第44話:バレンタインデーⅢ
実際に座るまでは一人で永遠と文句を言っていたものの、グランクラスに座った瞬間世界最速レベルの手のひら返しを披露した私一之瀬陽太は出発するまでのあと数分間を使って駅名標の写真を撮っては悩んで消してを繰り返していた。
(個人的には今回みたいに相手があとどれくらいで着くか全く予想がつかない時って結構心配になるから随一とは言わないまでも定期的にどこにいるか教えてほしい派なんだけど、それって結局人によってはウザく感じたりするからなぁ)
(しかも俺と彩乃って普通に喋れるくらいには仲がいいけど、心配してくれるほど仲がいいのかと聞かれればそこまでの自信はないし)
(というか俺に用事ってなんだ?)
『ご案内いたします。この電車は、はやぶさ、○○行きです。途中の停車駅は―――――』
(あー、もう送っちゃえ!)
そう思った俺は新幹線が動き出す前に何度目か分からない駅名標の撮影を行い、それと一緒に『今俺が乗ってる新幹線が発車した』と送ると即既読が付いただけでなく、その流れでOKのスタンプが送られてきた。
(これはウザいからそんな連絡を一々してくるなという意味を込めてスタンプ一つで済ませたのか、時間的に先生が教室に入って来たかなにかしたのか、特に意味などはなく普通に送っただけなのか。……童○坊やにこの返信は難しすぎますよ彩乃さん)
(あのまま会話を繋げてくれていれば敢えて次の駅まで未読無視をして、そこに着いたら返事とともに駅名標の写真を送ったりという自称高等テクニックを使うことができたのに)
『まもなく、○○駅です。○○路線は、お乗換えです。今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました。○○駅を出ますと―――――』
(甘かったな佐々木彩乃! 俺は友達が少ないだけでなく頭のおかしな奴らばっかりだが結構使える人材が多くてな、今回は倉科様を使わせてもらったぜ‼)
(ということで○○駅の駅名標を撮って)
陽太:《今○○駅に着いた (写真付き)》
(なんかこれメリーさんの電話みたいだな。私、メリーさん。今、○○駅にいるの)
彩乃:《私、メリーさん。今、ひーくんの後ろにいるの》
(っ⁉ ………っているわけねえだろ‼ 一瞬マジだと思って振り向いちまったじゃねえか)