第51話:帰宅前の校長と彩乃の会話
没収したチョコを持って帰ってもよかったのだがどうせ明日も学校に来るのだしということで校長室の冷蔵庫にそれを入れた私は教室まで荷物を取りに行ってくれたひーくんを持っていると校長が
「今年はまた一段といいチョコレートを貰ってきたもんだね。確かそれってベルギーの本店で作られたものを銀座にあるお店で販売しているんじゃなかったかい?」
「今軽く調べてみましたけど値段の方もかなりいいみたいですよ。……それだけあっちからしたらひーくんは重要な戦力ということなんでしょうけど、高校生相手にこれってどうなんですか」
「そこはまあ大人の事情というものがあるからしょうがないと言えばしょうがないんだが、イチに関して言えばそれは逆効果だと私は思う。何故ならそんな汚いことなど一切知らない、ちょっと子供っぽい彼だからこそこの小説を書けているわけであってそれが崩れてしまえばそれは全く違う作品になってしまうからだ」
「しかし担当編集の人達がひーくんのそんな本当の姿を知っているはずもなく、他の大人と同じような対応をしていると」
(だからこその対策でもあり、本当にひーくんの彼女として彼のことを支えていきたいのならそのことにもちゃんと気を使ってあげなきゃ駄目と)
そんなことを一人で考えていると校長が『ここからは私の独り言みたいなものだから無視してくれて構わない』と前置きをしてから
「この腐った現代社会で心優しい人間が何も変わることなく生きていこうとした場合、必ずと言っていいほど一定以上心の汚れた人間による協力が必要だ。しかしこの領域に達するには少なくとも社会経験が数年は必要であり、たかが高校生の女の子が一人でその役割を果たそうなんてちゃんちゃらおかしな話」
「………………」
「しかし腐った大人というものはそうなっているだけあって自分の身内や親しい存在にはとことん甘い。政○家や警○のトップなんかがまさにそうだろう?」
「………………」
「だから君はあんまり無理をしないで普通にイチの彼女をやっていなさい。何か困ったことがあれば素直に私や親御さんを頼りなさい。私は君達二人に弱みを握られているし、親という生き物は何時まで経っても自分の子供が一番大切なのだから絶対に助けてくれる」
(この人と話している時の私はひーくんのためにと無理して背伸びをしていたことは全部バレてたのね。流石は自校の先生達相手でも遠慮なしに心理操作を行う校長)
「だがイチの彼女だからこそできることが沢山あるしその逆もある。まあ彼がその域に辿り着くには少し時間が掛かってしまう可能性が高いし、そのせいで最初の方は佐々木君ばっかりが頑張ることになるかもしれないがそこは目を瞑ってやってくれ」
そんな校長の言葉を証明するかのように私の鞄とコートを恐る恐るといった感じで手に持ったひーくんが戻ってきた。
(『俺が彩乃の荷物を取ってくるからここで待ってていいよ』って言うだけでも既に無理してたのは分かってたけど……ホントにも~う、大好き♡)




