第133話:その頃美咲は(下)
確かに何も知らない女が一之瀬君のことを、ましてや彩乃と一緒のところを見ればそれはそれは魅力的に見えるだろう。外見は勿論のこと異性に対する心遣い等が完璧な一之瀬君のことが。
そんな世界中探したってそうそう見つからないであろう男の子が先ほどの私のように目の前に現れたら?
流石に全員が全員とは言わないまでも彼のことが欲しい、今の彼女から奪い取ってでも付き合いたいと考える人がいないわけでもなく…ここで一之瀬君の気持ちや性格は一旦無視するとして実際にそれが成功した場合、その後その2人はどうなるかというと
(ま~あ、99.99%の確率でスピード破局するでしょうね。当然これも彩乃の作戦のうちに入っている…というかこれこそがあの子の本当の狙いなんだろうけれど)
まず第一に一之瀬陽太君という男の子は一部の女子を除きかなりの苦手意識を持っているため自分から話し掛けないの勿論、あからさまなまでに話し掛けるなオーラを発する日だって珍しくない故に女慣れしていないのは自明の理というもの。
しかしそれは私が彼と同じクラスに所属しており毎日顔を合わせていたり、そんな人の彼女と友達であるからこそ知っている情報であり他の同学年の女子ですらほとんどがその事実を知らないと言っても過言ではない。
つまり普段彩乃や倉科さんと一緒にいる時の姿しか知らない女にとっての一之瀬陽太君という男の子は
・普通にカッコいいのにそんな素振りを一切見せない&嫌みのない好印象イケメン。
・それなのに少なくとも校内で仲良く喋っている女子は上記の二人だけというミステリアスさ。
・しかもその二人とは教室での席が近いことや同じ部活に所属しているということもあり三人一緒にいる時間が長いだけでなく、時には倉科さんと一之瀬君の二人っきりで喋っていたり部活に向かったりしているにも関わらずそれを放任している彩乃から見える彼に対する信頼度と、彼自身の誠実さ。
・そしてなんと言っても彩乃に対する一之瀬君の気遣いレベルが半端なさ過ぎる。
というか彼女(倉科さんにも)にめっちゃ優しいし、普段の彩乃を見ていればどれだけ幸せなのか・愛されているのか・大事にされているのかは一目瞭然だし、どれを取ってもこっちが夢見ているような理想的な男の子だし………
と・に・か・く‼
そんな人と付き合えているのが羨ましすぎる‼
自分もそんな男の子と付き合いたい‼
と思っている女子は少なくないであろうし
中にはそんな彼のことを寝取るとまでは言わないまでも誘惑だのなんだのして自分の男にしようと画策している女がいてもなんら不思議ではない。
といった感じで実は今校内で一番の人気を誇っている人の彼女をやっているどこぞの腹黒女がなんの対策も取っていないはずもなく、ここでようやく先程私が強制疑似体験させられた例の件について話が移るのだが
ここで一旦一之瀬陽太君という一人の男の子のことをよ~く思い出してみて欲しい。
・基本一之瀬君が仲良く喋れる女子は彩乃と倉科さんの二人だけ。
・つまり彼は女子がかなり苦手であり女慣れしていない。上記二名を除いて。
・しかしさっきも言ったように特に彼女《彩乃》に対する気遣い等は歌舞伎町NO.1ホスト並みかそれ以上。
・でもほんの一部の女を除いて本当の彼のことを知っている者はいない
つまりそういった女共は皆現在進行形でこう考えているであろう。
『きっと一之瀬陽太君という男の人は他の男共と違ってこっちがしてほしいと思っていることは何も言わずともすぐに察してくれるだろうし、もし自分が彼と付き合い始めたら今カノ同様毎日がお姫様気分なんだろうな』
とかなんとか頭の中お花畑全開な妄想を。しかしそれこそがあの腹黒女こと佐々木彩乃という女の恐ろしすぎる作戦の本幹である。
というのもまず大前提として先ほどから私がまるでモテ神かの如く評価を上げまくっている一之瀬君の女受け最強手腕の件だが
これはただ異性に対する接し方などを全く知らなかった彼に彩乃が彩乃自身の為だけに一から十までの全てを自分の好みにしていっているだけであり、そんな人間が対応している異性といえば勿論この世に一人しかいないのは当たり前というのもの。
イコール?
何も言わずともこっちの気持ちを察してくれるなんてのは夢のまた夢どころか、一挙手一投足から前カノ《彩乃》の影が見えるのがウザッたいといっても過言ではないであろう。何故ならそれらを教え込んだのは全てその人本人なのだから。
ついでに万が一、一之瀬君が自分から他の女に浮気をしたとしても上記の理由から最初は上手くいったとしてもお互いとてつもないこれじゃない感という名の不満が募っていき長くは続かないといった寸法である。
なんて一人心の中で佐々木彩乃という末恐ろしい悪女のことを考えているうちにあっちはあっちで勝手に盛り上がっていたらしく、それの過程であの子の視線がズレた際にたまたま私と目が合った時に何かを感じ取ったためか。一旦今回の件に関しての話を締めにいったかと思えばそれすらもたただでは終わるわけもなく……
彼氏の心の声は簡単に読めるは、相変わらずのSっぽさを見せるは、最後まで抜け目なく自分だけの一之瀬君計画を遂行するは
『はい、よくできました♪ えらいえら~い♡』
(極めつけは飴と鞭の使い分けですか。しかもワザと私に見せつけるかのように彼の頭を撫でてくれちゃって。そんなあからさまに『もう二度と私の彼氏に余計なちょっかいを出さないで、というか出すだけ無駄だから』みたいな目を向けなくとも分かってるっつうの)
(………んぅ~、でもちょっとだけでいいから色んな意味で可愛くなっちゃってるであろう一之瀬君の顔を見たいか―――っ⁉ んでもないです)