第91話:その頃陽太は
ただでさえイライラしていたというのにそれの原因を作ってくれちゃった張本人に彩乃を取られたことによって我慢の限界を突破し、自分が陰キャだったり女子が苦手だったりという壁を軽く飛び越えたせいで場所や相手など関係なしに怒鳴りたいのをグッと堪えはしたもののこれ以上コイツに気を使ってやる義理はないと判断した俺は思いっきり舌打ちをした。
すると藤村は体をビクッと反応させ彩乃に抱き着く力を強めたのが見て取れたことが気に食わずもう教室を出ていこうかとすら考えた瞬間、いつの間にか移動してきていた彩乃が俺の頭を二、三回ぽんぽんしてからやさしい声で
「もしかしたら美咲が何かひーくんの気に障るようなことをしたのかもしれないけど、さっきの舌打ちは明らかに相手のことを傷つけるものだった。物理的に手を出さなければ何をしてもいいってわけじゃないでしょ?」
(されたよ! 気に障ることしかされてねえよ‼)
(なんで俺が助けてほしかったのにお前が被害者面して彩乃に抱きしめられてんだよ‼ ふざけんじゃねえよ‼)
彩乃の言っていることは正しいし、確かにあれはよくなかったとはいえやはり面白くないものどうしたって面白くないわけでふて腐れた子供のように黙りこくっていると先ほどよりも更にやさしい声で
「いいわけじゃないでしょ?」
「………はい」
別に今ので納得したわけでなければ少しは落ち着いたというわけでもないのだが、宥めてくれているのが好きな人だからかギリギリ自分の過ちについては認めることができた俺は反抗的な態度でそう返すと満足そうな顔でいい子いい子してくれた。




