FILE.18 独裁支配のイデオロギー
随所で上がる炎は空をも焦がし、夜空を覆った。匂いすらも熱を帯び、まるで昼のように明るく街を包む中、仮面の連中と暴徒達は四課によって取り押さえられていた。
「このエリアはこれで全部です」
疲労の表情で、息切れしながら口頭で報告する、愛華。
「なんで俺達が捕まらなきゃいけないんだ。お前らが無能だから代わりに仮面の奴らから街を守ってただけじゃないか」
取り押さえられた市民は、暴徒として暴れていたと思えぬ程に面影は無かった。
「それはそれ。これはこれよ。あなた達の行為は明らかにやり過ぎよ。あなた達が顔も分からなくなるくらい殴り殺した、あの遺体を見ても同じことを言えるかしら」
陽菜は、男の頭を無理矢理に遺体に向けて言った。男は、"殺人"の事実から目を背けた。
周囲にはミツバチ型ドローンが何匹も飛んでいる。仮面を着けた連中、暴徒と化した一般市民、ともに数も勢いも圧倒的だったが、口約通り5分で改造したミツバチ型ドローンの活躍で、仮面の効果を阻害し、エンフォーサーによる執行が可能となった事で形成は逆転した。仲間が目の前で執行される事で、抗えない力による自分の"死"が明確化する。今、路上にひれ伏しているのは、国家権力を前にした、名も無き"市民"だった。
「人殺し」
一人の男が、愛華にそう言った。男はエンフォーサーで執行された遺体に縋り付くような体勢で、たくさんの涙を目に浮かべ、悔しさと怒りを滲ませていた。
愛華は何も言い返せず、思わず目を逸した。そして、自問自答する。エンフォーサーで執行した人は、元は善良な一般市民。仮面の連中が現れなければ、暴動さえ起きなければ、傷付き、死ぬことすら無かった命だ。その命を自分は奪ったのだ。翳した、治安という名の権力は本当に正しかったのか…と。
「一人一人に向き合いなさい。命を失った者達の為にも、決して事実から目を背けず、あなた自身が法の模範として在り続けるのよ」
梓は愛華の肩を叩いた。愛華は無言で頷くと、静かに立ち上がった。
「彼らも被害者ね」
梓は、警務ドローンによって身柄を押さえられている者達を見て、一言呟いた。
「はい…日常に脅威が迫らなければ、公安が未然に暴動を押さえ込んでさえいれば、彼らが暴徒になる事なんて無かった…」
悔しそうな表情の愛華。
「そっちじゃなくて、仮面の連中よ。仮面を取ってみれば、虫の一匹すら殺せない顔をしてるわ。誰しもが抱えている心の闇に付け込まれ、利用された彼らも、ある意味新宮の手の上で踊らされていた、被害者なのよ」
陽菜の言う通り、仮面を外した素顔は、狂気に怯える弱者の顔、一般市民と何ら代わりは無かった。
「それにネット情報を見たんだけど、攻撃的な方向に偏ってるの。これも新宮の情報操作で、仲間のハッカーがやっているのだとしたら…」
ハッカーにはそれぞれ癖のようなものがある。陽菜はこれまでの事件を検証する中で、共通の"癖"を見出していたが、今回の暴動にも同じ癖が見て取れた。それは同じハッキングに精通した、陽菜だからこそ見抜けたものだった。
「私達、公安が各所に散って暴動を鎮圧するのも折込済みってことになるわね」
梓はそう言うと、警邏車に戻り、ホロマップを車内に展開した。陽菜と愛華が警邏車に戻ったときには、マップに暴動の発生場所がマッピングされていた。
「新宮はいつだって、何かの答えを問いかける犯罪を起こしてきた。今回の暴動も、暴動自体が目的では無く、何か別にあるとするならば、それは公安が暴徒鎮圧で散った先に手薄となる場所が目的の可能性が高い…」
マッピングに違和感を覚えながら推察する、愛華。
「そうね。陽菜、暴動発生場所のマッピングに合わせて、捜査官、警務ドローンの現在地を表示。その上で警備が手薄のエリア且つテロの標的になり得る場所をピックアップしてくれるかしら」
梓の指示が終わる間もなく、陽菜の指はホロキーボードを素早く叩いていた。
次々と見える化すればするほど、明確に穴となっている箇所が一箇所だけ浮かび上がった。
「今、警備体制が希薄になっているエリア…新東京庁舎タワー。厚生省管理の下、総務省、法務省、財務経済省、内閣省が集約されている5省一庁舎。だけど、官僚しかいない建物に何の用かしら。まさか、大臣や官僚の殺害…とは考えにくいけど」
推理をしながら、新東京庁舎タワーの防犯システムにハッキングを仕掛ける、陽菜。
「ええ、大臣や官僚の殺害程度が目的なら、わざわざ公安の戦力を分散する為に、ここまで大規模なテロを起こす必要がない。むしろ、非常事態の今、我先に安全地帯に逃げる大臣や官僚が、庁舎タワーで仕事に勤しんでいるなんて思えない。もぬけの殻となった庁舎タワーを襲撃する理由は、別にある…。新宮のこれまでを考えれば、行動の先には必ず一般市民への問い掛けがあった。今回も同様なら、例えば、建物内に社会秩序を維持する"何か"があって、それを破壊もしくは露呈することで、国民感情へ問い掛けるつもりかもしれない。もし、国民が受け付けないものであれば、国家は根底から成り立たなくなる」
梓は、黒幕が新宮であるという前提で推測していたが、それには絶対的な自信があった。テロの計画、準備、実行には、識別スキャナーに引っ掛からない異分子である必要性があるが、それに加えて、既存の常識に囚われない思考と知性、英雄的・預言者的資質、空間演出能力の全てを備えた、カリスマ性を持つ知能犯は新宮以外に検討がつかなかった。そして、梓自信、新宮と似ている所を見出していた。
「さすが、中央省庁が集約しているシステムね。壁が厚い。でも、梓の読みに間違いは無さそうだよ。既にサイバー攻撃を受けている形跡があるの。恐らく、テロリストの1人、凄腕ハッカーの仕業ね。当然、セキュリティへの攻撃もあるけれど、建物の構造を念入りに調べている。つまり、梓が言うように、建物内の"何か"が狙いね」
陽菜の目には、膨大な量のプログラム言語が映っていたが、陽菜には、彼女の眼として動くAI・ハニーが見ている景色が見えていた。それはまるで、入り組んだ迷路のような空間で、数々の防壁を突破していくかのようだった。
「奴らの真の目的は、新東京庁舎タワーで間違い無いようね。第四課はこれより、新東京庁舎タワーにおけるテロリスト集団の鎮圧、執行に移行。愛華、空と遼子に連絡を」
梓の指示の直後、警邏車はサイレントを鳴らし走り去る。暴徒の姿は無くなったが、破壊尽くされた光景と遺体が残る一帯は、暴動直後の異様な生々しさ染み付いていた。
都内、別場所。
「よく二人で頑張ったね」
それは聞き覚えのある声だった。声の方向へボヤける視線を向ける、空。そこには、小柄で、右の髪だけ括った女性が立っていた。その姿を見て、安堵の表情を浮かべる、空。
「お帰り。みーちゃん」
視線の先に、河下深月の姿があった。空は涙ぐみそうな所をぐっと堪えた。それほどまでに嬉しい再会だった。
「ただいま。もう少し感動の再開に浸りたいんだけど、まずはこいつらを何とかしなきゃね」
迫る暴徒の狂気など、指先で遇うかのように、スタンバトンを使い身軽な動きで仮面を無効化すると、エンフォーサーの引金を数回引いた。エンフォーサーの銃弾は、仮面の有無に関係無く、暴力行為をしている数名の命を一瞬で掻き消した。
「まだやるってんなら、いくらでも相手になるけど、死にたくなかったら今すぐ降伏しなさい」
深月の覇気ある一声で、その場の狂気は押し殺され、暴徒は一斉に降伏姿勢を取った。仮面を着けていたテロリスト集団は、仮面を外し、悔しそうな表情を浮かべ、暴徒と化した一般市民は不満そうな表情を浮かべたが、深月の一方的な暴力に、誰一人として異論を発することはできなかった。
刑務ドローンが次々と暴徒達を囲み、一人一人に手錠をかける中、深月は嬉しそうな表情で空の元にやってくる。空はゆっくりと起き上がり、褒めてほしそうな深月の頭を2、3回ポンポンと優しく叩いた。
「急いでたから刑務車に乗って来たんだけど、医療設備も整ってるし、遼子も刑務車に乗せちゃおっか!」
深月は刑務車を指差した。
「そうだね。ありがとう。みーちゃん」
空は立ち上がると、気を失っている遼子を抱き上げ、刑務車に入っていった。深月も乗ったところで刑務車の扉は閉まる。ガシャンという閉音は、暴動が嘘だったかのように静まり返ったその場で響いた。
都内 某廃棄区画。
「新宮さん。あんたとの道が生死の綱渡りだってことは分かっていた。でもね。それでもあんたについて行く道を選んだ。だって可怪しいんですもん。国民管理システムって。全国民を24時間365日、1秒間に68回も生体情報を監視し続けるなんて正気の沙汰じゃない。体温や健康状態だけでなく、思考と精神すらも数値化して、行動予測を割り出し、行動指針を提供する? そんな凄い技術は謳い文句だけで、実際はブラックボックスだ。こんな透明性の無い技術を受け入れ、常に監視されている生活を強制されることが当たり前となっている国民も大概ですよ。まぁ、それでも外国人の俺がこうして生きていける社会というだけでも、ありがたい事なんですが」
この時代には珍しく、自動運転でない大型バスをのハンドルを握る、劉睿泽。
「僕はここで育ったんだ。唯一の居場所が訳の分からない物に支配されているなんて、僕にとっては死活問題だよ」
一瞬、寂しそうな表情をした、新宮。
「こいつらもあんたと同じだ。そして、あんたが破壊した先の世界を見たいと思っている。きっと良い働きをするはずです」
バスの後部席には、50名ほどが座っていた。どれも、目の辺りに二つの丸い穴、口には横長の四角い穴が空いた、真っ白な面を着けていた。
新宮は静かにフッと微笑む。その笑みは静か故に、不気味さも垣間見えるが、本質はもっと深淵なるものであるのをバス内の全員が感じていた。
「俺は国民管理システムの実態を血眼になって探ってきました。主要都市に設置した、量子コンピュータを並列化し実現した、究極の国民生活支援システムってのが国家による謳い文句なんです。たしかに、全国民の生体情報を常に取得し、解析するともなれば、グリッドコンピューティングでの膨大な処理が必要となる。当然、数値化した情報はネットワークを経由させるはずなんですが、検証すればするほど、データの流れが可怪しいんですよ。データフローネットワークがどうやっても検出できない。そこで気づいたんです。取得した情報はネットワークを介してシステムに蓄積するのでは無く、システムの完全なるスタンドアローンによって、各スキャニング機器との同一化をしているのではないか、と。そうすれば、全てに辻褄が合う。その証拠に、電力消費が異常値にも関わらず、検知直後に改竄されている箇所が一箇所だけありましてね。それが、新東京庁舎タワー」
劉睿泽は、楽しみを前にワクワクを抑えきれない子どものような表情で語った。
「不可視のシステム相手によくここまでの予測をつけたものだ。やはり君は天才だね」
新宮もまた、高揚感を抑えきれない表情をした。
「不可解なのはその性能ですよ。それはもう既存の量子技術を超えたスループットを発揮していることになる。そんな超技術を一箇所に、それも目に付きやすい場所に置いておくなんて、リスクでしか無い」
ゆっくりとブレーキを踏む、劉睿泽。停車したバスの前方には、ライトアップされた、新東京庁舎タワーがそびえ立っていた。
「となれば、リスクを犯してまで保ちたい秘匿性がここにあるというわけだね?」
バスを降りた、新宮の背後から、まるで誘うかのように、タワー入口へと強い風が吹いた。
「その通り。明らかに胡散臭いシステムですよ。こうなれば、この目で確かめなくては気が済みませんよ。既に、AIがセキュリティを掌握済みです」
その手には、小型デバイスが握られていた。劉睿泽には、全知全能の腸のように見えていた。
「さぁ、社会を映すという神の御鏡が、真に映しているものを一つ暴きに行こうか───」
入口を警備しているドローンは、新宮の侵入を許すかの様に、入口を開けるように倒れた。
都内某高速道路。
未だ、ブブゼラのような怒号が鳴り止まず、火災で夜とは思えないほど明るい首都街。被害を免れ、夜の暗闇が包む高速道路を、1台警務車と数台の警務ドローンがサイレンを鳴らし走っていた。
警務車内には、梓、空、陽菜、深月、愛華が座っていた。遼子はカーテンの向こうで、治療中だった。
「空と遼子にコールしたら、深月が応答するとは思わなかったわ───」
───30分前。回想。
普段以上に発信音が鳴り続き、心配になる愛華の想いを余所に、応答した声は軽快だった。
「はーい!ん?その声は愛華かな?」
懐かしく、どんな状況でも前向きにさせてくれる温かい声。
「深月…」
梓は呟いた。
「深月…さん? 深月さんなんですか?」
愛華は涙を浮かべ確認した。
「そだよー。あたし以外に誰がいるのさー。まぁ、みんなには心配かけちゃったし、感動の再会をしたいんだけど、まずはこの暴動をなんとかしなきゃね」
深月の元気そうな声に、梓と陽菜は必死で涙を堪えていた。
「元気そうじゃない。深月。あなたの言うとおり、暴動を止めなきゃね。深月が応答したってことは、空と遼子とは合流したってことよね?」
泣き崩れる愛華の代わりに、陽菜が確認した。
「うん!でも、暴動の中心人物と戦闘になって、二人とも負傷してる。空は痣を作ってるけど軽傷、遼子は命に別状は無いけど意識を失ってる。今、警務車内の医療パックで治療中よ」
二人の状況に安堵する、梓と陽菜。思わず、二人揃って"良かった"と声が漏れる。
仕切り直すように、少しの間を空け、梓は方針を切り出した。
「テロの首謀者は、何らかの目的で新東京庁舎タワーに侵入、そして占拠するはず。私達も現地に向かっている。深月達も向かって。エリアK6で合流できるはず。まずは合流よ」
───現在。
「───まだ、意識が戻っていないって思ってたから」
ペスト医師姿の男との銃撃戦で、梓を庇い、意識不明の重体に陥っていた、深月。梓は少し引け目を感じていた。
「ホントはもっと早くに目は覚めてたんだけど、復帰できる身体じゃ無かったから、せめて歩けるくらいには回復してから顔を見せようと思ったんだよね。心配させちゃったし、誰のせいでも無いのに、自分を責めてる子もいるからさ」
深月は穏やかな顔で梓をみる。その表情には、これ以上自分を責めるなというメッセージが込められているようだった。何か吹っ切れたかのように、大きく深呼吸をすると、首謀者・新宮の目的を推論ではあったが説明した。
「───なるほど。梓の読み通り、建物内にある何かしらの"秩序の破壊"が奴の狙いなら、暴動で収まらず、内乱へと発展する。つまり、国家転覆、クーデターを起こす気ね」
奥から絞り出すような声で出てくる、遼子。陽菜は、無理をさせないように静かに座らせた。
「そうだね。組織的で無く、ほとんど単騎でここまでのクーデターを起こそうとするなんてね。群集を煽動し、罪の意識を感じさせることなく犯罪に加担させる…公安庁始まって以来のカリスマだな。そんな男が何を潰すつもりだ?」
痛々しい痣と切り傷を付けた、空。いつもよりも険しい表情をしていた。
「答えは目の前よ。あと数分で着くわ」
陽菜の指摘通り、そびえ立つタワーがみるみる大きくなっていく。
「空、遼子、無理はしないで。車内待機でもいいよ?」
梓は念の為確認したが、杞憂だった。二人はさっさとエンフォーサーに銃弾を詰めていた。
新東京庁舎タワーへ一直線に走る車内。それは突然だった。目的地を目の前に、回転を伴う強い衝撃が全員を襲う。
遠心力さえ感じられる衝撃が落着くと、警務車は横転していた。
幸い全員怪我無く、開く背面ドアから辺りを警戒しながら出てくる面々。そして、原因はすぐに目に映る。
「命中だ」
背後から聞こえてきたのは、狂気に狩られた男の声だった。赤いスーツに、特徴的なピエロのメイク。間違いなく"JOKER"だった。男は、直線距離で500メートルはあるであろう、前方を走る警務車の車輪に、大型トラックを運転しながらスナイパーで狙撃し、命中させたのだった。
大型トラックはそのまま四課メンバーに突っ込み、警務車諸共、数メートル押し轢いた。四課メンバーは全員、難なく交わすが、絶望はそれだけでなかった。
「まさか、警務ドローンにもハッキングしているなんてね」
陽菜の言葉の先には、先程まで引き連れていた、警務ドローンが武装体制でじわじわと取り囲んでいた。陽菜はホロキーボードを出し、何かのコードに打ち込んでいる。その画面には、警務ドローンの構造図が映し出されていた。
「お楽しみはこれからだ」
タバコを吸いながら、運転席から出てくるピエロの男。その両腕には切られた手錠が付いていた。
「逮捕じゃ足りないらしい。今度こそ執行してやるよ」
空と遼子はスタンバトンを振り、前に立った。
「みんな、ひーちゃんがドローンをクリアしたら、先に行ってくれ。ここは、俺とりょーちゃんでやる」
直後、警務ドローンが次々と倒れだした。それとほぼ同時に踏み出す、四課。その足は徐々に早くなり、タワーへと走り出していた。
ピエロの男はゆっくりと胸ポケットからラガーナイフを取り出すと、一直線に投げつけた。
ナイフは真っ直ぐ、愛華の眉間を貫通するように進んだが、突き刺さる寸前、遼子によって叩き落とされた。
空はピエロの男の懐に入ると、スタンバトンを左下から振り上げる。ピエロの男は、好敵手との再会を喜ぶようにニヤリと笑みを浮かべ、スタンバトンを持つ空の右手を抑えると、左手でナイフを突き立てようとした。空も左手を抑え、まるで、暴動地での組合を再現するかの構図となった。
梓、陽菜、深月、愛華は、その隙にタワーへと走っていった。その様子を見届けると、組合を力強く振りほどき、間合いを取る、空。遼子は空の横に立つと、静かに構える。双方の睨み合いは空気を一変させた。
そして、3人は同時に踏み出す。互いに明確な殺意を持って。
新東京庁舎タワー 1階フロアー。
「お二人は大丈夫でしょうか」
ピエロの男との対戦は過去二度とも怪我を負っていただけに、愛華は心配だった。
「大丈夫だよ!今回は!二人とも強いし、今度は逮捕しないから」
深月の言葉に影が垣間見えた気がした。
「あれ、四課の皆さんじゃないですか」
間抜けそうな声の先には、第一課の木嶋丈太郎、結城巧の姿があった。
「てめぇら何でここにいんだよ」
露骨なまでに嫌味ったらしく突っかかる木嶋に、誰もが分かるほどの嫌悪感を出す、梓。
「テロの首謀者がここにいるんだよー」
売られた喧嘩を買う子どものように、舌を出す深月。それに対して喧嘩腰で睨み、お互いの目からは火花が散っていた。
「どうしてお二人はここにいるんです?」
愛華は、深月と木嶋を宥めながら問い掛ける。
「俺たちは元々近くの暴徒を鎮圧してたんだが、ここの警備システムがダウンしたのを察知して、俺らもさっき来たんだ。官庁ビルは、システム異常が発生した場合、公安庁へ緊急アラートが入るだろ?」
奥からタバコの煙を漂わせて出てくる、宮下直也。
「防犯映像をハッキングしたわ。新宮と数名で侵入しているけれど、3階エレベーターで二手に別れてる。新宮は上、もう一人は下。おそらく、もう一人がおそらくハッカーね」
ハッキングした映像を空間に展開する、陽菜。
「ちょうど、二手に別れられるわね」
梓の一言に、木嶋はすぐに応える。
「なら、お前らは上に行け。そいつが首謀者ってことは、お前らと因縁あるんだろ? 」
いちゃもんを付ける割には、人情味ある木嶋の言葉に、梓と深月は珍しい程に優しい表情を送った。
「木嶋さん、遠隔でのサポートは任せてください」
陽菜の心強さに、木嶋も安堵の表情を浮かべた。
「気をつけろよ」
木嶋は一言呟くと、宮下と結城を引き連れて、脇にあるエレベーターを向かっていった。
梓、陽菜、深月、愛華も、玄関ホール正面の階段を駆け上がる。クーデターの最深部へと。