第122話:その頃彩乃は
せっかく昨日は週に一回のひーくんのお家でお泊りの日だったのだが、本人は何も知らないとはいえ今日の体育祭の最終競技に彼も参加することを知っていた…というか推薦したのは誰でもない私自身であり自業自得と言えば自業自得でしかないしGW合宿三日目の彼の動きの悪さを考えれば最善の選択であったと今でも思っているのだが………。
俺様ひーくんが見られる可能性に気が付いてしまった瞬間、胸の奥深くに押し込めておいた
(ん~、でもでも昨日の夜もひーくんと一緒にお風呂に入りたかったし一緒のベッドで寝たかった! 一週間我慢してた分いっぱい、い~っぱいエッチなことしたかった‼)
という気持ちが溢れ出してしまった結果イライラやヤキモチといった感情はどうでもよくなったことと引き換えに己の中にある何かがどんどん形作られていくのに
合わせて私自身も
彼の匂いがするウィンドブレーカーを着て
フードを被って
自分の好きな人の服を着ることによって生まれるあの独特な高揚感を心と体の両方で味わって
それを味わえば味わうほど気分が高まり続け、でも頭の中は不思議なくらいスッキリしているためこの後何をすれば自分がもっとひーくんに可愛いと思ってもらえるかを考えることができて
ついでに悪知恵もよく働いて………。
「(ひーくんの彼女は私だけだし)」
“あぁ、ひーくんの首筋からすっごくいい匂いがする”
「(ひーくんの特別になっていい女も私だけなのに……)」
“すっごくいい匂いで、すっごくエッチな気分にさせられちゃう…まるで私専用の媚薬のような匂い”
「(他の女のためにここまで無理して走ってきたみたいだから嫌)」
“そしてなによりも…今すぐ食べちゃいたくなるほどの………”
ひーくんと喋っているうちに彼のウィンドブレーカーを着た時点で入りかけていたスイッチが完全に入ってしまった私は後頭部には自分の右手を、左腕はそのままの位置に……でも今の態勢から逃げられないようかなりの力を込めた状態を維持しつつ首筋にキスをしようとした瞬間
あちらもそれを察したのか無理やり自分の右腕を私の左腕ごと持ち上げてきたかと思えばその流れでこっちの口を片手で塞いでき
「うむっ⁉」
「いいからさっさとウィンブレ返せ…いや、もう面倒くさいから無理やり脱がそう」
(無理やり……♡ じゃなくて! ちょっとこれは予想外すぎるんですけど⁉)
なんてこっちの気持ちなど知ったこっちゃないといった感じで、そして先ほどの言葉通り普段のひーくんらしくない若干荒っぽい脱がせ方でそれを取られてしまっただけでなく自分の彼女そっちのけでまた他の女のところへと向かって行く彼の背中を眺めているうちに冷静になった私は
(う~ん、確かに私の予想通りさっきのひーくんは本物の俺様ひーくんだったけれど…やっぱりそう簡単にはいかないか。まあ今回は事情が事情なだけに邪魔をする気はないどころか感謝しているぐらいなんだけど……でもでもそれとこれとは全然別なの! なにさっきの態度、絶対に今日の夜襲う‼ 何が何でも襲う‼)