第15話:その頃彩乃は
今日は体力測定最後の種目であるシャトルランということで後半組の私と明日香は前半組が始まるのを座りながら待っていると、たまたま近くにいたC女とD女の会話が聞こえてきた。
「一番最初に抜けるのだけは嫌だってA男が言ってたけど大丈夫かな? たまたまとはいえこのグループは二人以外全員運動部じゃん」
「えー、取り敢えず一之瀬がいるっぽいし大丈夫っしょ。たまたま50m走の時にアイツのこと見てたけど、明らか本気で走ってたのに帰宅部の奴らよりも遅かったし」
「というかアイツって他の種目は全部適当にやってなかった? なのに50m走は本気でやるって、実は自信があったとか?」
「それは流石にないでしょ。ってか、もしそれが当たってたなら面白すぎるんですけど
確かにあの時の一之瀬君はテニスウェアの半ズボン、黒の長袖の上に部活でいつも着ているらしい白の半袖ジャージっていう私とバドした時よりも更に動きやすい恰好だったことをみるにあれは本気だったんだろうし、少なくとも私には本気で走っているように見えた。
(だからこそ私はこの二人に腹が……立つ?)
「さっ、今のところ部内一位は寺嶋君の135回らしいけどよーくんはそれを超えられるかな?」
「えっ?」
そんな私の声とともに、いつの間にかあの時と同じ格好になっていた一之瀬君がスタートした。
『142』
「まだ余裕で間に合ってるからもう少し頑張れ一之瀬!」
よくシャトルランで走っている人が一人になるとその人の記録を少しでも伸ばそうと先生が声掛けをする光景というのはよくあることだが、私を含め明日香以外は全員この状況が予想外だったらしく若干動揺しながら一人の男子が
「おい、今の学年最高記録って何回だっけ?」
「確かバスケ部の○○が145回だった……はず」
『146』
「明日香、明日香! 間に合った、一之瀬君間に合ったよ!」
「多分もう少しいけるんじゃないかな?」
『149』
「ここまできたら150まで頑張れ一之瀬‼」
そんな先生の声が届いたのか一之瀬君は一気にスピードを上げ
『150』
(………ギリギリ間に合った?)
そう思ったと同時に先生が記録をメモしていた生徒に向かって
「一之瀬の記録、150回」