第92話:その頃陽太は
このままもうちょっとだけ彩乃にいい子いい子されていたいと思っていたのもつかの間、依然藤村を抱きしめたままの彼女は俺の頭を撫でるのをやめ
『ちょっと美咲と購買に行ってくるけど何か欲しいものとかある?』
(だからなんでコイツばっかり彩乃に甘えられてるわけ? こっちはただでさえ場所が悪いせいで思い通りに動けないっていうのに、自分は女子同士だからってそうやってさぁ!)
そんな心の声が爆発しそうになっているのを必死に堪えようとした俺はなんとか自分の中にある怒りをぶつけるような『いらん‼』ではなく、大声で反抗したいのをグッと堪えたような感じで
『………いらん』
と言うと彼女はどこか申し訳なさそうな顔をしながらも藤村の手を引いて教室を出て行ってしまった。
(行ってしまった。行ってしま………俺アイツ嫌い‼ 多分彩乃のことを心配してワザとあんなことをしてきたんだろうけど、多分めっちゃいい奴なんだろうけど嫌いなものは嫌い‼ 嫌い嫌いきらーい‼)
相変わらず場所が場所なのに加えて今のこの気持ちをぶつける相手が一人もいないせいでどんどんストレスが溜まるは、周りの話し声やら雑音ですらイライラし始めるはで結構限界状態にまできていた俺はいつものひざ掛けを頭から被り、そのままノイキャン付きのイヤホンでスマホに入っている音楽を聴き始めたのだが……
どうやら丁度イントロが終わったところで一時停止していたらしく次の瞬間
『この、想いが君を♪』
(まだ彼女と別れてねえし、未来永劫別れる予定もないわ‼)




