんだ。だけど、捜索願(そうさくねがい)を出していた遺族(いぞく)が持ち込んだDNAと照合した結果、都内在住(とないざいじゅう)のカフェ店員、長門佳澄(ながとかすみ)さんだと断定されたんだ」

被害者情報を出す、空。


「私、憶えています。この話題が(おおやけ)になった当時、メンタルに悪影響を及ぼすからって、学校でもその話題は禁句になった程でしたから。でも、それが返って(うわさ)として広まったんです」

愛華は、3年前の記憶を思い出すように話し始めた。


(うわさ)? 」

深月の()いに、愛華は神妙な面持ちで口を開いた。

「ストーカーに殺された…っていう(うわさ)です」


「え? どうしてそんな(うわさ)が?? 事件か事故かは公表されなかったはずだけど…」

陽菜が出した当時の事件資料には、AA(ダブルエー)の閲覧制限が設けられていた。公安庁捜査官も対象となる閲覧制限だ。当然、世間に公表される事は無い。


「実は、同じ高校に通っていた子の中に、被害者と同じカフェで働いていた子が何人かいたんです。

当時、従業員の間では、ストーカー客の存在が問題視されていたようなんです。中でも、被害者女性に対してのアプローチが度を超えていたようで、店舗が公安庁への相談を持ち掛けるに至っていたそうです。でも、その矢先、被害者女性が行方不明になり、その人も来なくなったとか…。だから、根も葉もない(うわさ)が広まったんです」

かつて流行(はや)った都市伝説のような噂話(うわさばなし)が、まさか現在進行系の殺人事件へと繫がる事になろうとは思いもよらず、動揺する、愛華。

国民管理システム統治下において、(もたら)された平和な社会は表面的なもので、常に危険に(さら)されている事に懸念を覚える、愛華。いや、それに気付く事なく、平和な社会を盲信する事に恐怖すら覚えた。


「そのストーカーが誰だか分かる? 」

遼子の()いに、首を横に振る、愛華。

「いえ、私も(うわさ)程度でしか…。でも、(うわさ)では、ストーカーの父親が顔の効く人で、これまでも息子の犯罪を()み消してきたとか。その矢先の事件でしたし、報道もパッタリ無くなったので、妙に信憑性が高いって(ささや)かれていました」

国民管理システム統治下でも、一部の権力者による法を無視した行為の横行に落胆し、溜息を()いた、愛華。


「結果的にその(うわさ)はデマじゃ無かったって訳ね。彼女の死因は? 」

梓は、警視長権限でAA(ダブルエー)の閲覧制限を解除した。


「死因は、薬物による急性中毒死ね。ただ、吉川線(よしかわせん)*¹が見られた事から、他殺(たさつ)として捜査が進められていたけど、犯人特定の前に、局長命令で打ち切られているわ」

陽菜も捜査経緯を読み上げながら、性急過ぎる事件の幕引きに違和感を覚えた。


「一番怪しいのは、身内って事ね」

決心するかのように髪をかき上げた、梓。数秒の()()き、(はっ)したのは口止めだった。

「これはSSS(トリプル)レート*²。他言無用よ」


「え? 警視長(けいしちょう)以上でしか閲覧(えつらん)が許されない、超極秘情報を私達が見てもいいんですか? 」

思わず(おどろ)きと躊躇(ちゅうちょ)の表情を見せた、愛華。


「そこは私達(うちら)特課(とっか)*³だから」

深月はドヤ顔する。


「3年前の事件で、被害者 長門佳澄(ながとかすみ)さんが拉致(らち)される防犯ドローンの映像よ。映像解析(えいぞうかいせき)の結果、拉致(らち)したのは、窪田光俊(くぼたみつとし) 外務大臣(がいむだいしん)愛人(あいじん)との間に生まれた、岩井健太(いわいけんた)だと分かったわ。岩井(いわい)は、長門佳澄(ながとかすみ)さんを拉致(らち)し、都内ホテルで薬漬(くすりづけ)けにした後、強姦(ごうかん)殺害(さつがい)した。ただ、犯人が大臣の血縁者(けつえんしゃ)()つ、愛人(あいじん)との子という事で、徹底的な箝口令(かんこうれい)()かれたわ」

梓の説明により、事件の全貌(ぜんぼう)が明かされる。

ホロ投影された防犯ドローンの映像には、岩井健太(いわいけんた)による犯行の一部始終が映されていた。岩井健太(いわいけんた)は、帰宅中と思われる長門佳澄(ながとかすみ)の背後から駆け足で近付くと、口をハンカチのような物で(おお)い、直後、首に"何か"を刺した。その数分後には、長門佳澄(ながとかすみ)痙攣(けいれん)しながら、足元から崩れ落ち、拉致(らち)に至るまでが克明(こくめい)に映っていた。


中でも、愛華が絶句したのは、長門佳澄(ながとかすみ)の腹部に気付いた時だった。


「それじゃあ、国家に殺されたようなもんじゃないですか」

醜悪な犯行に、胸糞悪(むなくそわる)さを覚える愛華は、怒りのままに声を上げた。


「そうね。当時、第四課(うち)に捜査権が上がる前だったという事もあって、被害者の無念は結果的に闇へと葬られたの」

当時を振り返る、陽菜。


木嶋(きじま)さん、局長にも掛け合ってたよね…。これじゃあ、被害者の無念が晴れない。悪を裁けないで何が公安だって」

空の脳裏には、3年が経った今でも木嶋(きじま)が苦悩していた姿が鮮明に残っていた。それは空だけでなく、愛華を除く全員だった。

木嶋(きじま)のオッサン、悔しそうだったよね」

同情(どうじょう)する表情を見せる、深月。


重い空気が漂う中、遼子は話題を変えた。

「ねぇ。陽菜がみんなを集めたのは、これだけじゃ無いわよね? 」

思い出すかのように、映像を切り替えた、陽菜。本命は別にあったのだ。


「そうなの! 今回の事件現場となった河川敷周辺の映像を解析(モニタリング)してたんだけど、1人、明らかに挙動不審な人物がいたの。

まるで下見をするかのように、事件発生の2週間前から姿を見せたかと思えば、ほぼ同時刻に(あらわ)れては、(あたり)をキョロキョロと見渡している」

陽菜によって、2週間分の映像がホロ投影される。一同がそれを観ている中、ただ1人、様子の変化に気付いた、梓。

「空? 」

目を()き、動揺を隠しきれずにいる、空。


「その人物をデータファイルと照合したら、1名該当したの。陸上自衛隊(りくじょうじえいたい)105(イチマルゴ)部隊所属 小川裕司(おがわゆうじ) 1等陸曹(いっとうりくそう)

陽菜が出した小川裕司(おがわゆうじ)に関する情報は、国防省の機密情報も含んでいた。当然、管轄省の異なる公安庁に閲覧権限は無い。通常は、厚生省から国防省への情報開示請求が必要となる。それは、いくら特課(とっか)が高度な犯罪に対応する為に、超法規的権限が与えられているからと言っても例外ではない。

つまりは、国防省へのハッキングによって入手したものだった。そんな芸当をこなせるのは、第四課でもただ1人だけである。


その技術力を初めて()の当たりにした愛華は、文字通り開いた口が塞がらない。


その隣で別の意味で開いた口が塞がらない者がいた。そして、ゆっくりと立ち上がると、1人の男の名を(つぶや)いた。

(ゆう)()? 」




*¹吉川線:絞殺(こうさつ)扼殺(やくさつ)されようとする際に、被害者が紐や犯人の腕を解こうとするなどの抵抗に見られるひっかき傷の跡。


*²SSSレート:事件及び情報で警視長以上の権限を以て行使される事案。


*³特課:特別捜査権保持課の略。課として警視長権限の事案を捜査、介入、行使できる。対象は第四課のみ。



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