第37話:その頃彩乃は
今年最後の帰りの会が終わったと同時に数秒前に先生から注意があったにも関わらずどこもかしこもA男の話題で一杯の中、私はひーくんが部活のことで明日香と話しているうちに貴重品類だけを持って再び校長室へときていた。
そしてそのままソファーの裏に隠れているとすぐに彼がやってきてさっきまでの静かな怒りとは違う、ウチの学校にこんなに怖いヤンキーみたいな人がいたのかと声を出して驚きそうになったくらいの迫力で怒鳴り始めたまではよかったのだが
『ここで自分のスマホを出したということは大方私との会話は全て録音済みであり、それをばら撒かれたくなかったら大人しくイチの要求を飲め……。といったところかな?』
(ちょっ、ヤンキーかと思ったら今度は頭脳派⁉ 校長に情報を流した件もそうだけど一体どうやったらそんなにポンポンとアイディアが出てくるのさ。んな小説家とか漫画家じゃあるまいし、普段どんなことを考えながら生活してるのか私は気になってしょうがないよ)
『しかしそんなことをしてしまえば今度はイチが学校で虐められてしまうんじゃないかい?』
(A男のためにひーくんが犠牲になるとか堪ったもんじゃないんですけど! 校長なら無理やりにでもちゃんと止めなさいよ?)
この時はまだ私が止めに入らなくても大丈夫。そう思っていたのだが次に発した彼の言葉、そして声色からこれは本気だと感じた瞬間頭で考えるよりも先に体が動いており気付いた時には彼のスマホを自分の胸の前で抱きしめていた。
しかしそのことに頭が追いつた時には今度は勝手に口が動いており
「そんなこと絶対に私がさせないから‼」
「はあ………どういうこと?」
(どっ、どうしようー。最悪の事態は免れたとはいえ私にこの微妙な空気を何とかすることはできないんですど)
なんて思っていたのもつかの間、いきなり校長が笑い出したかと思えばひーくんが舌打ちをしたりと私を置いてけぼりにしていった挙句
「さぁ、そろそろネタばらしといこうか」
(もーうなんなのこの二人! なんで一生徒と校長が意思疎通できて私にはできないのさ!)