第123話:中間地点で(下)
実況用のモニターの映像によって他の奴らが今どこら辺を走っているかなどの情報がリアルタイムで分かる彩乃と違いこちらはそれらが一切分からないだけでなく、何よりも自分だけが知っているこの子の表情・姿・声・その他諸々に至るまでの全てを誰にも見せたくないという独占欲と…謎のそわそわ感。
そして無意識にとはいえその謎の感情に突き動かされる形であれらの行動を起こしてしまった己に対し若干イライラしてはいたものの、俺が数歩前へ進んだところで後ろから聞こえるか聞こえないかくらいの声で
「(だいたい別にまだ10%もエッチなスイッチは入ってなかったし、私はひーくんしかいない状況じゃなきゃ無意識のうちに制御が掛かっちゃうみたいだから当然の結果だし。……まあ今回は近くに人がいるとはいえみんな後ろを向いていたからちょっとだけ大胆になっちゃったけど…それでも全然本気じゃなかったし)」
という顔を見ずとも彩乃が先程の俺の態度に対してムキになっているのが分かるような声で喋っていた独り言が聞こえてきたことと同時にいつも彼女が拗ねた時にする表情や仕草が頭の中に思い浮かびだしたことにより自分の顔がニヤケそうになるのを我慢しようとしたその時
「(その分、今日の―――気なんて言葉じゃ生ぬ―――らいの勢いで―――。何が何で―――う)」
(さっきのはある程度距離が近かったのはもちろんのこと、少し独り言にしては大きかったおかげでしっかり聞こえたけれど今のは所々しか聞こえなかった。聞こえなかったけれど……なんか残りの今日一日を無事に過ごせそうにない気がしてきたのは俺の気のせいか?)
なんてことを考えているうちにある程度息が整い始めたのに加え、今日も今日とてトニカクカワイイ状態の彩乃のおかげか先程まで感じていた謎のそわそわ感がかなり薄れてきていることにふと気が付いた瞬間
再びその感覚が湧き上がってきただけでなく、それは俺が藤村の背中に近付けば近づくほど強くなり続けると同時に怒りの感情? が自分の中で芽生え始め
(新学期初日の俺に対するあいつの言動はマジで最悪だったとはいえこの数ヶ月で彩乃の言う通り悪いやつでないことは同じクラスにいる関係上少しだけだが分かってき……まあ正直に言えば二年前のあの日から藤村が悪いやつではないことはもちろん)
「………………」
(俺や彩乃だけではなく藤村本人も自分が置かれている状況についてなんとなく察しがついているにも関わらず例の伝説を、そしてあのク…自分の彼氏が絶対に迎えに来てくれると己の中にある不安や疑念を押し殺しながらああやってずっと待っていることがこっちに伝わってきている時点で良いやつなのもちろんのこと、実はそんな彼女の姿を見ているうちに人として好きになり始めているというかなんというか)
「(チッ、あのクズの何がいいんだか俺にはさっぱり分かんねぇ)」