第153話:後半5㎞(急)
あれから丁度4分30秒。
『まるで俺が通るから道を開けろと言わんばかりの勢いで次々と他の選手を抜かし続けてきた一ノ瀬君が今、○○選手を追い抜き…僅か4分30秒で2位まで順位を繰り上げました‼』
まるで実況の声が聞こえていてムキになったのではないかと考えてしまう程タイミングよく、よーくんに抜かされたばかりの現3位の子が抜かし返そうと走るスピードをあげようとした瞬間……。
『おおっと、ここで○○選手も他の選手同様足をもつれさせてしまい転倒‼ そしてプロの救護担当の方の判断により即座にドクターストップがかかりました。これで○○選手も途中棄権となります』
「………………」
『決して一ノ瀬君が他の選手に対して何か嫌がらせであったり、妨害をしているというわけではないにも関わらずこの異常事態‼ 少し不謹慎ではありますが今の彼には快進撃という言葉がピッタリでしょう‼』
「………………」
『いや~、それにしてもいったい現場では何が起こっているのでしょうね?』
何をワザとらしいことを言っているんだか。
今回の参加生徒がスタートラインに揃った時点でこうなることは最初から分かっていたくせに……。
『これで残すは後半をスタートしてからずっと先頭をキープし続けている○○選手のみ‼ しかし現在一之瀬君と○○選手の差は距離にしておおよそ500m。言葉にすると近く感じますが長距離走での500mという数字はかなりの差を意味する距離数となっております。にも関わらず何か考えがあるのか冷静にペースメーカーとしての役割をこなし続ける謎の女生徒と…それを全面的に信頼しペースを乱すことなく走り続ける一ノ瀬君! この二人にはもう既に自分達が優勝する未来しか見えていないというのでしょうか⁉』
なんて心の中で毒を吐きつつも同時に現在先頭を走っている子の映像を観察し続けていた私は今後の作戦を組み立て終えたため、再び手元のタブレットの画面をよーくんのものへと切り替えた。
そして先程同様、ジャージの襟に付けているピンマイクをONにし再び彼に対して話し掛ける。
「よ~し、それじゃああと100mちょい走ると丁度ゴールまでの距離が3㎞になるから、そこから一気にラストスパートをかけていくからね?」
『………………』
しかしよーくんからの返事は一切ない。
否、これは私が唱える魔法のおまじないをよーくんが待っている証拠である。
「ということでここから先は本気の本気、一之瀬陽太の限界を超えた状態で走ろうか」
『………………』
「大丈夫。だってよーくんは私の自慢の弟なんだもん。今回も絶対にできるよ☆」