第139話:お互いの不満
『むぅ、またそうやってクールぶって屁理屈みたいなことを言う! ひーくんのばかっ!』
なんて言いつつもしっかりと水分補給はするよう促してくるのが俺の彼女であるということで、不機嫌感満載な膨れっ面で右手に持ったボトルを俺の胸に押し付けてきたたのを受け一旦素直にお礼を伝えた後それを手にしながら…今の自分の気持ちを言うか言わないかで一瞬だけ逡巡したものの
まだまだ短い間ではあるがこうして彩乃と付き合っていく中で何でもかんでも自分一人で何がいけなかったのかを分析した後反省し、それを次に活かせばいいといわけではなく時にはお互いの気持ちを伝え…話し合うことも大事なのではないかと最近考えるようになってきていたためこれも丁度いい機会かと思い
嘘偽りのない自身の本音を。しかしただ声を荒げて相手に不満をぶつけるようなものではなく、できるだけ普段の会話と同じ風になるよう心掛けながら
「確かに今のは俺が悪かったというか奥手過ぎたというか…意気地なしな返事だったとは思うけれど………んぅ~~~、別にバカって言わなくてもいいじゃん、ばかっ‼」
心掛けようとしたつもりではあったのだが、今自分の心の中にある気持ちとそれをそのまま言葉にしてはいけないという葛藤の結果…幼稚園児がお姉ちゃんに意地悪をされた時のような返しをしたところ一瞬彩乃が『―――――っ♡』みたいな反応をしたような気がしたのだが
それは完全に俺の気のせいだったらしく、そんな感情はおろか先ほどまで見せていた怒りのそれもなくただただ全てが無といった感じで
「じゃあ逆に聞くけれど、さっきひーくんが美咲に対してやっていたのと同じようにあなたの目の前で……」
とそこで一回言葉を切ったかと思えば完全に自分の感覚ではあるがそれが更に数段階上がったような気がした直後再び彼女の唇が動き出し
「私が他の男に後ろから抱き寄せられていたら?」
(………………はぁ?)
「そのまま口を塞がれた状態でこっちには聞こえないくらいの小さな声でかつ、私達の表情が上手く見えない状態で何かを話していたら?」
(誰だよそのふざけた男、死ね‼)
「にも関わらず私が満更でもなさそうな反応をしていたら?」
(………それは絶対にあり得ないから別にどうでもいいや)
「そいつが普段着ている、そいつの匂いがする上着を私が着たら?」
(それも絶対にあり得ないからいいや)
「挙句の果てには『この気持ちはもしかして………』みたいな顔を私がしていたら?」
(………………)
「ひーくんは一体どんな気持ちになると思う?」
突然始まった彩乃による質問の内容が先ほど俺が藤村に対して取った行動と全く同じものであるが故に、もし立場が逆だったらという想像が容易にできてしまい…それが進めば進むほど絶対にあり得ないと頭では分かっていても勝手に不快感が増し続けている状態で
全て考えるよりも先に自身の本音を返事として心の中で答えっていった結果
「その男をぶっ殺す」
つい我慢の限界を迎えた小学生のようなことを口走ってしまったところ、ここまでずっと俺達の後ろで黙っていた藤村が驚いたような顔で何かを言おうとした瞬間
何の前振りもなしに俺の両耳が彩乃の女の子らしい小さくて柔らかい両手によって、口はデートなどの特別な時によくつけている色っぽいリップが塗られている彼女の唇によって塞がれ……
「―――――んっ⁉」
なんて声を出しつつ自身が置かれている状況を理解すると同時に意味が分からなさ過ぎて驚いているこちらの気持ちなどお構いなしに、物凄く満足げな表情を浮かべながらスッと一歩下がったのち
今度は右手の人差し指で俺の唇を軽く押さえながら
「ふふっ♡ ひーくん…今私とキスした唇をいつもみたいに舐めたくてうずうずしてるでしょ?」
「ん~~~ぅ!」
(分かってんなら早くその指をどけろ!)
「そんなに可愛く物欲しそうに睨み付けてもだ~め♪ って言いたいところだけれど…この場で抱いた色んな私の気持ちをちゃんと理解したうえでひーくんが自分の気持ちに素直になったてくれたのなら、この指をどけてあ・げ・る♡」
「んあだうっおろずっふってんあお‼ (だからぶっ殺すって言ってんだろ‼)」
さっきも同じこと言った&これ程までにお前が感じたであろう気持ちと俺の素直な気持ちが一致している言葉はないだろうが‼ くらいの勢いでそう言ったのが間違いだった。
(いや、間違いではないんだけど……その勝手に顔がにやけようとするのを無理やり抑え込もうとしているとき特有のご尊顔および、この短時間の間だけでも既に何回も見せられている意地悪な表情をした = 次、うちの彼女が口を開いたその時―――)
「前言撤回♪ やっぱり言葉だけじゃ本当に私の気持ちを理解してくれたのか不安だからぁ…行動でも示してくれなきゃ、これどけてあ~げない♡」