第13話:体育 (下)
「よくやった一之瀬! 俺はお前が勝つと信じてたぞ」
「んじゃ、戻る」
いくら誉のとはいえお金が掛かってる以上負けるわけにはいかないからと途中からガチでプレイしてしまったが、相手が男ならまだしも話したこともない女子にこれはちょっと拙かったかと思い気まずくなる前に逃げようとしたのだが
「待って待って待って! もう一回、もう一回やろ?」
「いや、俺ラケット持ってないし倉科とやった方が……」
「なら私は明日香とペアを組むから一之瀬君は交互に打ち返してくれればいいよ」
「はあ⁉ おいちょっと待て! なんでラケットだけ取られてポイされてんの俺? というかそのラケット持ってきたの俺だし! 100歩譲ってラケット返せよ!」
「今更他のコートに行ったってみんな使ってるんだからラケットなんて持ってるだけ無駄だし別にいいじゃん」
「あの~、単純によー君が石原君と組めば問題解決のような」
そんな倉科の提案により何故か今日初めて話した女子と引き続きやることになってしまったが、ほとんど誉が打ち返そうとするので基本的には全部任せ、たまに佐々木が本気で俺の方に飛ばしてきた際は
『誰かのせいで暇してる明日香にも打たせてあげて』
という合図だろうと勝手に解釈し、返しやすいように軽く打つだけで済んだため気まずい空気になることはなかった。