FILE.29 限りなき願いを以て、魔女に与える鉄槌を。
「俺は指示を受けただけだ!」
両腕に手錠を掛けられた男は、必死の形相で訴える。
埃っぽさが目立ち、お世辞にも良い環境とは言い難い室内の状況は、空間ホログラム越しにもはっきりと分かった。
梓と深月のいる取り調べ室と、男のいる拘置施設は、空間ホログラムによる遠隔投影でお互いを写しているに過ぎない。実際には、数キロ単位で場所が離れている。しかし、それを感じさせないのは、テクノロジーの賜物だろう。
「つまり、犯行の目的も分からなければ、運んだ"遺体"がどうなったのかも分からないと?」
対象的に淡々と取り調べを行う、梓。深月は、出入口の壁にすがるように立っていた。
「そうだ。突然、俺のデバイスに高収入が得られるって、メッセージが来たんだ。最初はビビッたさ。指示通り、現場に行ってみりゃ死体があるんだからよ。でも、金は欲しかったし、半信半疑で、指示通りに運んでみりゃ、その後とんでもねぇ額が振込まれてた。美味いと思ったよ。だから、無免許での運びは違法だって分かってても続けるしかなかったんだ。俺は公務員みたく、良い生活ができてる訳でも無いし、ちょっとでも今の生活が変わればって。俺達、底辺の人間が、些細な夢を見んのはダメなのかよ?」
机を叩き、正当性を主張する男。貧富の差の拡大により、犯罪に手を染める貧困層が増えている事は、昨今の社会問題にもなっていた。
「同情はするわ。でも、罪は罪。あなたは裁きを受けなくてはならないわ」
梓の正論に言い返すこともできず、項垂れるように俯く男。
「それと、あなたのデバイスを解析したわ。でも、あなたの言う、メッセージを受信した形跡は残されていなかったわ」
デバイスに残っていたデータを展開する、梓。それを見て、我が目を疑うかのように前のめりになる男。
「そんな馬鹿な! たしかに俺はメッセージを受信して、そこに書いている通りに動いた。もう一度ちゃんと…」
男が立ち上がり大声を上げた直後、空間ホロにノイズが走る。
異変に気付いた深月が、取り調べ室と拘置施設のリンクを確認している最中に、パチンという音と共に空間ホロが切れてしまった。すぐに復旧はしたが、前後で状況は一変していた。
「ああああぁぁぁぁあ」
口から泡を吹き、両目から血を流す男。藻掻き苦しみ、遂にはその場で倒れてしまった。予期せぬ緊急事態に、梓は立ち上がると、急ぎ医療スタッフを手配する。しかし、医療スタッフが到着した頃には、男は既に絶命していた。そして、展開していたホログラムには、"あの"マークが表示されていた。
四課オフィス。
空、遼子、雫、愛華がフロアーに集まっている。ローテーブルの上には、これまでの事件資料と、保護移送された、長谷川衿花の情報が展開されていた。
出入口が開く。入室してきたのは、梓と深月だった。事態急変により、拘置施設へ急行していたのだ。
「陽菜は?」
入室早々に尋ねる、梓。
「ハッキング解析中よ。責任を感じてるのよ、あの子」
ソファーに座る、遼子。表情に切なさを滲ませていた。
「昨日も家に帰ってこなかったし、寝ずにやってるのかも…。あたし、声掛けてくる」
普段であれば真っ先にソファーへ向かう深月だが、よほど陽菜の事が心配だったのだろう。身体の向きは、陽菜のいる2階へと向いていた。
「止めておけ。これは、陽菜自身で乗り越えなきゃいけない問題だ。それをあいつも良く分かっているはずだ。だから、今は気の済むまでやらせておいてやれ」
深月の肩に手を置き、動きを止める、雫。
「でもっ…。」
深月は何かを反論しかけたが、俯きソファーに座る。この中で、陽菜と一番長くいるのは深月だ。幼稚園からの付き合い。だからこそ、お互いの想いが痛いほど分かり合える分、今回の敗北はショックだった。
重い空気を断つように、空が話題を切り出す。
「施設はどうだった?」
「例のハッカーに、拘置施設のシステムが乗っ取られていたわ。拘置施設では、犯罪者の反乱を防ぐ為、緊急時には通風口から毒ガスが排出される仕組みよ。そして、施設内の環境は全てシステム管理されている。今回、そのシステムが乗っ取られ、ガスによって殺された」
梓は現地映像を出す。施設内では『Peace begins with a smile.』と刻まれた、スマイリーフェイスのマークが展開している様子が映っていた。
「そんな。施設は外部との通信を遮断した、言わばイントラネットなんですよ? 内部からのアクセスでない限り、ハッキングなんて事実上不可能なはずです」
現実離れした事象に、愛華は思わず立ち上がった。
「空間ホロか…」
空が呟いた。
「そうよ。流石、空ね。鋭い。
外部とのネットワークを遮断したイントラネット環境において、内部システムへのアクセスには、愛華の言う通り、基本的は内部機器に直接、接続をしなくてはいけないわ。ただし、例外もある。"暗号化された窓口"への接続よ。もちろん、アクセス元は許可された場所に限るわ。四課は、取り調べをする際、この"暗号化された窓口"を使ってリンクを確立し、遠隔でのリアルタイム投影をしているわ。ちなみに、"暗号化された窓口"というのは、電話線のことよ。つまり、技術的には、ハッキングにより作られたバックドアとそう変わらないのよ。そして、四課では、この設定を行っているのが、陽菜よ」
回線図と電話線図をホロ展開する梓。建物に張り巡らされた無数の配線は、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされ、素人目には、到底理解できそうになかった。
深月は既にお手上げのようで、見ることすら諦めている。
「じゃあ、今回は陽菜の構築したリンクに穴があって、そこを突かれたって事か?」
雫も、陽菜の技術力を疑っている訳では無い。ただ、サイバー戦において最高峰の技術を持つ、ハッカー・陽菜が、ハッキング合戦で負けた相手だ。今後も負ける可能性がある。それを考慮の上、捜査するには、誰かが切り出さなくてはいけない。雫は、敢えて恨まれ役を買うつもりで、質問した。
「いいえ。今回、陽菜が構築したシステムに穴は無かった。ただ、陽菜を負かした相手よ。ウィザード級のハッカーである事は間違いないわ。敵も同じ方法でアクセスし、拘置施設のシステムを掌握したとしても不思議では無いわ」
梓が表示した、陽菜の構築プロットは、英語と数字の文字列がズラッと並んでおり、システムに欠陥があるのか、無いのかを見た目で判断するのは難しかった。空を除いては。
「厄介な相手だね。ウィザード級である事以外、一切がブラックボックスだ。juːˈtoʊpiəの有名ランカー7人の殺害と、24人の行方不明に関与している事でさえ、証拠が無い。おまけに殺害された7人の死因も特定できていないときた。正直、お手上げだよ」
空にしては珍しく、困った表情で、お手上げポーズを取る。
「死因は特定できたよ」
螺旋階段の上から聞こえる声。フロアーにいる全員の視線を集めたのは、陽菜だった。
「陽菜!」
深月が真っ先に声を出した。
ゆっくりと階段を下りてくる、陽菜。本人は気付いていないだろうが、笑顔は固く、目の下に隈を作っていた。
「間脳への電磁パルス照射による熱損傷。それが死因だったの」
ローデスクに脳のホログラム映像を展開する、陽菜。ホログラムを指でポンポンと2回突くと、脳の半分が消え、断面が見える状態で表示された。そして、一部分が光る。その部分が"間脳"なのであろう。
「待て。脳への熱損傷であれば、現場でのスキャニングでは分からなくとも、司法解剖では特定されるんじゃないのか?」
雫の疑問にも一理ある。現代における死因の特定は、事件現場での鑑識ドローンによる簡易スキャニング、分析ドローンによる司法解剖によるいずれかである。
司法解剖は、一昔前の法医学者による解剖ではなく、分析官が操作する、分析ドローンが半自動で行う、分子レベルでの組織解剖である。
ゆえに、熱損傷となれば、組織へのダメージが検出され、とっくに死因の特定がなされるはずというのが、雫の考えであった。
「それは、"脳組織が損傷していれば"の話です。
被害者7名全員の間脳には、極めて瞬間的、部分的に、高強度のマイクロ波が照射された痕跡が残っていました。痕跡と言うと、焼かれた状態をイメージしやすいですが、そうでは無く、"ある"機能がマイクロ波の照射によって活動停止していたんです」
陽菜は、顕微鏡拡大した7人の脳組織画像をホロ展開した。
展開された画像を覗き込むように見る、雫。
「ニューロンの信号伝導か」
雫はハッとしたように答える。
「そう。瞬間的だったからこそ、細胞にダメージを与える事なく、ニューロンの活動だけを停止させた。だから、細胞を分子レベルで検査する司法解剖では、死因の特定に至らなかったんです」
陽菜の説明に、医学知識のある雫は納得していた。
「ん? マイクロ波ってことは、こないだの事件で、国防軍が木戸章平にやろうとした事と同じってこと?」
普段は、こういった話に興味を示さない深月だが、珍しく話に入ってきた。
「そうね。ただ、照射部位と目的が違うわ。
マイクロ波には、ホットスポット効果っていう、電磁波が内部反射と干渉を繰り返すことで、中心部が加熱される現象があるの。その現象で、電磁波は熱エネルギーに変換されるんだけど、その過程でサージ電流が発生するわ。
サージ電流の事はみんなも知っているよね。公安庁に支給されている、電磁パルスグレネードは、そのサージ電流を利用したものよ。
間脳にマイクロ波を当てると、サージ電流がニューロン結合を阻害し、ニューロンは機能を停止してしまう。そうなると、交感神経、副交感神経の制御ができなくなり、人は死に至る」
陽菜の説明に合わせるように、展開したホログラムにシュミレーションが映し出される。
「そして、、、。サージ電流を発生させる程のマイクロ波は、juːˈtoʊpiəユーザーのHMDから照射されていた」
結論付ける前に、言葉を詰まらせる陽菜。何故なら、現代におけるHMDの必需性を理解していたからだ。
「犯人はHMDへのハッキングによってパルス出力をイジって、無防備な相手をリモートで殺したってことだな? そしたらこの状況はかなりまずい」
思わず口を手で抑える、遼子。考えうる、最悪の可能性に気付く一同。
「あぁ。juːˈtoʊpiəユーザーで有る無しに関わらず、国民の8割がHMDを装着している。つまり、大多数の国民がテロリストの人質ということだ」
空は、両膝に両肘を付き、組んだ手を額に当てた。
事態は深刻だ。その状況に溜息を吐かずにはいられなかった。
HMDは単なる仮想現実を展開するものでは無い。拡張現実、つまりARの機能も有し、仕事を始め、マップ表示、割引クーポン券取得、健康測定、スポーツなど、デバイスと連携し、多岐に渡り生活と密着している。ゴーグル型もあれば耳掛け型、カナル型など形も様々故、常に装着している者が多い。
「だけど、疑問もあるわ。どうして被害者はjuːˈtoʊpiəのランカーだけなのか、ということよ」
梓の言う通り、殺害された7人と行方不明の24人は、全員juːˈtoʊpiəで何かしらのカテゴリーで有名になった者であった。
「それなんだけど、ちょっと興味深い事が分かったわ」
遼子は、聴取した長谷川衿花の経歴をホロ展開する。
「長谷川衿花は、3年前、ある違法ビジネスの会員だった。ビジネス名はSACRED。juːˈtoʊpiə内において、実態の定かで無い企業が運営する、ブックメーカーサイトに登録させ、会員の登録手数料とサイト利用料の一部を会員全員で山分けするという収入モデルを展開していた、MLM式のビジネスよ。
"毎日自由な生活を送れるビジネス"を謳い文句に、会員数を増やしていったようだけど、実際には誰しもが簡単にリッチな生活を送れる訳じゃなかった。
説明会と称したセミナーでは、Aさんが3人、Bさん、Cさん、Dさんに紹介すれば、紹介されたBさん、Cさん、Dさんが会員となり、Bさん、Cさん、Dさんの登録手数料をAさんが得られる。そして、Bさん、Cさん、Dさんもさらに別の3人に紹介し、紹介された人が会員登録することで、Aさんは直接紹介していなくても手数料が得られる、つまり半永久的に連鎖的な収入を得ていくという収入モデルを説明されていた。
だけど、現実的にはそう簡単にはいかない。怪しむ者も多い中、登録する人は僅かだった。いつまで経っても収入が得られず、焦りを感じ、強引な勧誘をする者までいたようね。
問題はそれだけじゃなくて、入会金も30万円と高額で、クーリングオフなどの対応も杜撰だった。
そういった事もあり、金融省が管轄する消費者庁には問い合わせが殺到。後に契約書の未交付や収入条件の隠匿なども判明したことで、SACREDは業務停止命令を受け、事実上、壊滅に至ったわ」
資料をホログラムで展開して説明する、遼子。ビジネスプランが複雑なだけに、深月は当然のこと、愛華や雫も資料が無いとちんぷんかんぷんの内容だっただろう。
遼子は話を続ける。
「ここで、面白い繋がりがあったんだけど、SACREDの実質的なトップが、第一の被害者、前島岳なの。それだけじゃ無くて、人気ゲーム・バレットオブマーセナリーズのトップランカー、DEADPOOLこと藤田洸や、保育士アフィリエイターの米林穂海もSACREDの会員だった。SACRED壊滅後は、後継組織が名前を変えて暗躍していて、殺された7人と行方不明の24人、そして取り調べ中に死亡した、山口稜は、後継組織で違法な収入を得ていたとされているわ。juːˈtoʊpiəにおける人気も、組織的な違法行為によるものだったのかもしれない。
この繋がりを偶然と言うには、ちょっと出来過ぎてると思わない?」
「師匠は、一連の犯人が自己顕示欲による犯行だと推測したんだよね?」
空は何かに気づいたかのように、雫に質問する。
「そうだ。報道件数や検索数に比例して、殺害の間隔が短くなっていたからな。秩序型であり、動機は使命型と快楽型だと考えたが…」
雫は、現状から考えられる犯人像を答えた。
「方向性は合っていると思う。でも、何か引っかかっていたんだ。どうして犯人はjuːˈtoʊpiəのランカーだけをターゲットにしたのかって。で、さっきのりょーちゃんの説明でピンときたんだ。犯人は、自身の持つ正義感から、juːˈtoʊpiə内に潜む、違法ビジネス業者に鉄槌を下しているつもりなんじゃないかな? 」
空の考えに、雫は「そうか…」と何かに気付いたかのように呟いた。
「そうね。犯人への突破口は、被害者から辿って行くのが早いのかもしれないわね。三課から後継組織の現存メンバーリストを取り寄せるわ」
早速、三課へ資料提供を要請をする、梓。
三課からは10分程度で当該資料が送られてきた。本来、各課での資料共有には、お役所的な申請の為、時間を要するものだが、そこは特課権限なのだろう。まるで鶴の一声の如く、必要手続きの一切を省いた要請にも、迅速な答えは帰ってくる。
ここからは陽菜の出番だ。陽菜は、組んだ両手を前に伸ばすと、「よしっ」と呟き、ホロキーボードを叩き始める。
陽菜がやっているのは、リスト全員のjuːˈtoʊpiəアカウントの割出しと、ハッキングによる制御である。
人によっては複数アカウントを持っていたり、裏垢と呼ばれるクローズアカウントを持っていたりと、個人とアカウントを紐付けた特定は難しいものだが、陽菜にとっては子ども用のパズルを組み立てるのに等しい。
陽菜の指は止まることなく、次々と暴かれるアカウント。順調に見えたその時、エラーと共に陽菜の手が止まる。
勝手に何枚ものウインドウホロが展開され、画面いっぱいにスマイリーフェイスのマークが表示されている。
一瞬、陽菜に動揺の表情が見えた。だが、それを慌てて隠すように、指を動かす陽菜。クリアしても次々と現れるスマイリーフェイス。これが、犯人からの"邪魔をするな"という警告だという事は一目瞭然だった。
陽菜の呼吸は荒くなり、額から冷や汗が出てくる。
何度キーボードを叩いても、凌駕するウインドウの出現に、手詰まりに陥る、陽菜。
対処不能となるのに、そう時間はかからなかった。
悔しさでホロキーボードを強く叩くと、ホロキーボードは割れるように消えていった。
「陽菜さん…」
愛華が呟いた。
どうすることも出来ない無力感、絶望感、敗北感に苛まれ、呼吸が荒くなる。そして、陽菜はその場で倒れてしまった。
目からは静かに涙が伝った。
───20日後。
「ようこそ。juːˈtoʊpiəへ」
アナウンスと共に、巨大な扉が目の前に出現する。辺りを見渡すも、扉以外のモノは無く、真っ暗な空間が無限に広がっている。目は見えるのに、自分の手や足を見ようとしても見えないのは不思議な感覚だ。
「juːˈtoʊpiəは、あなたの為に存在するもう一つの居場所です。アクセスはお持ちのHMDから簡単に行うことができます。では、あなたもこれからjuːˈtoʊpiəの世界を体験してみましょう」
感覚だけを頼りに、力いっぱいに扉を押すと、眩いばかりの光に包まれてしまった。
「まずはあなたのアバターを設定しましょう。アバターとはこの世界における、あなたの分身です。容姿や服装など、あなたの思うままに着せ替えできます。おや、随分とかわいいアバターができましたね」
再び目を開くと、何やら自分の姿を決めるよう指示される。魂の入れ物。現実世界においても、もしかすると肉体は魂の入れ物に過ぎないのかもしれない、そう思いながらアバターを選ぶ。
まん丸の目をした、ウサギのようなアバターが出来上がった。
「あなたの個人情報は、juːˈtoʊpiəの世界一高度なセキュリティによって、厳重に守られます。安心してこの世界を楽しみましょう」
どこからともなく美しい歌声が響き渡る。
「おい!始まるぞ!!!」
「え? ゲリラライブ?」
「これぞ歌姫」
「もしかして生配信なの?」
「やばい!最高」
「歌声きれい過ぎ」
歌声に魅せられるように、juːˈtoʊpiəの街全体が騒がしくなる。
全体のボルテージが最高潮を迎えた時、一瞬にして真っ暗になる、juːˈtoʊpiəの街。喧騒は嘘だったかの様に静まり返る。
そして…。
バンッと明かりが点くと、上空に巨大な白鯨が舞う。
白鯨の上には、人々を魅力し、優雅に歌う1人の姿があった。そう。彼女こそ、juːˈtoʊpiəの歌姫・LUNÄ。
『♪ 目を開くと映るのは 自分視点で広がる世界。
私は問おう どうしてこんなにも暗くて冷たいの
子どもの頃に思い描いた未来図は
ただの御伽話だったなんて とても寂しい
学校では教えてくれない
親も教えてくれない
適齢になると放り出されるだけ
そういうシステムだから
国も 親も 友達も
誰一人として助けてくれない
何故なら 他人に私の苦しみを理解することなんて出来ないのだから
私は十分に抗ったじゃない
せめて自分自身で褒めてあげないと
報われないじゃない
そうやって また現状に目を閉じる』
大歓声が湧き上がる。
彼女の正体は誰にも分からない。 17日前に突如として現れ、その圧倒的な歌唱力に、人々は魅力されていった。現れてからたった5日で、2,500万人のフォロワーを獲得した、稀代の歌姫は、今、最も注目されている一人であった。
一方、juːˈtoʊpiəにも闇が存在する。ルールの穴を突いた、違法な取引や仕事、情報売買が実在するのも事実。
立ち上がるスレッドに、一つの疑惑が書き込まれる。
『 謎の歌姫・Lは、詐欺ビジネス・PROTO-STARの会員である。 』