第9話
ギルドで受注できる仕事……クエストには様々なものがある。
モンスターの討伐、洞窟の調査、護衛や警備、傭兵など冒険者らしい仕事もあれば、身辺調査といった探偵まがいの仕事、剣術の指導や、単に人が足りないから一時的に働いてほしい、というアルバイトのようなものもある。
クエストはまとめて掲示されており、この中から自分の実力や得意分野に合わせ受注するわけだ。
さて、俺の初めてのクエストはどれにしようか?
チートの内容的に護衛などは無理だ。
モンスターの大量討伐などが望ましい。
そう思っていると、ちょうどそんな内容のクエストがあった。
・至急!! ハラス平原地帯のモンスター大量討伐 B+
先日、ハラス平原南のハラス森、およびハラス山にて謎の大爆発が連続発生。
ハラス森およびハラス山は消滅、住処を追われたモンスターがハラス平原にて多数確認された。
このままでは街まで被害が及ぶ可能性が高い。至急討伐されたし。
ハラス平原は本来危険は少ないが、現在モンスター分布が大幅に変化している。また、大爆発の原因もいまだ不明である。
以上からクエスト難度はB+に設定された。くれぐれも用心するように!
森と山での大爆発!? ひどい! 一体誰がそんなことを!?
……俺ですね。俺のステータスオープンのせいですね。
よく見ると、ハラス地帯の大爆発調査、とかハラス地帯の生物保護、とか結構な騒ぎになっている。
非常に申し訳ない。
せめてモンスターの討伐くらいは俺がやるべきだろう。
本来B+は上級パーティでないと受注できないらしいが、受付のお姉さんは俺の顔を見ると悲鳴をあげながら受注させてくれた。
魔紋の代わりに手形でも許してくれたし、やさしいお姉さんだ。
これが俺の記念すべき初クエストになるな。
楽しみだ。
やや不安もあるが、まあ大丈夫だろう。
今更、俺が戦闘で後れを取るはずがない。
そもそも俺の爆発で逃げ出したモンスターだろう? なら俺が負ける道理はない。
B+だろうと、俺にかかればラクショーさ。
「あげばっ!! 死ぬっ! ユーリぃ!! 助けてくれユーリぃ!!」
ユーリが遠くから俺に回復魔法をかける。
少し体力が持ち直す。
俺は今、ドクエリマキというモンスターに囲まれている。
こいつは一言でいうとエリマキトカゲ。
冒険者を見つけると二本足で駆け寄り、エリマキを広げ威嚇しつつ毒霧を撒き散らす。
そしてまた二本足で走って距離をとるというイラっとするモンスター。
戦闘力はかなり低い。
だが、冒険者を見ると近寄ってくるという生態、威嚇するときのゲキョーッという小馬鹿にしたような鳴き声、エリマキについた目のような模様が人を見下した表情をしているという理由から乱獲され、絶滅危惧種に指定されている。
うっかり傷つけるだけで罰金、殺してしまおうものなら即実刑。
そんな相手に俺が何かできるはずもない。
初めこそ俺の爆発にビビッていたドクエリマキたちだが、攻撃してこないと分かると態度が一変。
俺の爆発音を囃子に、盆踊りを踊りながら周りをグルグルと回りだす始末。
どんどん濃度を増す毒霧に、今にも意識が飛びそうだ。
そのうちドクエリマキの一匹が、目の前で高速で屈伸しながらゲキョゲキョとリズミカルに鳴きだした。
エリマキの模様がマジでムカつく。
決めた。殺す。
絶滅危惧種なんて知るか。殺す。
俺が決意した瞬間、ユーリが風刃魔法でドクエリマキを攻撃、油断していたエリマキ共は散り散りに逃げ出した。
ナイスだユーリ。
これで今回の報酬は罰金に消えることになるが、少し胸がスッとした。
さて毒を治療しなくては。
用意周到な俺は解毒ポーションを用意している。
震える手でユーリから瓶を受け取ろうとして、うっかり落として割ってしまう。
……大丈夫だ、予備をいくつか買ってある。
俺は今度は落とさないよう慎重に瓶を握りしめ、飲もうとして……そのまま握りつぶしてしまった。
……予備はあと二つあるはずだ。
ユーリにもう一度解毒ポーションを渡すように言う。
「一個は来る途中の爆発で割れて、あと一個は私が飲んじゃった」
オワッタ。
街が凄く遠く感じる。
毒がつらい。物凄くつらい。
激しい眩暈と吐き気、そして全身が異常に痒いし痛い。
俺は全身を掻きむしり、のたうち回りたい衝動に襲われるが、そんなことをすればここら一帯が消し飛ぶので必死に耐えている。
体中に激痛が走るのに、激しく仰け反ることは許されない。
痙攣によって小刻みに爆発しているので、誰かに運んでもらうこともできない。
自力で街まで歩くしかない。
今にも意識が飛びそうになり、そのたび回復魔法をかけてもらう。
そうすると体力は回復するが、新鮮な苦しみが俺を襲う。
また意識が飛びそうになるので、回復してもらう。
そうすると新鮮な苦しみが……拷問かな?
一体どれだけ長い時間苦しんだだろう。
ようやく街にたどり着いた俺は、道具屋に走り出すユーリを見ながら、ただでさえ苦手なトカゲが、大っ嫌いになっていたのだった。
……ギルドに戻ると、『黒曜箱』はまだあった。