第13話:その頃彩乃は
今日初めて見た一之瀬君の生き生きとした表情を、このまま続けたらもっと色んな表情や姿を見れるかもしれない。そう考えた私は半分無意識のうちに
「待って待って待って! もう一回、もう一回やろ?」
「いや、俺ラケット持ってないし倉科とやった方が……」
(あー、そうだった。というかなんで大事な友達のことを忘れてるのさ、私のバカ!)
「なら私は明日香とペアを組むから一之瀬君は交互に打ち返してくれればいいよ」
「はあ⁉ おいちょっと待て! なんでラケットだけ取られてポイされてんの俺? というかそのラケット持ってきたの俺だし! 100歩譲ってラケット返せよ!」
(あとでジュース買ってあげるんだから邪魔しないでよ! もーう)
「今更他のコートに行ったってみんな使ってるんだからラケットなんて持ってるだけ無駄だし別にいいじゃん」
「あの~、単純によー君が石原君と組めば問題解決のような」
結局明日香の案を採用する形でこの件は落ち着いたものの、どこに飛ばしても石原が打ち返そうとするわ、あっちこっちに飛ばすわで明日香が少し暇そうにしていたのだが、ワザと本気で一之瀬君の方に向かって打ってあげると私の気持ちを察してくれたのかちゃんと明日香が返しやすいようにシャトルを飛ばしてくれた。