表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公安四課  作者: やん
14/52

FILE.13 SHINGU

大宮区006-新東京MUM銀行。


銀行を老若男女(ろうにゃくなんにょ)が利用するのは、いつの時代も変わらない。サイバー化、AI化、電脳化(でんのうか)といった、電子情報化社会でんしじょうほうかしゃかいがどれだけ進み、"人"の往来(おうらい)が減っても、人to人(ひとひと)対応は無くならない。その一つが、銀行窓口(ぎんこうまどぐち)である。かつての三大メガバンクは合併(がっぺい)し、都市唯一(ゆいいつ)の巨大バンクとなった。窓口、ロビーには、従業員も含め、100人はいた。


人の声が入り混じり、決して静かでは無い店内。突如(とつじょ)として、ソファーに座っていた男が立ち上がり、天井(てんじょう)に向けて突き出した拳銃(けんじゅう)発泡(はっぽう)した。


一瞬(いっしゅん)、店内を冷たい空気が包み、誰もが異常に対し沈黙(ちんもく)したが、それはまたたく間に悲鳴(ひめい)と化した。


その男はピエロのような仮面を付け、冷静(れいせい)に入口へ拳銃(けんじゅう)を向けると、センサーを破壊(はかい)した。

それにより入口が閉ざされたことで、客はパニックに(おちい)った。


「しぃーーーーーー」

騒然(そうぜん)とする店内に響く声。ピエロの仮面を付けた男が発した声だった。声に人々の視線が集まるのは一瞬で、再びパニックによる声が店内に鳴り響く。


「だーかーらー!静かにしろって言ったよね」

仮面の男は大声をあげると、拳銃(けんじゅう)を客に向け、2、3発発泡(はっぽう)した。全ての銃弾(じゅうだん)が、向けられた客の頭を(つらぬ)いた。


悲鳴(ひめい)がピタッと()み、恐怖が支配する空間。


仮面の男は、受付の机に飛び乗ると、従業員に防火扉(ぼうかとびら)を閉めるよう指示。

外の光が遮断(しゃだん)され、恐怖はさらに()き立てられる。


日中、不自然に閉まる防火扉(ぼうかとびら)は、恐怖を演出するかのように、音を立てていた。



公安庁本庁 第四課オフィス。


「私、やっぱり納得(なっとく)いきません」

大声を出したのは、愛華(あいか)だった。


オフィスには、(そら)遼子(りょうこ)陽菜(ひな)、愛華の姿があった。


「落ち着け。愛華。(あたし)らも納得いってないよ。だから、それぞれできることをしてるんでしょ?」

ソファーでコーヒーを飲みながら、ホロ資料を整理している、遼子。そこには、陽菜が揃えた渡辺香慧(わたなべよしえ)に関する抹消データが記載されていた。


「でも、、、」

反論(はんろん)する言葉もなく、不満そうな顔で、愛華は頬杖(ほおづえ)をつく。


「納得いかないから、あず姉も今、局長に事実確認(じじつかくにん)をしているんだ。帰りを待とう」

空が見つめる先は、大雨だった。まるで、全員の疑念(ぎねん)(うつ)すかのように、()え間なく()っていた。



公安庁本庁 局長執務室。


「全てお話(いただ)けますよね。天宮碧葵(あまみやみき) 局長」

黒を基調(きちょう)とし、執務机(しつむづくえ)応接(おうせつ)用ソファーしかない、簡素(かんそ)な部屋で、梓は事件の背景を問いただしていた。局長と警視長。上司と部下の立場で、本来は上司を問いただすなどあり得ないが、梓の性格とこれまでの成果がそれを成し得ていた。


「何を話すと言うのだね。竹内警視長。何者(なにもの)かの狙撃(そげき)死亡(しぼう)した、渡辺香慧(わたなべよしえ)過去(かこ)かね。それとも、君達が報告に上げている、"疑惑(ぎわく)"についてかね」

座り心地(ごこち)の良さそうな椅子(いす)に背を(あず)け、机とは水平に身体を(そむ)いた状態で、視線(しせん)だけを梓に向ける、局長。見た目は50代半ばであろうか。淡々(たんたん)(しゃべ)口調(くちょう)には、微塵(みじん)の感情も込められていなかった。


「射殺の意図(いと)と、彼女にテロを教唆(きょうさ)した人物についてです」

いつも以上に、梓の表情も冷めきっていた。


「ほう。私に向かってわざわざ言うとは、渡辺香慧(わたなべよしえ)の死に、国家が絡んでいる、そう言いたいのかね」

(あん)明言(めいげん)した、局長の言葉に空間が()てつく。一瞬の()は、何百、何千にも濃縮(のうしゅく)され、二人の(にら)み合いは周囲の緊張感(きんちょうかん)を高めていた。


「ええ。テロリストとなった、"元"捜査官・渡辺香慧(わたなべよしえ)は、捜査中(そうさちゅう)逃亡(とうぼう)し、8年も行方(ゆくえ)(くら)ませた。国家の指示で違法捜査(いほうそうさ)従事(じゅうじ)していた者の逃亡(とうぼう)。国家にとっては都合(つごう)の悪い存在だった。そんな、彼女が突如(とつじょ)として捜査線上(そうさせんじょう)に浮かび上がった。国家としては、逮捕され、余計な口を開かれることを恐れたはず。だから、第四課(わたしたち)踏台(ふみだい)に、渡辺香慧(わたなべよしえ)殺害(さつがい)した。そうですよね?」

梓は嫌悪(けんお)の表情で、局長に詰め寄る。


「ほう。そこまで言うのなら、確証(かくしょう)はあるのかね」

目を細め、睨み返すかのように梓を見る、局長。


当然(とうぜん)です。渡辺香慧(わたなべよしえ)の情報は、不可思議(ふかしぎ)過ぎる程に目立っていた。1つは、防犯ドローンの映像。何者かのクラッキングで破損した映像データは、国家にとって不都合の(かたまり)だったはず。であれば、破損ついでに完全抹消(かんぜんまっしょう)するのが定石(じょうせき)です。なのに、これみよがしに残しておく意味が分からない。もう1つは、渡辺香慧(わたなべよしえ)経歴(けいれき)。数日前、疑似情報(ぎじじょうほう)に、セキュリティホールが発生し、実情報(じつじょうほう)へのアクセスが容易(ようい)にできるようになっていた。陽菜レベルのハッカーであれば気づく、丁寧(ていねい)目印(めじるし)まで付けて。つまり、最初から、第四課(わたしたち)所在(しょざい)を追わせるために、映像を残し、セキュリティに穴を開けた」


「全ては推測(すいそく)に過ぎないな」

つまらない表情で()()てた。見た目では分からないが、この話題を終わらせたいという、意思が見え隠れする。余程、渡辺香慧(わたなべよしえ)の存在が国家にとっては都合が悪かったのだと、梓は確信した。


推測(すいそく)?本当に根拠も無く、妄言(もうげん)を並べていると思っていますか? 閲覧(えつらん)した情報には追跡(ついせき)プログラムが仕組まれ、位置情報の横流(よこなが)しもされていた。情報流出先じょうほうりゅうしゅつさきは、狙撃(そげき)秘密裏(ひみつり)に実行した、国家直轄(こっかちょっかつ)の厚生省特殊部隊(とくしゅぶたい)。ここまで特定しているのにも、訳があります。国家が仕組んだ追跡(ついせき)プログラムは、ウイルス感染していた。そのウイルスを(たよ)りに、プログラムを解析(かいせき)し、流用(りゅうよう)先を特定(とくてい)すると、国家の番犬(ばんけん)に行き()ったというわけです。感染源は防犯ドローンの映像。並列化(へいれつか)していた、渡辺香慧(わたなべよしえ)経歴(けいれき)にも感染しているということには、誰も気づかなかったようですね。誰だか知らない凄腕(すごうで)ハッカーに化かされていたことに」

まるで自分たちのことは棚上げして話す、梓。


狙撃手(そげきしゅ)への命令内容(めいれいないよう)把握(はあく)の上で聞きますが、ターゲットは渡辺香慧(わたなべよしえ)だったということに間違いありませんか? まさか、都合(つごう)が悪ければ、第四課(わたしたち)も消した、なんてことは無い、という認識で良いんですよね?」

核心(かくしん)を突く梓の発言に、局長はフンと鼻で笑う。その様子に(あき)れながらも、梓は続ける。


「まぁいいです。本当に気になっているのはそこじゃありません。彼女と映っていた"男"の存在です。第四課(わたしたち)は、スキャナーで識別できない"男"の存在を認識した。そして、タロットカードに(まつわ)一連(いちれん)の事件に、"男"は何らかの形で関わっている。それを裏付ける捜査の過程(かてい)で、たまたま渡辺香慧(わたなべよしえ)捜査線(そうさせん)に上がった。いいえ、前提(ぜんてい)が逆でしたね。その過程(かてい)でないと、渡辺香慧(わたなべよしえ)浮上(ふじょう)しなかった。当然、映像に小細工(こざいく)(ほどこ)した、国家、公安上層部は、"男"の存在を知っていることになる」

梓の投げかけに、椅子(いす)を回し、机に(ひじ)をつく、局長。


「君達、四課が知るより以前に、識別できない"男"の情報と正体を上層部は掴んでいる、と? 君は国家と平和が維持された社会のシステムに疑念を口にしているが、その意味を理解しているのかね」

まるで、(やみ)そのものが片鱗(へんりん)を見せたかのように、梓を(おお)う。梓は、その空気に押されることなく、(りん)として、局長を(にら)んでいた。


「良いだろう」

深い溜息(ためいき)を吐くと、一つの情報をホロで出す、局長。


「これは、ある男の情報だ。本来は君の立場で閲覧(えつらん)は許されていないが、余計な詮索(せんさく)で良からぬ(やぶ)を突いてもしょうがないのでね」

空間上にホロ情報が立ち上がり、厳重(げんじゅう)なセキュリティのロックを解除する、局長。


「課員には共有します」

一歩も引かない梓。


「良いだろう。だが、四課以外の者には他言無用(たごんむよう)だ。何よりも高度(こうど)案件(あんけん)だ。ここまで譲歩(じょうほ)するのには、これまでの四課が国家に貢献(こうけん)してきた実績と、君への私なりの信頼。その辺の親心(おやごころ)は理解してもらいたいものだ」


一つの情報が梓のデバイスに転送され、空間に展開される。梓は、その情報に目を()いた。



公安庁本庁 第四課オフィス。


部屋の中心にある、ガラス机にはいくつもの情報がホログラムで展開されていた。その中心に陽菜はいた。

「まだ、梓は戻ってきてないけど、渡辺香慧(わたなべよしえ)のデバイスに記録されていた情報を解析(かいせき)したわ」


「え、何者かの狙撃(そげき)を受けた直後、厚生省の役人とドローンによって、渡辺香慧(わたなべよしえ)の身に着けていた物ごと、持っていかれて、私たちは触れることすらできなかったはずじゃ…」

愛華は、思い出すような素振りで回想した。都市への大規模(だいきぼ)なテロを実行しようとした犯人、とはいえ、厚生省の役人がわざわざ現場の権利を奪うなど、前代未聞(ぜんだいみもん)だった。四課の誰しもが違和感(いわかん)に思っていた。


「VX散布爆弾(さんぷばくだん)遠隔操作(えんかくそうさ)するために使われていた特殊電波(とくしゅでんぱ)をハッキングした時に、情報を抜きとっておいたの」

陽菜の技術は(すご)いが、何度も桁違(けたちが)いの技術力を()の当たりにしていたため、愛華ですら最早(もはや)驚かなくなっていた。


「陽菜の技術力を見せられすぎて、もう何をやっても、愛華は驚かないぞ」

敢えてツッコむ遼子に、悔しそうな表情を見せる陽菜。まるで姉妹(しまい)のようなやり取りを見せられ、愛華は久々にほっこりした。


「で、本題は渡辺香慧(わたなべよしえ)のデバイスに記録されている情報だよね」

苦笑いの空は、話を戻した。


「うん。結論から言うと、渡辺香慧(わたなべよしえ)()は刑事だったってこと」

"元"とはいえ、テロリストととして死んだ、渡辺香慧(わたなべよしえ)を今更、刑事だったと()えて言うことに、3人は違和感(いわかん)を持った。


「自分がテロリストとして生きた8年間、どこに潜伏(せんぷく)し、誰と接触、行動をしてきたか、記録されていたわ。テロリストに(てん)じてからの最初の5年間は、(にく)いはずの国家に対し、身を売っていることも記録されているの。主に政治家の汚職(おしょく)や国家権力の手駒(てごま)になって、表沙汰(おもてざた)にできない汚れ仕事をしているわね。彼女に汚れ仕事(ソレ)をさせているリストよ」

リストをホロ情報で出す、陽菜。先程とは一転(いってん)し、国家の腐敗(ふはい)を冷めた表情(カオ)で見ていた。


(とき)の政治家を筆頭(ひっとう)に、法の番人から国家運営に欠かせない大企業の社長、役員クラスまで、"大物"がゴロゴロいるな」

遼子の言葉にも、嫌味(いやみ)が混じっていた。重要人物(じゅうようじんぶつ)如何(いか)に、自分の手を汚すことなく、権力維持(けんりょくいじ)のために、犯罪を支配していたか、その情報は国家腐敗(ふはい)の決定的な証拠になり得た。


「過去の未解決事件(コールドケース)や失踪事件にも、いくつかにも関与してたなんてね。彼女は元公安。プロだ。手掛かりを残さないなんて目を(つぶ)っていてもできる。彼女が関わった汚職(おしょく)やそれらに関しての事件で、公安(うちの)第五課が手を焼くのも無理ないね」

立ち上がり、関与した事件の記録に目を向ける、空。その表情は同情しているようにも見えた。


「そうだね。でも、それだけならこのタイミングでみんなを集めない。この画像見て」

陽菜が取り出した画像は、隠し撮りのような(あお)り角度から撮影され、画質は荒かった。屋外カフェのような場所だろうか。奥には一般客が、午後のお茶を楽しんでいるようにも見える。


だが、この写真を見た、空、遼子、愛華の顔は急に強張(こわば)った。何故なら、そこに映る人物は四課全員の脳裏(のうり)に焼き付いているからだ。


そして、画像には名前が登録されていた。

【SHINGU】




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ