第140話:その頃彩乃は
『むぅ、またそうやってクールぶって屁理屈みたいなことを言う! ひーくんのばかっ!』
素直に自分の気持ちを言ってほしかったが故に、ついそんなことを言ってしまったのだが…流石にばかは言い過ぎたかと思いその点についてはちゃんと謝りながらも、どうすれば私のこの気持ちを彼に分かってもらえるだろうかと逡巡しようとした瞬間に返ってきた
『確かに今のは俺が悪かったというか奥手過ぎたというか…意気地なしな返事だったとは思うけれど………んぅ~~~、別にバカって言わなくてもいいじゃん、ばかっ‼』
という胸キュン過ぎる返答。
(さっきの私の言葉を聞いて自身の中に生まれたのであろう不満をただ相手にぶつけるんじゃなく、どうにかしてお互い落ち着いて話し合えるようにって色々頭の中で葛藤した結果)
(前半は既に癖になっているおかげもあってしっかりと自分の考えを言えたけど、後半の方はもうよく分からなくなっちゃって語彙力だけじゃなく喋り方までもが幼児化しちゃってるひーくん可愛すぎ‼)
そんな心情につられてしまいほんの一瞬とはいえ
『―――――っ♡』
といった反応をこちらがしたことに対し
『…………んぅ?』
みたいな反応が見られたのを受け
(本当はこのまま私が怒っていると勘違いさせておいてもう少しだけ先に
進みたかったんだけど、もしかして勘付かれちゃったかな?)
とヒヤッとしながらも今度は自身の中にある彼に対するデレデレな感情を押し殺す意味も込めて無感情モードに意識を切り替えてから数秒ほど目と目を合わせ、それがバレていないことを確認できた私はそのままの状態で
「じゃあ逆に聞くけれど、さっきひーくんが美咲に対してやっていたのと同じようにあなたの目の前で……」
っと、例の計画を遂行するにあたりそこまで言葉を発したまではよかったのだが
(………あーーー、本当に無理! 嫌だ、嫌すぎる‼ この次に言おうとしていることを言葉にしていなくても、それが私の頭の中にあるだけで気持ち悪い‼ 吐き気がする‼)
(ううん、頑張るのよ彩乃。今ここで自身の中にある嫌悪感に屈し、妥協したことによってこれまで時間を掛けて築き上げてきた完璧な害虫除けにほんの少しでも隙間が生まれてしまう可能性がある限り……その選択だけは絶対にあり得ない‼)
そう心の中で一世一代ばりの決意を固めた私は再び口を開き、一言目に
「私が他の男に後ろから抱き寄せられてたら?」
と言った瞬間
『思い切って自分の意見を言ってはみたものの…大丈夫だったかな?』
とか
『つか、今ってどういう状況なの?』
といった感じで見せていた困惑した表情や視線が一変……美咲とクズのことを考えている時とは比べものにならないほどの怒気を感じさせてき………。