魔の車通りで
ファミレスから数十分。僕らは魔の車通りに到着した。夏休みなのでここに来るのは随分久しぶりだ。学校での成績は中の上といった具合なので、担任から補習の話もきていない。
「ここね。あれ、なによ車普通に走ってんじゃない。どうなってんの?」
たしかに、車の通りは登下校の時と大して変わらないように見える。おかしい。メールの誤送信だろうか。MINEじゃないから取り消せないぞ。スクリーンショットでも撮っておこうか。
「もしかしたら場所だけ違っているのかもしれない。その辺を探してみよう」
僕の提案に二人は承諾し、それから辺りを捜索しようとしたその時、
「やあ諸君。お目当てはこの男かな?」
なにやら、聞き覚えのある声が聞こえた。
声のする背後へ振り向いた。そこにいたのは、
「久しぶりだな、“私”よ」
涙を流す男の喉へナイフの先端をを突きたてている、“僕”だった。
「あんたが、明人の分身ね」
「そのようです」
二人の反応に“僕”は困ったように笑った。
「おや、話していたのか。反応が薄いと少しショックだな。私はサプライズが好きなのだが」
“僕”はあの時と変わらない笑顔で僕の方を見ていた。
「久しぶり。また会えてうれしいよ、“僕”」
「随分顔つきが変わったな。以前よりたくましくなったか」
自分ではあまり実感がないが、それも当然か。この数か月いろいろな経験を積んだ。“僕”を探している中で黒橋に出会い、組織の人間としてさまざまな人たちに会った。。親の死がトラウマになっている人、人間関係をストレスに感じる人、恋焦がれている人。いろんな人がいた。いろんな人のもう一つの分身。ある人はトラウマに打ち勝ち、ある人は凶悪な分身に飲み込まれた。
「ところで、こいつはどう処理したほうがいい? このまま殺して構わないのだろう?」
“僕”は泣いている男性の頭を持ち上げ、ナイフを構えた。
「待ってくれ! その人はまだ何もしていない! まだ別の解決策がある! まずは本物を特定して話を聞こう! 話はそれからだ!」
「その人を離しなさい!」
僕と黒橋の提案を聞き、“僕”は笑顔のまま首を―――――――横に振った。
「いや、こいつはここで殺す。『ニセ者』は処分する。それが“君たち”のやり方だろう?」
ナイフが男の首筋に当たる。気を失っている男に抵抗の余地はない。涙はすでに乾いてしまっている。泣いていた理由はなんなのだろう。いまだ知る由もない。
「待て!」ちなさい!」
肉を割く音とともに、男の首筋が抉れる音が聞こえた。その後、男の体は水蒸気のように消失した。
「これは、正義だろう?」
「“危険種“……! シロ!」
「了解」
黒橋の声とともにナイフを持った城が“僕”に切りかかった。
「ま、待ってくれ……」
僕はただ、呆然と、その場に立ち尽くしていた。
ありがとうございます!あとがきって何書けばいいのかわかりません!
のこり三話です!