第95話:その頃彩乃は (上)
確かに本気で怒った時のひーくんは凄く怖いし、何も知らずにそんな彼の姿を見たのならばちょっとヤバい人なんじゃ……と思いたくなるのも分かるが少なくとも今回の件に関しては謝罪が先であることは自明の理というもの。
ということでそこだけはどうしても譲れなかった私は
『その前にまずは彼に謝るのが先でしょうが!』
と若干怒り気味に言ったところ少しは冷静になったのか申し訳なさそうな顔をしながら一言
『はい』
と返してきたのを受け
(あとはひーくんの機嫌を元に戻せば取り敢えずはオッケーかなぁ)
とかなんとか考えていたのもつかの間、明日香からテレビ電話が掛かってきたため自分の顔が映る場所にスマホを持ってきてから
「明日香? 朝からテレビ電話なんてどうしたの?」
『どうしたもこうしたも私とひっしーが学校に来たらよーくんが不機嫌そうなオーラーを出しながら自分の机でこんな風になってたんだけど、どういう状況?』
(ありゃりゃ、これは完全にご機嫌斜めモードだね)
「ちょっと二人が来る前に色々あって……最初から話すと少し長くなっちゃうからそのままひーくんのことは放っておい―――」
『そんな言い方されたら余計気になるだろ……よし、無理やり起こすか』
「ちょっ⁉ 君、それはやめておいた方が―――」
恐らく美咲は『やめておいた方がいいよ』と言いたかったのだろうがそれを言い終える前に動き出した菱沼はひーくんが頭から被っているひざ掛けを雑にどかし、そのまま結構な勢いで肩を揺すり始めた。




