第42話
「『マジックミサイル』!」
「あっやべ!」
ミスった!
最後のゴーレムが破壊された。
「『パラライズ』!!」
「うげぇ!!」
遂に当たってしまった。
体が痺れがががっがががああが。
「アルバートさん! 麻痺治しです! 飲んでください!」
サンキューグレイス。
用意しててよかった。
備えあれば嬉しいね。
「チッそりゃあ持ってるよな。だがいつまで持つかな!」
あと97個あるが?
余裕なんだが?
このまま奴の魔力が切れるまで粘る、よしこの作戦でいこう。
「はいどうぞ毒消しです!」
「チクショウ! 一体いくつ持ってんだよ!!」
こっちのセリフだ。
どんだけ魔力あんだよお前。
「も、もう飲めません……」
「何言ってんですか! 飲まないと死んじゃいますよ!」
そんなこと言ったってお前一体何杯飲んだと……。
腹がタプタプ通り越してジャブジャブ鳴ってんだぞ。
無理。もう無理。
「いいから早く! ほら次の魔法が来ますよ!!」
「むぐぇ!!」
やめろ、無理やり飲ませるな。
腹が破裂する。
「『マジックミサイル』!! 『パラライズ』!!」
ヤバいまた来た。
マジックミサイルからグレイスを守ってパラライズは死んでも躱して……。
ダメだ気持ち悪くて動けん。
「ああっ! また麻痺した!! ちょっと何やってんですか!! 被弾率上がりすぎですよ!」
そんなこと言ったってっががっががああ体が痺れっあがっがあがあが。
「ほら飲んで! 早く!」
再び無理やり流し込まれる。
うえっおえっ。
無理。マジ無理。
死ぬ。もう死ぬ。死にたい。
無理。
「どうしましょうアルバートさん! 今ので麻痺治しが無くなりました!」
マジで!?
もう麻痺治し飲まなくていいのか!?
「助かった!」
「何言ってんですか! 次麻痺したらヤバいですよ!」
確かに。
でももう飲めないもん。
やだもん。
飲みたくないもん。
「『パラライズ』!」
言っているそばからふざけんなカミラ麻痺中心に撃ってきやがっあがっがっががっががががが。
「ああ! どうしましょう!」
どうしようね。
もう諦めない?
「アル! 道具買ってきた!」
ベストなタイミングでトカゲスイングからトカゲが帰還した。
そういや万が一に備えて道具の追加を指示してたんだった。
本来なら救世主だが、今の俺には悪魔に見える。
いや待て、道具の購入の他に増援を呼ぶようにも言っていたはずだ。
「ユーリ、増援は?」
「近くに魔族と戦えるような冒険者はいなかった」
だよね。
期待してなかったよ。
「もう無理。諦めよう。土下座して許しを請おう」
「何言ってんですか! 向こうの魔力もそろそろ限界ですよ! あと一息です!」
こっちはとっくに限界なんだよ。
吐きそう。
今にも吐きそう。
「『スリープ』!!」
アッ眠い。めちゃ眠い。
いっそこのまま眠らせてくれ。
「目覚まし草です!」
や、やめろ馬鹿野郎、もう飲みたくないし食いたくない!
それに今そんなの食ったらまっず!
目覚まし草まっず!
キシリトールをドブでフォンデュしてキシリトールを取り除いたような味がする!!
あ、限界でーす。
吐きまーす。
今から吐きまーす。
「おぼろげぇえあええええええええええええええ!!」
「おっ吐きましたね! これでまだ飲めますね!」
鬼か。
もう嫌だ。
なんで異世界まで来てこんなアルハラの境地みたいなことをされにゃならんのだ。
もうやめてくれ。
俺の願いが通じたのだろうか、その時不思議なことが起こった。
俺の吐瀉物は地面へと落下せず、軌跡を描き空へと舞い上がった。
それは2,3度脈動したかと思うと、鋭い咆哮と共にうねる龍へと姿を変え、上空のカミラへと突撃した。
新たなる必殺技、ゲロドラゴンの誕生である。
もう二度と使いたくないけど。
ゲロドラゴンはカミラに直撃、飲み込むように奴を包み込んだ。
「……お前……マジで何なんだよ………」
ゲロドラからカミラが出てきた。
カミラに肉体的なダメージは見られない。
しかし精神的ダメージは相当なものだろう。
カミラは泣いていた。
「帰る……」
うん、その、なんかごめんな。
ゆっくりと羽ばたき去っていくカミラ。
その身から飛び散る飛沫が日光に照らされて、一筋の綺麗な虹ができていた。