第137話:なんとか第一ミッションクリア
ここで感情の赴くままに言葉を発しても構わないのであれば速攻で『勝手にしろ』と言い返してやりたいところなのだが
うちの彼女こと佐々木彩乃はヤキモチ焼きな性格をしている反面やる時はマジでやるし、特に第三者がいる前でそれを実行する場合はその結果として発生しうるお互いの優位性や今後どのように周りから見られるのかなどを自身の頭の中にある天秤にかけ…そろばん日本一ばりのスピードと正確さで結論を出して見せるから恐ろしい。
ということで大人な対応を選択した俺がスルーすることで誰一人として犠牲者を出すことなく平和的にうやむやにしただけでなく、超超超頑張って藤村のことを俺達二人の背中の後ろに隠すことに成功してからすぐのこと
真横に立っている彩乃が何も持っていない空の左手と、部活の合宿時やお昼のお弁当用に使っている透明なボトルを持った右手をこちらに差し出してき
「ねぇ、ひーくん…今あなたが選んでいいのはどちらか片方の手だけと言ったら……どっちを選ぶの?」
「………なにその妖艶なオーラを含んだ表情と喋り方。さっきに比べれば大分抑えられているとはいえ逆にこっちはひと段落ついたってこともあって気が抜けかけてるんだから止めてくれませんかね、いや本当に。あとさっきの質問の返答は右手に持ってる飲み物を受け渡し後、その空いた手で左手でしようとしたことをする一択で」
本音を言えばさっきまで彩乃がしてくれていた姉が弟を落ち着かせるような触れ合いではなく例の雰囲気も相まっていることもあり恋人同士のそれをしたい気持ちが強いのだが、いくらこの短時間の間に藤村にウチのあれこれを見られている&片方は隠す気が一切ないとはいえ
健太達の前ですらいまだに自分から彼女の手を握ることができない俺がそんなことできるはずもなく、我ながらかなりズルいとは思いつつもそう言うと先ほどまでの艶めかしい表情から一転ムスッとした顔をしながら
「むぅ、またそうやってクールぶって屁理屈みたいなことを言う! ひーくんのばかっ!」