第130話:私だけのひーくん
『ひ~ぃ、くん♪』
先程までのお怒りはどこへやら。そんなもの最初からありませんでしたよくらいの感じで彩乃がそう言いながら俺の腕に抱きついてきたおかげか不思議とさっきまで感じていた不安感が少し和らぎほっとしたのもつかの間のこと。
うちの彼女が今回の件について黙って見過ごしてくれるわけもなく、また逃げようとした時の対策のためか抱きつく力を強めてきたと同時に何故かそれとは関係なくお互いの体の密着度を増させてきてから
「ひーくん。私こう見えて実は今かなり怒ってるんだけど…私だけのひーくんならなんでか分かるよね?」
(彩乃が俺に対してなにかを察してほしい時や今回のように怒られるようなことがあった時、決まって口にする言葉である『私だけのひーくん』)
(この呪いの呪文が彩乃の口から発せられたということは少なくとも一度同じことで注意されているか…俺が気付かぬうちに何かをやらかしており『なんで私が怒っているのか今すぐ考えてみなさい』ということを意味する。大体はなんで怒られてるのかが分からず更に怒られるんだけど)
(いやでも、ちょっと答えが出るまでに数日掛かるだけであって俺だって本気を出せばそれくらい分かるし。その間彩乃の機嫌がちょ~っとだけ悪くなって、それのタイミングとうちに泊まりに来る日が被った時には確実に夜ご飯のおかず一品が生野菜のサラダにされるけど。もちろんアボカド入れの)
(つっても今回は考えるまでもなく何が悪かったのか察しがついているどころか、思い当たることしかないし…流石にそんな状況下であるにも関わらず逃げ出そうとしたのは失敗だったどころじゃないな)
そう一人心の中で反省すると同時にこっそり
(まあ今週分のお泊りは昨日だったしあの彩乃が弁当の中に生のアボカドを、ましてやこの時期に入れるなど絶対にあり得ない以上万が一すぐに答えが出なかったとしてもまだマシな方だったけど)
なんてことを考えているとただでさえ彩乃の色んなところが俺の体に当たっているというのに更にそれを増させてきたかと思えば
「ひーくん、ごめんなさいは?」
「………………」
(俺今声に出してたか?)
「ごめんなさいは?」
「………………」
(いや、出してないよな?)
「声に出してた、出してなかったとかの前に…ご・め・ん・な・さ・い・は?」
「ごめん…なさぃ」
「はい、よくできました♪ えらいえら~い♡」




