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第124話:期待と不安が入り交じる中間地点で

ここ最近なんとなく○○|《彼氏》の様子が怪しいとは思いつつもこれといった証拠がないためどうにかして確かめる方法はないかと電話で彩乃に相談したところ


『だったら丁度一週間後にある体育祭の最終競技を利用して自分の目で確かめればいいじゃん』


『確かめるって言ったってどうやって確かめるのさ?』


『どうやってもこうやっても、どうせあのク…美咲の彼氏も3組の代表としてあのマラソン大会に出るんでしょ?』


『ま、まあ、○○は全部で70人近く部員がいるサッカー部でずっとレギュラー入りをし続けているだけじゃなく去年のシャトルランで学年2位だったくらいだし…それくらいは当たり前っていうか、なんというか……ねぇ?』


ついさっき自分の口から○○が浮気している可能性があるいう相談内容を話したばかりだというのに、我ながらお前の頭の中はお花畑かと思いたくなるほどの声のトーンでそんな惚気みたいなことを言うと、逆に彩乃は完全に冷めているどころか若干○○のことを軽蔑しているくらいの声で


『へぇー、去年の学年2位がサッカー部の誰かってことは知ってたけどあのク…美咲の彼氏だったんだ。なんか納得』


『いや、あのさ…確かに彩乃の気持ちも分かるんだけど一応まだ○○の件に関しては可能性があるってだけで確実な証拠がない以上私としては最後まで信じ続けていたいし現に今も「そんなことない。あれは私の勘違いだったんだっ…て……」』


『………………』


『そう私が思いたいだけ、この気持ちはそうであってほしいという私の願望であって……本当はもう駄目なんだろうなっていうことは分かっているんだけど…それでもまだ○○が私の彼氏であることには変わりないんだからその人のことをクズって言いかけるのは止めてほしいというかなんというか……。だいたいあの怒ったら超怖い一之瀬君ですら舌打ちはすれどそこまであからさまなことは言わなかったどころか言う素振りすら見せなかったっていうのに、それを叱ったあんたがそんなじゃ私の気持ちがどうこう以前に示しがつかないでしょうが!』


先ほどから相談に乗ってもらっているのは私の方だし、冷静になって考えれば若干彩乃の言葉遣いが汚い以外はだいたい正しいというか…もし私達の立場が逆だったのならば間違いなくあの子と同じ反応をしていたと思う。


しかし人間という生き物は自分が信じていたものを否定されれば否定されるほど冷静な判断が下せなくなるどころか、兎に角なんとかして今すぐそれを止めさせたい。


また、もし可能であるならば己の中にあるその間違いを逆に肯定してもらい安心したいと思う本能的な何かがあるらしく


"前半は相手の同情を誘うような言葉を"


"後半は強制的にその話を打ち切るためかいきなり逆切れを”


完全に自分の意志とは無関係に、ただただそれに突き動かされるがままにその二つを言い始めるとまるで私が悲劇のヒロインになったかのような気分で凄く、凄く! 凄く‼ 何かが満たされていくような感覚によって一種の気持ちよさみたいなものが頭の中でどんどんどんどん、喋れば喋るほど広がっていっていたのだが


しかしその快楽も結局はただ何も考えずに喋っている以上そう長く続くわけもなく、先ほどまであんなに勝手に動いていた自分の口がピタリと動かなくなるとそれは一瞬で消え去ったどころか頭の中が真っ白になってしまい、取り敢えず先ほどまでと同じテンションを今度は自力でなんとか維持しようとしたその瞬間…まるで私の話を半分以上聞き流していたんじゃないかくらいの普段通りの声で


『まあ美咲がそこまで自分の彼氏のことを信じたいっていうなら私と一緒に体育祭の最終競技以外は全部サボってひーくんのお家で中間地点用の差し入れでも作る? ちなみに私は当日の朝に午前中は休むけど午後の部活には行くからって嘘をついてそれを準備する予定だけど』


『………なんとなく彩乃が私にさせようとしてることに察しはついているけれど、念のため一つずつあんたの作戦を聞かせてもらってもいい?』


私がそう聞くと


『まずは初手として少なくとも体育祭当日の数日前には美咲の彼氏である………例の男に適当な理由を言って休むことを伝えます。可能であるならば数日間県外に行く用事があると嘘をつくのがベスト。更にその嘘に信憑性を持たせるため体育祭当日の朝に………』


という感じで若干私としては引っかかる部分があるもののどこか自慢げに解説を行っていたのもつかの間、あからさまなところで黙り始めたかと思えば今度は電話越しでも嫌悪感むき出しなのが分かるような雰囲気を醸し出しながら


『ねえ、やっぱり説明するの止めてもいい? 正直、名前を呼びたくないどころか顔すら思い出したくないんだけど』


(………………)


『はいはい分かりました、わかりました! 彩乃がそこまで嫌だって言うのならもう一之瀬君に相談するからいいです‼』


先ほどの件があるとはいえどうしったってイラッとくるものはイラッとくるため、ついそんな嫌味みたいなことを言ってしまったのだが…数分前同様、私の話を半分以上聞いていなかったのか何なのか先ほどまでと全く同じテンションで彩乃は


『も使っており、尚且つお互いがフォローしあっているSNSにあたかも今から新幹線に乗ってどこかに行くかのような写真をアップしておけばもう完璧。あなたの馬鹿クズクソ彼氏はまんまと騙されウッキウキな気分で浮気相手を中間地点で待たせていることこと間違いなし♪』


(もう無理、我慢の限界‼)


『あのさっ! さっきの件もあるからずっと黙ってたけど流石に私も我慢の限界っていうか、いくらなんでも限度ってものが―――』


あるでしょうが‼ そう言おうとした瞬間…電話越しにも関わらず今までに感じたことがないほどの、今までに彩乃から感じたことのある怒りの感情とは比べものならなほどのそれがいきなりこちらに伝わってきたのもつかの間


数秒後の私が


今あの子が自分の目の前にいなくて本当によかったと思わされるほどまでの恐怖心を抱くほどの声で


『確かに今回の件に関して口の悪さだけで言えば私の方が上かもだけど、もしこのことをひーくんも気が付いていただけでなく美咲のことを本気でどうにかしてあげたいと考えていたところに彼が思う絶好のチャンスが巡ってきたのなら……最悪あのクズとそれの浮気相手の女はもうこの学校にはいられなくなるだろうね』






(………さっきからずっと感じているこの不安な気持ちを落ち着かせようと思って取り敢えず一週間前のことを振り返ってみたけれど…これは完全に逆効果だったどころか心配事が更に増えたというかなんというか―――⁉)


そんな不安に不安が上乗せされた状態にある私は無意識のうちに早く○○が迎えに来てくれることを心の中で願っていたらしく、それに同調してか目を瞑っていることによって研ぎ澄まされていた感覚が更に増したことによりまだ距離があるにも関わらず後ろから誰かが近付いてきていることに、そしてその気配は確実に自分に向かってきていることに気が付いた瞬間色んな意味でほっとしたその時


「ぐえっ⁉」


突然まあまあな力でジャージの襟を引っ張られたかと思えばそのまま○○? の胸に私の背中がぶつかり


(いきなりでビックリし過ぎてまだ後ろを振り向けてないどころか目すら開けられてないけど、私にこんなことをするってことは○○ってことだよね? 今までこういったことはされたことがなかったからちょっとビックリしちゃったけど、なんというか無理やりなのに不思議と同時に優しさが伝わってくるこの感覚…こんなの私知らない……)


なんて若干困惑しながらも恐らく満更でもない表情をしているであろう状態のまま振り返ると


「………えっ?」


「………………」


「えっ? んっ? ………えっ、ちょっ、えぇっ⁉」


(なっ、なになになに⁉ はぁ? えっ、なんで今私は一之瀬君に後ろから抱き留められてるわ―――⁉)


「(チッ、うるせえからちょっと黙ってろ)」


そう彼が言い終えるよりも早く一之瀬君は自分の右腕につけていたアームカバーを掌まで下したかと思えばそのまま私の口元をふさがれてしまい


「(うむっ⁉)」


完全に身動きを取ることはおろか声すら出せない状態になってしまったのだが、先ほどからずっと伝わり続けている優しさと…『お前になんか微塵も興味ねえよ』という大変失礼な気持ちがこれでもかというほどまでに感じられるためか若干まだ動揺はしているものの恐怖や不安といった感情は一切ないので大人しくそれを受け入れると


もう少しだけこの状態が続くのであろうというこちらの予想に反し一之瀬君はあっさりと私から離れたかと思えば今度は彼と……彩乃の匂いがするウィンドブレーカーを投げ渡され


「(ぶっちゃけ俺にはあのクズのどこがいいのか一ミリも分かんねえけど……チッ、面倒くせ。取り敢えずそれ着て…フードもちゃんと被っとけよ)」


そんな言葉足らずにもほどがあるようなものだったにも関わらず不思議と一之瀬君の中にあるのであろう様々な感情や考えを汲み取るができた私は素直に言われたと通りにし………大変お怒りであることがここからでも分かる彩乃さんの下へと彼の背中について行く形で向かい始めた。

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