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公安四課  作者: やん
26/52

FILE.25 毒に根付く華

■■■四課 電脳ワールド■■■


四課オフィスと変わらない風景。視覚(しかく)感覚(かんかく)聴覚(ちょうかく)だけで無く、嗅覚(きゅうかく)味覚(みかく)まで再現された、0と1の空間。


空間に5つのノイズが一瞬(いっしゅん)(しょう)じたかと思えば、転送されてきたメンバーの姿が足下(あしもと)から(あらわ)れる。


「みんな、急な呼び出しごめんね。情報を共有しておきたくて」

今回の招集者(しょうしゅうしゃ)は、陽菜(ひな)だった。


「ん? (そら)遼子(りょうこ)がいないな…」

雫は、ソファーの肘置(ひじお)きに(あし)を組んで座ると、違和感(いわかん)に思ったのか辺りを見渡した。


陽菜は再度招集(しょうしゅう)シグナルを(はっ)するが、2人が呼び掛けに(おう)じることは無かった。


■■■■■■■■■■■■


千代田区市ヶ谷466-反戦同盟会事務所。


爆破による砂埃(すなぼこり)閃光手榴弾せんこうしゅりゅうだんによって視聴覚(しちょうかく)(うば)われる中、レーザー(こう)が室内を()している。


「こちらセイバー。聖杯(せいはい)破壊(はかい)未確定(みかくてい)。繰り返す。聖杯(せいはい)破壊(はかい)未確定(みかくてい)。送れ」

閃光音(せんこうおん)の影響が落着き始めると、数人の足音と無線機のノイズが(かす)かに聞こえた。砂埃(すなぼこり)舞う空間が徐々(じょしょ)に鮮明さを取り戻していく。


爆破によって吹き飛んだソファーは、壁の(すみ)に立て掛けた状態となり、左右をラックが重なっている。(わず)かな隙間(すきま)から様子を見る、遼子。空は反戦同盟会(はんせんどうめいかい)代表の口を(ふさ)ぎ、「しーっ」とナイショポーズをした。


室内に突入した数は恐らく5名。重火器(じゅうかき)の構え方、無駄のない突入の動き。国防軍の対テロ特殊部隊だろう。


遼子は静かにナイフを取り出す。空が手信号を送ると、遼子はじりじりと(ねら)いを(さだ)めた肉食獣(にくしょくじゅう)のように隙間(すきま)から身を出す。まさにメスライオンの(ごと)く。


ほんの一緒だった。男の野太(のぶと)悲鳴(ひめい)が聞こえたのは。機関銃(きかんじゅう)から(はな)たれる銃弾(じゅうだん)は、砂埃(すなぼこり)がスモッグの役割を()たし、線香花火(せんこうはなび)のように()っていく。

反戦同盟会代表の男は、圧倒的な力を目の当たりにし、自分達が相手をしていたのは怪物だったと(さと)る。そして、その光景を美しいと思った。


時間は()からなかった。部隊の全員が()じ伏せられ、そして"生かされて"いた。


空に引っ張られ、隙間(すきま)から出た反戦同盟会代表の男は抵抗も無く、呆然(ぼうぜん)のままに手錠(てじょう)をかけられた。


「さすが。りょーちゃん!さて、皆が待っている。応答しようか」

空は笑顔で言った。


空と遼子はグータッチをした後、それぞれのデバイスを操作した。


■■■四課 電脳ワールド■■■


陽菜が最初に呼びかけてから10分は経過(けいか)していた。どんな状況下(じょうきょうか)でも、招集(しょうしゅう)に応じない事など無かった2人。メンバーに不安が(よぎ)る。


「遅れてごめん」

遼子(りょうこ)の声だった。ノイズと共に、2人が姿を(あらわ)すと、全員が(おどろ)いた。


「2人とも、その姿どうしたんですか?」

真っ先に口を開いた愛華(あいか)。2人とも、まるで火事現場から出て来たかのようにボロボロだった。


「見たまんまよ。反戦同盟会(はんせんどうめいかい)の代表を尋問中(じんもんちゅう)襲撃(しゅうげき)されたの。幹部達(かんぶたち)は全員死亡。代表の氷見吉史(ひょうみよしふみ)は生きてるけど、腰椎損傷(ようついそんしょう)重傷(じゅうしょう)よ」

遼子はざっと状況を話すと、肩の(よご)れを払い()ける仕草(しぐさ)をした。


2人に怪我(けが)が無いことに、ホッとした一同。


襲撃者(しゅうげきしゃ)はたぶん、国防軍の特殊部隊(とくしゅぶたい)だ。所属(しょぞく)作戦背景(さくせんはいけい)はこれからの尋問(じんもん)で見えてくるだろうけど、そう簡単には口を()りそうにないだろうね」

空はハハハと苦笑(にがわら)いをした。


「第五課の調査(ちょうさ)通り、反戦同盟会(はんせんどうめいかい)は、国防省への大規模デモを計画していた。その(ため)に必要だったのが、国防軍が極秘裏(ごくひり)に実行したオペレーション情報だ。当然(とうぜん)国家機密(こっかきみつ)。情報にはいくつものプロテクターが()かっていて、(なみ)の方法じゃ入手できなかった。そこで利用したのが、国際ハッカー集団・ディスクロージャー。多額(たがく)の資金を用意し、反戦同盟会(はんせんどうめいかい)は情報を手に入れた。だけど、入手した情報は何者かのハッキングによって(うば)われ、その5日後に国防省へのテロが発生した…。

ここからは、俺の推測(すいそく)なんだけど、テロ首謀者(しゅぼうしゃ)反戦同盟会(はんせんどうめいかい)から情報を(うば)った人物は同一人物じゃないかと思うんだ。

首謀者(しゅぼうしゃ)は、とあるオペレーション情報を入手する必要があった。一方、反戦同盟会(はんせんどうめいかい)にとっても、国家の弱みとなる情報は(のど)から手が出る程欲しかった。だから、首謀者(しゅぼうしゃ)は、反戦同盟会(はんせんどうめいかい)に近づき、" 情報を使ったデモの実行 "を()()けて、情報を入手させた。情報さえ手にすれば、反戦同盟会(はんせんどうめいかい)用済(ようず)みだ。口封(くちふう)じに、情報漏洩(じょうほうろうえい)の事実を国防省にリークして、国防軍に反戦同盟会(はんせんどうめいかい)殲滅(せんめつ)させた。国家の内部事情(ないぶじじょう)裏社会(うらしゃかい)の状況をある程度知ってなきゃ出来ない犯行だ」


「なるほど。たしかに(すじ)は通っている。だが、口封(くちふう)じってんなら、もっと早いタイミングがあっただろう? 公安が動けば首謀者(しゅぼうしゃ)の動きも(ふう)じられ、足が付く可能性だって高まる。テロ実行前に国防軍へリークしておけば、公安が出るまでも無く、国防軍と反戦同盟会(はんせんどうめいかい)のゴタゴタで()む。そうすれば、国防省の管轄(かんかつ)になり、その(あと)に発生したテロとの関連性が(うだか)わしくとも、公安は簡単に手が出せない。これだけの緻密(ちみつ)な計画をやる犯人だ。そのくらいの手を打たない訳がないと思うが…」

眉間(みけん)にシワを寄せたまま、空を見る、雫。


「公安もターゲットってことね」

梓が()って入るかのように口を開く。


「何?」

雫は梓を見た。


「首謀者の目的がテロじゃないとすれば辻褄(つじつま)が合うと思うの。

第一(だいいち)第二(だいに)のテロは、公安の目を本来の目的から()らすための揺動(ようどう)なんじゃないかしら。だからこそ、目的達成まで公安の足を確実に止める必要があった。ただ、テロだけでは班を分けられ、余力(よりょく)を向けられる可能性を犯人は考えた。だから、証拠隠滅(しょうこいんめつ)ついでに、捜査の手が(およ)んだ反戦同盟会(はんせんどうめいかい)に国防軍を仕向(しむ)けた。捜査官に死傷者(ししょうしゃ)が出れば人員的に操作の手が及びにくくなる。出なくても、テロとの関連性ばかりに目が行っている間に目的を成就(じょうしゅ)できるわ」

梓の説明で、雫も「たしかにな」と思わず(つぶや)く。


「じゃあさ、首謀者の目的って?」

深月(みづき)には難しい話だったようだ。考え過ぎてオーバーヒートしたのか、完全に頭から(けむり)を出している。


「首謀者が入手した、オペレーション情報が(かぎ)となるんじゃないでしょうか? 首謀者は、非合法(ひごうほう)のオペレーションによって何らかの被害を(こうむ)った。そして、入手した情報を目にして真実を知った。だからこそ、目的は2つ。1つ目は、テロによる関わった高官(こうかん)殺害(さつがい)です。これは個人への復讐(ふくしゅう)です。2つ目は、国防省の違法性(いほうせい)の公開です。公開された情報で国民感情(こくみんかんじょう)(つか)み、クーデターが起これば、国防省、引いては国家への復讐(ふくしゅう)になります」

愛華の説明は(さなが)ら、板書(ばんしょ)を綺麗に書き写したノートのように、要点が(まと)まり、丁寧(ていねい)だった。かつて、授業嫌いで学生時代を()ごした深月も聞き入っていることに、他一同は感心していた。


「流石に説明上手(じょうず)ね。教師にもなれそう」

遼子の()め言葉に、「そんなー」と(ほお)に手を置き()れる愛華。そんな愛華のリアクションにはツッコミせず、続ける遼子。

「愛華の言う(かぎ)は、恐らくこれよ」

遼子は、氷見(ひょうみ)から押収(おうしゅう)した情報を全員に送信した。


その情報を見て、陽菜と愛華が驚いたように目を合わせた。


「リバース・メジャーメントで愛華ちゃんが見つけた、"アレ"。まさか国防軍は───」


■■■■■■■■■■■■


千代田区214-国防省第二庁舎 1階フロアー。


「今までどこに?」

梓の(するど)い視線。その先には、木戸章平(きどしょうへい)の姿があった。


「命令に無いことは話せません…」

視線を下に()らす、木戸(きど)


「やめときな。あんたみたいなのにスパイ行為なんて(ムズ)過ぎるから」

深月は、木戸(きど)の全身をスキャンするように、ゆっくりと木戸(きど)の周りをぐるっと歩いた。


深月を目で追う木戸(きど)(ひたい)からは汗が(したた)る。何故(なぜ)、スパイ行為を(めい)じられた事がバレたのか、まさか心を読まれたのか、と自問(じもん)していた。


「心を読んだ訳じゃないわ」

梓の一言に、ハッとした表情で振り向く、木戸(きど)

「ノンバーバルコミュニケーション。人が無意識に発信(はっしん)するサインのことよ。あなたの表情、顔色、視線、身振り手振り、姿勢、それに生理現象…等々(とうとう)を判断材料に、さっきまでいた大佐と一緒に消えた状況も考慮(こうりょ)に加えた帰結(きけつ)です。深月はその上で直感にも(すぐ)れてるわ。その反応じゃあ、当たっているようですね」

梓は見透(みす)かしたように(はな)で笑った。木戸(きど)(うつ)き口を(つぐ)んだ。


「あんたが黙秘(もくひ)を続けるのは勝手(かって)だが、こちらもそれなりに情報を()ている。岩城祥一(いわきよしかず) 元空軍少佐(もとくうぐんしょうさ)を知っているな?」

雫は()れったくなり、確信となる名前を出した。


何故(なぜ)岩城(いわき)さんの名前がここで…」

岩城(いわき)の名前に思わず口を開く。


「現場で発見されたドローンを解析(かいせき)したところ、電波の発信源(はっしんげん)特定(とくてい)された。そして、テロ発生時(はっせいじ)付近(ふきん)の識別スキャナーに岩城(いわき)検知(けんち)されていた。当然、防犯ドローンにもだ」

雫は、防犯ドローンの映像を展開した。それを(のぞ)き込むように見た、木戸(きど)は目を()いた。


「そんな…馬鹿(ばか)な…。岩城(いわき)さんは作戦中に行方不明となったはずです。事実上(じじつじょう)、戦死に近いと聞かされています」

木戸(きど)は言葉を失った。


木戸(きど)にとって岩城(いわき)は、自衛官時代から道を(しめ)してくれた、恩人(おんじん)であり、敬慕(けいぼ)すべき先輩だった。岩城(いわき)もまた木戸(きど)を信頼し、弟分(おとうとぶん)として可愛(かわい)がっていた。だからこそ、『ネックブリーカー作戦』で、結果的に岩城(いわき)を見捨てたことに自責(じせき)の念に(とら)われ、死を受け入れる事ができなかったが、"生きていた"ことに、喜びの反面(はんめん)動揺(どうよう)する自分がいた。


「でも、こうして検知された。識別スキャナーに検知されたという事は、"生きていた"ということになります。そして、あなたのIDが登録されたドローンをわざわざハッキングしてまでテロを実行した。あなたを(おとしい)れるために」

梓は、防犯ドローンの映像を切り替えた。そこに映るのは、岩城(いわき)らしき人物がコントローラーの様な物を操作している場面だった。


「違う! 岩城(いわき)さんは、他人を(おとしい)れる様な(きたな)い手を使う人じゃない!!!」

梓の指摘(してき)に、苛立(いらだ)ちを(おさ)えられない、木戸(きど)


「じゃあさ、ここに映るのは誰さ? この男は人気(ひとけ)の無いこんな場所で何をしてるのさ?」

深月は、容赦(ようしゃ)無く追求(ついきゅう)する。

「それは…」

返答に言葉が()まる、木戸(きど)


「では、質問を変えましょう。帰還(きかん)した岩城祥一(いわきよしかず)が最初に立ち寄るとするならどこだと思いますか? やはり家族、配偶者の(もと)でしょうか?」

梓の質問に、再び顔色を(くも)らせる木戸(きど)


岩城(いわき)さんには、華恋(かれん)という配偶者(はいぐうしゃ)がいました…」

少し間を置き(あと)、重い口を開く木戸(きど)


「"いました" ということは…」

梓は確認する。


「はい。7ヶ月前に死にました。自殺(じさつ)だと聞いています」

後悔しきれない思いを抱えているかのように、目を強く(つぶ)木戸(きど)


華恋(かれん)と自分は、防衛大(ぼうえいだい)時代からの同期でした。卒業後は2人とも同じ部隊に配属(はいぞく)。自分はドローン機操縦(そうじゅう)華恋(かれん)は作戦オペレーターでした。彼女は、先輩であった岩城(いわき)さんと結婚し、退官(たいかん)。お腹には子どもがいたと聞いています。しかし、2人の幸せは続かなかった───」



───7ヶ月前。


「突然呼び出してごめんなさい」

開口一番(かいこういちばん)謝意(しゃい)だった。


「いえ、、、」

彼女の絶望(ぜつぼう)に満ち(あふ)れた顔を見て、それ以上の言葉が出ない、木戸(きど)。彼女こそ、岩城祥一(いわきよしかず) 少佐(しょうさ)が愛し、(すこ)やかに強く生きる事を願った、(つま)華恋(かれん)だ。


一昨日(おととい)軍関係者(ぐんかんけいしゃ)が来て、夫が行方不明(ゆくえふめい)事実上(じじつじょう)の戦死だと聞かされたわ」

華恋(かれん)の口から出た、"戦死"という言葉が重く響く。軍部による配慮(はいりょ)なのか、妻に対する敬遠(けいえん)なのかは分からないが、作戦の数日後にはウルフ部隊8名のMIAを判断していた国防省。夫の生還(せいかん)を願い続けた妻にとって、一ヶ月、待たせるだけ待たせて、知らされた事実は無情(むじょう)だった。


華恋(かれん)は言葉を()まらせながら、何とか悲しみを飲み込もうとしていた。木戸(きど)は見ていられず、思わず顔を(そむ)けた。


「ねぇ。木戸(きど)くん。たった一ヶ月よ? 一ヶ月しか()っていないのに捜索(そうさく)打ち切りなんて…。木戸(きど)くんは何か知ってるんじゃないの?」

(こら)えきれない涙が(せき)を切ったように(あふ)れ出す。行き場の無い感情をぶつけるかのように、木戸(きど)の胸に何度も(こぶし)(たた)き付けた。


木戸(きど)の絞り出すような「すみません」という一言に、華恋(かれん)の心が死んでいくのが分かった。一縷(いちる)の希望すら()たれ、絶望の底へと()ちて()く表情が木戸(きど)脳裏(のうり)焼付(やきつ)く。それ以後、彼女がどんな顔をしていたのか、思い出すことさえ困難な程に。



───現在。


「その2日後、華恋(かれん)はマンションから飛び降りたと聞きました。お腹の子と一緒に。即死(そくし)だったと…」

奥歯(おくば)()み締める音が(ひび)く。


「あんた、また後悔するの?」

深月は、木戸(きど)の周りをぐるぐると歩いていた足を止め、胸ぐらを(つか)んだ。


「先輩の岩城(いわき)が行方不明になった時も後悔。同期で先輩の妻が自殺した時も後悔。あんたはずっと後悔だけして、何も決めない。何も動かない。そんで今度は生きてた先輩がテロリストだと知って、何もせず後悔しようとしてる。楽だよな。後悔だけしてれば(きず)つかないんだから。岩城(いわき)がどうしてテロリストになったかは分からない。でも、このままじゃ、また多くの犠牲者(ぎせいしゃ)が出る。それこそ、一般人にだって出る可能性は高い。あんたの先輩は(ほこ)り高くて、誰もが尊敬(そんけい)する軍人(ぐんじん)だったんじゃないの? だったら、あんたが()めてやんなきゃいけないんじゃないの?」

胸ぐらを突き放す、深月。一喝(いっかつ)木戸(きど)にどれだけ(ひび)いたかは分からないが、ハッとした表情で木戸(きど)は口を開いた。


「もしかして、華恋(かれん)の死は……。」

ボソっと(つぶや)くように言った、木戸(きど)

「今回のテロ事件、場所は本庁舎(ほんちょうしゃ)36階と第二庁舎(だいにちょうしゃ)4階でしたよね?」

何かを思い付いたように、確認する、木戸(きど)


「そうよ。むしろそこ以外の被害は無いわ」

梓は、被害状況のマッピングデータをホログラムに出した。


「ネックブリーカー…」

木戸(きど)は目を()き、(つぶや)く。


(なに)?」

いち早く反応したのは、雫だった。


「すみません、自分は上官(じょうかん)に確認しなくてはいけない。失礼します」

血の気が引いたような顔をしながら、足早(あしばや)にその場を()る、木戸(きど)


「おい、待て」

雫が呼び掛けた直後、デバイスからコールが()る。


「みんな聞こえる?」

指向性音声(しこうせいおんせい)を使って聞こえる、空の声。


特殊部隊(とくしゅぶたい)()し向けた人物が分かったよ。青木隆(あおきたかし) 国防軍(こくぼうぐん)空軍(くうぐん)統合本部(とうごうほんぶ)中将(ちゅうじょう)。表向きの作戦目的は、内乱分子(ないらんぶんし)殲滅(せんめつ)。"その場にいる(もの)、全てに内乱罪(ないらんざい)適応(てきおう)し、執行(しっこう)せよ" というのが命令だったようだね。隊長以下(いか)5名は、作戦の本質(ほんしつ)を知らされていない。

気になるのは、"制圧(せいあつ)"ではなく、"即時執行(そくじしっこう)"ということだ。可能性の話だけど、青木(あおき) 空軍中将(くうぐんちゅうじょう)は、反戦同盟会(はんせんどうめいかい)殲滅(せんめつ)が、テロ首謀者によって仕向けられている事も承知の上で、乗っかったんじゃないかな? 国防省にとっての不都合(ふつごう)()み消すために。そして、その背景には、愛華ちゃんが見つけた、"アレ"があると思うんだ」

空の報告により、不透明だった全貌(ぜんぼう)が見えてくる一同。


「どちらにせよ、公安への越権行為(えっけんこうい)捜査妨害(そうさぼうがい)看過(かんか)することは出来ない。場合によっては、国防軍によるクーデターに繋がりかねない。私達(わたしたち)は、青木(あおき)を追うわ」

遼子から送られてきた、国防軍への強制捜査礼状きょうせいそうされいじょうに迷う事なく許可をした、梓。


「了解よ。陽菜、聞こえてる? 」


「もちろんよ!」

梓の呼び()けに、すかさず(おう)じる、陽菜。


「陽菜と愛華で、反戦同盟会(はんせんどうめいかい)から押収(おうしゅう)した情報を(もと)に『ネックブリーカー作戦』の詳細と"自殺"した岩城華恋(いわきかれん)の死因を調べて」

梓の指示に、陽菜と愛華は口を(そろ)えて「了解」と返答した。


各自(かくじ)の通信がプツリと切れる。切断音と共にテロ事件の収束(しゅうそく)に第四課は動き出すのだった。


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