第82話:謎のノート (彩乃視点)
最初の頃は私の方からお願いしないとひーくんのお家に泊めてくれなかったものの、それを何回か繰り返していくうちに自然と『毎週日曜日はお泊りの日』みたいな感じになり、今となっては普通に同棲しているんじゃないかと勘違いするくらいには私の中でそれは習慣となっていた。
そして春休み最後の月曜日こと4月6日の朝。
夜遅くまで小説家の仕事をしていてまだ寝ているひーくんを起こすために彼の部屋へときていたのだが、私は綺麗に整理整頓された机の上に置いてある一冊のノートの中身を見るかどうかで葛藤していた。
(勝手に人のスマホとかを見る趣味はないんだけど……)
『彩乃ノート:Ver.1』
(表紙にこんなのが書かれてたら普通に気になるんですけど。……いや、でもやっぱり人のものを勝手に見るのは)
そう頭では考えているにも関わらず私の両手はノートの方へと伸びていき
(まだ、まだ間に合う。今すぐその両手で持っているノートを元の場所に戻して早くひーくんを起こしなさい、彩乃!)
(こらこらこら、何勝手に開こうとしてるのさ! しかもちゃんと1ページ目から見ようとするとか全部見る気満々じゃ―――)
「なにこれ?」
ひーくんが近くで寝ているにも関わらず驚きすぎてつい声を出してしまった私は急いで彼の方を向き、まだ起きた気配がないのを確認してから再びノートに視線を戻し
(なんでこのページだけこんなに濡れた跡があるんだろう。それに文字がギッシリ書いてあったり、ところどころそれが滲んでるせいでここからじゃよく見えない。……朝ご飯とお弁当はもうほとんどできてるし、ちょっとだけ……)




