幸せでありますように
今、貴方はどうしているんだろう。
昼休み、いつものように職場の屋上で缶コーヒーを飲みながら、史は考える。
煙草と、この缶コーヒーが好きな人だったな、と、ほとんど空になった缶をじっと見つめる史。彼女が生まれる前から販売されている、ロングセラーの缶コーヒー。
優しい手だった。温かい眼差しだった。包み込むような、煙草の香りだった。なのに、酷く傷つけてしまった。最後の言葉が忘れられない。
腕時計に目をやると、デスクに戻らないといけない時間だった。
あの人も、どこかで、こうやって働いているのだろうか。どうか、どこかで、幸せでありますように。
史は、一瞬ぎゅっと目を瞑った後、コーヒーの缶をごみ箱に捨てた。
煙草を挟む彼女の細長い指を思い出しながら。
「私なしでも、幸せになれるんだね、史は」