第127話:その頃美咲は
多少やり方は強引だったものの彼に対して新学期初日に抱いた恐怖心や不安といった感情は完全に消えたと同時に今度は
”一之瀬君のことをもっと色々知りたい”
”仲良くなりたい”
といった心境の変化が私の中であったからなのか、はたまた別の原因があるからなのかは不明だが
(なんでか一之瀬君に近付けば近づくほど落ち着くというか、安心できる気がす…る……。あれ? この感じどこかで―――っ!!)
もう少しで自分の中にあるこの感情の意味が分かりそう。
そう思った瞬間彼とは別の何かに近づくにつれてただならぬオーラが増していくのを感じ取ったことにより無意識のうちにとはいえ友達ではないどころかまともに喋っことすらないような、しかも目の前にいる異性が着ているジャージの裾を掴もうと萌え袖状態の右手を寸前まで伸ばしていたことに気付いた私は先程から感じている何かがなんであるのか分かっていないにも関わらず
(見られてた? ねぇ、今の見られてた? というかどこまでバレてる? そしてどこまで気付かれた?)
そんな動揺が頭の中を駆け巡りはじてから数秒後、順番としては逆であるにも関わらず例の何かがいるであろう方へと目を向けると
(………あ~、なるほどなるほど。さっきから感じていたただならぬオーラの発生源は彩乃からか~。ははぁ、ははははははぁ……)
(って、笑ってる場合じゃないんですけど⁉ どっ、どどどどうしようっ! いや、待て待てまて、取り敢えず落ち着いて現状の整理をしよう。うん、そうしよう)
(まず今私は無意識のうちにとはいえ一之瀬君の背中にぴったりくっ付いて歩いているだけじゃなく、ぶかぶかなウィンドブレーカーのフードを被っているおかげでこちらの表情は完全に見えていないと言っても過言ではないわけで……)
(つまり! 表情どころか感情に至るまでの一切があの子には見えていないは…ずなのになんであの子はずっと笑顔でありながら目は1ミリも笑っていない状態で手招きをしているわけ⁉ やっぱり全部バレているとか、そういう感じなの⁉)
(………ん? ねぇ、『やっぱり全部バレているとか、そういう感じなの⁉』ってなに? それってどういう意味? これじゃあまるで私が一之瀬君のことを好きになっちゃったみたいじゃん)
そんな考えに至った瞬間人間の脳みそというものは不思議なもので実際にはまだ自分の気持ちをちゃんと理解しきれていないにも関わらず勝手に『あれ、もしかして一之瀬君のこと……』
なんてことを思うようになるらしく
(いやでもまだこの気持ちが恋心なのかは分からないわけだし……だ…し、このまま平常心を装うどころか被害者面をする勢いで行けばなんとかな…ならないなこれは、うん)
(よし、なんだか私の脳みそが勝手に先走って色々しちゃってくれているおかげでいい感じに頭の中どころか心の中まで混乱してきたし、このまま勢いに任せて一旦この場から離脱しますか‼)
決めたら即実行どころか自分の頭がそれを理解するよりも早く動き出そうとしたその時、まるでこちらの心の声が丸聞こえたったんじゃないかと疑いたくなる程の完璧なタイミングで
「ひ~く~ん~? まさかとは思うけど…今、私から逃げようとしたわけじゃないよねぇ?」
「「―――――っ⁉」」