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第154話:姉と彼女

魔法のおまじないこと、よーくんが疑似ゾーンに入るために必要になってくる最後の引き出しの鍵を開けてあげた瞬間…彼はそれに入った人特有の笑みを浮かべた。


しかし何も知らな人がこの状況を見たらのならば気味悪がり出しても何ら不思議ではないし、むしろ正常な反応と言ってもいいであろう。


現に男女問わずあっちこっちからそういった声が聞こえてきているし、中にはうちの弟を馬鹿にする声もちょくちょく聞こえる。


とはいえこの場にいる全員がそういった人達だけというわけではない。圧倒的少数とはいえそれでもなお


純粋によーくんのことを応援してくれている人達


もしかしたら本当にこの圧倒的不利な状況からよーくんが一位を取ってしまうのではないかと盛り上がる人達


冷静にこの後誰の身に何が起こって、誰が今年の優勝者になるのかという少し先のことを語り合う人達


そして今この状況、状態の全てを完全に理解しているっぽいほんの一握りの人達はというと……流石と言うべきかモニターにリアルタイムで映されているよーくんの姿を黙って見続けている。


否、驚きのあまり声を出せないと言った方がいいだろうか。


『ちょっ、ちょっ……えっ⁉ これってもしかして……、いや、でもいくらあの一ノ瀬君とはいえそれは流石に……』


放送部としての性なのか実況の女の子は数少ない真の理解者でありながらも何とか声を出すこと自体はできているものの、到底それを実況とは呼べるものではない。


(まあ、今のよーくんの凄さを表現するにはこの実況はピッタリかもしれないけれどね。とはいえ折角私達姉弟が久しぶりに、比喩なしで年単位ぶりにママに怒られる覚悟で本気を出してるっていうんだからもう少しちゃんと実況してくれると嬉しいかな~)


『いや、これは……間違いなく入っているぞ、○○』


実況の子が陸上部にて長距離走の選手として活動をしているのに加え、解説役の○○先生が完全に自身の置かれている立場を忘れてその子一人に対して受け答えをしている状況を受けてであろう。


先程までよーくんのことをヤバい人扱いしていた人達や馬鹿にしていた人達を含め、この校庭にいるほぼ全員が一瞬でよーくんに対する認識を改めた。


とはいえ相変わらず真相に気が付いている人達はごく一部のみ。


ほとんどの生徒はただその場の雰囲気で盛り上がっているだけだけど。


なんて考え事をしていると中間地点から戻ってきたらしい彩乃ちゃんと、よーくんのウィンドウブレーカーを着た美咲ちゃんが私の前までやってきて


「お宅の弟さんのことが気になりだし、そしてお付き合いさせていただいている今日に至るまでずっと彼のことを見てきたつもりですが…まさかこんな奥の手がまだあっただなんて。お姉さんも中々エグイ隠し事をされているんですね」


流石は私が認めた女の子。


この短時間でよーくんすら知らないこちらの秘密を全て見抜いたうえに、もしもの時は友達よりも彼氏のことを優先するという気概が感じられる。


「え~、ちょっとその言い方は酷くないかな? ただ私はよーくんのことを大切に思っているが故に、完全なゾーン状態に入る為に必要になってくる引き出しと鍵を隠し持っているだけであって、そんな性悪女みたいな言い方しなくてもいいじゃん」


そうとなればこちらもいい機会でもあるしということで、嘘偽りのない受け答えを返すと


「はーぁ、先に喧嘩を吹っ掛けたのはこっちだけれど…今の明日香の顔、物凄く怖いよ。隣にいる菱沼とかあまりの恐ろしさに若干後ずさりしてるし」


私の真意を理解してくれたらしく、一足先にいつも通りの彩乃ちゃんへと戻った。


しかし私としてはまだもう一つだけ伝えたいことがある為そのままの状態で


「別に私がいつ誰に嫌われようが、もう二度とよーくんが汚い大人の食物にされなければそれでいいと思っているから…そんなことどうでもいいかな」


「はいはい、取り敢えず明日香が超ブラコンなことだけは分かったからいい加減それ止めてくれます? あとひーくんのことが大好きで、あの人の為ならばなんだってするのはこっちも同じだから」


そう言うと彩乃ちゃんは自分のスマホを耳に当て、どこかへと電話を掛け始めた。

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