第5話
「よし、と」
俺は上着を羽織った。
爆発でボロボロではあるが、元はいい生地なのだろう。
なめらかな肌触りはいつまでも触っていたくなる。
この長剣もおそらく高級なものだ。柄にいくつか宝石が埋め込まれ、刀身はキラリと輝いている。
所々欠けているが。
俺は今、気絶している行商から身ぐるみを剥いでいる。
少々良心が痛むが、気にすることはない。
相手はいたいけな少女を拘束し運ぶような連中だ。
悪人からは追剥をしてもよい、と国語の教科書にも載っていた。
それに、何も全部もらっていこうってわけじゃない。
生きるのに必要な分をちょっとばかり借りていくだけ。
生きるためには仕方ない。
仕方のないことなんだ。
そう思いながら荷台をあさっていると、硬貨がずっしりと詰まった袋を見つけた。
俺はその中から一握りだけ硬貨を取り出した。
今取り出した分がそこでのびてる行商の分、残りが俺の分だ。
生きるためには仕方ない。
俺の様子を物陰から少女が覗いていた。
枷はすでに力づくで壊してある。
本当は鍵を使って外そうとしたのだが、力加減を誤ってダメにしてしまったのだ。
ふと思い立ち、硬貨を小袋に分け少女に差し出す。
彼女の分もあったほうがいいだろう。
それを見て少女は恐る恐る近づいてきた。
改めて見ると本当に美少女だ。
異世界転生らしくなってきたな。
年は十代中頃だろうか?
気品のある顔立ち、肩まで伸びた髪、華奢な体。
汚れた布切れのような服を着せられており、その裾からはチラチラと白い肌が……。
パァン!と軽快な音が響く。
しまった。俺が邪なことを考えると破裂魔法が発生するのである。
少女は体を飛び上がらせ再び物陰に隠れてしまった。
俺は姿勢を下げ、チチチチ、チチチチと舌を鳴らし誘い出す。
ジッとしているとまた少女がおずおずと顔を出してきた。
ゆっくりと近づいてきて、ギリギリのところから慎重に手を伸ばしてくる。
なんだか小動物みたいでかわい………いかんいかんこんなことを考えてたらまた破裂してしまう。
そうしてようやく少女が受け取ろうとしたところで……うっかり袋を落としてしまった。
ガシャン! という音に少女はぴゃっと飛び上がり、大慌てで物陰に逃げ隠れる。
完全に警戒されてしまったな。
再び物陰から少女が出てくるまではそれなりの時間がかかった。
街道を歩き続け、ようやく町の入り口にたどり着いた。
移動中コミュニケーションを試み続けたかいあって、だいぶ少女との距離も縮まった気がする。
少女の名はユーリというらしい。
ちなみに、少女との距離は物理的距離にして大体4メートル。
……まああんまり近いと爆発したとき危ないしな。
仕方ないことだ。