第105話:その頃彩乃はⅡ
「二人が笑ってる理由はよく分からないですけど、取り敢えず話を続けますよ?」
そんなあかりの言葉に対しまだ笑いが収まらない私達はなんとかそれを抑え込みながら頷くと、自分がどこまで話したのか思い出しているのか少し間をおいてから
「それで、お互い朝の挨拶が済んだということで早速事情を説明して二人を止めてもらおう思いまして………」
「って感じでスマートに喧嘩を止めてくれただけじゃなく、二人を和ませるためか少し離れた自販機の前まで連れて行って一人一本ずつ好きなジュースを奢ることにしたみたいなんですよ」
(かなりの人見知りをするひーくんがあんまり喋ったこともない後輩に対してそこまでするなんて。いいなー、私も成長したそんな彼の姿を見たかったなぁ)
「それでその人達が何にするか選んでる時になんでか分からないんですけど一之瀬先輩が私の方を見てきたんですよ。しかも真顔で」
「なるほどねぇ。ちなみにその時のひーくんは何を考えていたと思う?」
明日香はまだ分かりそうで分からないみたいな顔をしている中、一瞬で答えに辿り着いた私はそんな風に聞くとあかりは少し申し訳なさそうな顔をしながら
「『ったく、余計なことをしてくれたなアイツ』……とかでしょうか?」
「ブッブー。正解は『これって上原にも奢ってやった方がいいのか? いや、でももしそれでセクハラ扱いとかされたら嫌だしな』でした~」
そう言うと明日香は『あ~、なるほど』みたいな顔をしたものの、まだ彼との付き合いが短いあかりには私の言葉が信じられなかったらしく
「なにか下心があったならまだしもそういうわけではないのなら私を含めそんな失礼なことを考える人はそうそういないと思うんですが」
「バカな男どもが思って以上に女っていう生き物は相手の下心を見抜く能力が高いもんねぇ?」
「そうそう……って、これじゃあ私が悪い女みたいじゃないですか!」
「えっ、でも実際そうじゃん」
(相変わらず可愛い顔して黒いこと言うよね、この子。私は好きだけど)




