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第149話:幼馴染と彼女

あれから藤村に手伝ってもらいながらウォーミングアップをすること約10分。


アップ自体はどれも軽いメニューを行っていたものの、少し時間を掛けたため体は良い感じに温まった。


その証拠に今の俺はアームカバーとレッグカバーを外し、半袖半ズボンの状態である。


「おっけ、あと行く」


「一ノ瀬君以外の人達は全員とっくにスタートしてるっていうのに、なに呑気な感じで『おっけ、あと行く』とか言っちゃってんの⁉ 彩乃は彩乃でいつまでも不貞腐れてないで何とか言いなさいよ‼」


藤村の言う通り俺以外の奴らは全員、例年通りほぼ一斉に再スタートをしている。


ちなみに時間としては約5分前といったところであろうか。


そして当たり前のことながらその時間差はまだ中間地点をスタートしていない今も尚広がり続けている。


とはいえ俺には最強のなんちゃってペースメーカーこと明日香が付いているのでなんの問題も……ないことはないが俺がこの競技で1位を逃すことがないのも事実。


「ということで今から他の奴らに圧倒的差をつけたうえで1位になりたいんだけど、どうすればいい?」


『事情はあらかじめ彩乃ちゃんから聞いてるから、よーくんの狙いや心情を含め全部知ってる。途中からそっちのイヤホンの電源が入ったことで休憩からアップまで一通り済んでることも知ってる』


「流石は明日香。んで、いったい何が気に食わないんだ? どうせその不満が解消されない限り協力してくれないんだろ?」


昔からそうだったからな、こいつは。


『別に不満なんてありません。ただお姉ちゃんとの約束の為じゃなく、彩乃ちゃんや美咲ちゃんの為に1位を取ろうとしてることがちょっと気になってるだけです』


「はあ? 俺とお前の約束はいつ何時、どんな内容であっても絶対なんだからお互いそれを守るのは当然。つまり頑張るも何もねえだろ。なに言ってんだ今さら?」


『………………』


「おい、なに黙ってんだよ。まさか『よーくんは私の為にだけに頑張ってくれなきゃダメなの! 他の人の為に頑張っちゃダメなの!』とかヤンデレ幼馴染みたいなことを言い出すんじゃないだろうな?」


『私はよーくんの幼馴染じゃなくてお姉ちゃんです! そこのところ間違えないでくれるかな?』


「いや反応するところそっち⁉ あとお前が俺の姉を名乗るのは今に始まったことじゃないからもう何も言わねえけど、幼馴染ってのも間違ってねえだろうが」


俺以外のクラス代表が再スタートを切ったのに合わせてそいつらの為に集まっていた女子は例年通り全員既に校庭へと戻っている。


つまりこの場に残っているのは俺、彩乃、藤村の三人だけのため周囲を気にせず普通に明日香と会話をしていると


ちょいちょい。


(んだよ次は。こっちは今ヤンデレ幼馴染お姉ちゃんの説得で忙しいってのに)


なんて内心文句を言いつつも、相手が誰かは分からないが先程とは違い今回はちょっと強めに肩を叩かれたこともあり自分の意思で後ろを振り向くと


「ふふっ♪」


にこにこ笑顔にも関わらず目が一切笑っていないうちの彼女の姿がそこにはあった。


(聞こえる。俺には聞こえるぞ『なんだか私の知らないひーくんと明日香の関係があるみたいだけれど、これは一体どういうことかな? もちろん説明してくれるんだよね?』とかなんとかいう心の声がこれでもかってくらい聞こえるぞ)


(………………)


(よし、今度こそマジで一回逃げよう)


そう心の中で決意を固めたものの流石に俺も馬鹿ではない。


先程の反省を活かし今回は黙って走り出そうとするのではなく、ちゃんと彩乃の目を見ながら『明日香との関係はあとで全部説明するから』的なことを言うと見せかけ。


再度二人に背中を向けるような格好に戻ってから、突拍子のない質問を投げかける。


「藤村。なんでニチアサに出てくる敵キャラは揃いも揃ってみんなヒーローの変身が終わるまで大人しく待ってるか知ってるか?」


子供の頃、誰しも一回は考えたことがあるであろう疑問。


どうして敵キャラは最大の攻撃チャンスであるはずのあの時間を黙って見過ごしているのか。


「えっ?」


当たり前のことながら藤村の幼少期に見ていたテレビ番組や当時の思考など一切知るよしもない。


しかし声のトーンからするにコイツも同じようなことを一度は考えたことがあるらしい。


まあ質問の意図は全く理解できていないみたいだが。


「答えは、自分が圧倒的不利な状況から相手に勝って見せた方が周囲の絶望感が増すからだ」


「………………」


我ながら結構上手いことを言ったつもりなのだが、どうやら藤村はまだ言葉の意味を理解できていないようで頭の上に?が浮かんでいそうな顔をしている。


「ふ~ん。なるほどねぇ」


逆に彩乃は一瞬で理解したらしく若干唇の両端が吊り上がっている。


(あ~、性格の悪さが滲み出てる彩乃も可愛い。あと今日の体育祭メイクも可愛い。あの目の下に貼ってる星のシールめっちゃいい。特に後者二つに関しては写真撮ってそれをスマホのロック画面にしたい)


なんて考え事をしているとイヤホンを付けている右耳越しに明日香の息を吸い込む音が聞こえ


『よーくんが人前でそんならしくもないことを言えたってことは、もう既に半分は疑似ゾーンに入れてるみたいだね。私は許可を出した記憶がないけど』


疑似多重人格改めキャラ変彼氏だが、これは基本俺の頭の中にある鍵と引き出しを使うことでかなりの数の人格を自在に演じ分けていたりする。


しかし一つだけ自分の頭の中にあるものなのにも関わらず、己の意志だけでは絶対に開けられない引き出しがある。


それが今使おうとしている疑似ゾーンなのだがこれは他の物とは違い、鍵・引き出しともに二つ存在する。


そして俺の頭の中にあるのは引き出しが二つなのに対して鍵は一つのみ。


「早くもう一個の鍵を開けろ。つかいい加減鍵寄こせ。いつまでお前がそれを持ってるつもりなんだよ?」


『あら、お姉ちゃんに向かってそんな乱暴な言葉を使ったりしちゃっていいのかな~?』


「ふん、今の俺ならお前に頼らなくても1位くらい余裕で取れるつうの」


実際のところ余裕なんて1ミリもない。


しかし彩乃が作ってくれた怪しい飲み物に加えて半分とはいえ今の俺は疑似ゾーンに入っているため、かなりギリギリになるであろうが1位を取ることは可能である。


その為久しぶりに人前で姉面してきた明日香に対して強気で出てみたものの


『あーあ、もしもよーくんがあそこで素直に反省できたのなら後で彩乃ちゃんの写真を送ってあげようとおもったのにな~。もちろん体育祭メイク&泣きぼくろみたいな星のシールを付けてる彩乃ちゃんのやつ』


「弟の分際で生意気言いました。あす姉の協力がなきゃ正直1位を取るのはめっちゃキツイです。お願いします助けてください。あと写真もください」


『………自分で言っておいてなんだけど、なんか弟を他の女の子に取られたみたいで複雑な気分。やっぱり写真は無しにしようかな』


「今更何を言ってんだこのブラコン姉が。他の女に取られた云々を言うならもっと前に―――」

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