第4話
俺は笑顔で手を振った。友好的にいきたいところだ。
馬車は俺に近づいてきて、俺の前までたどり着き、そのまま俺を通り過ぎた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
言い訳を先にさせてもらうと、この時俺はあまり大きな声を出さなかったし、体もほとんど動かさなかった。
おそらく動作の大きさそのものより、俺の焦りとか必死さのようなものが関係しているのかもしれない。
爆発は馬車を止めるには十分な威力だった。
「なんだ一体!?」
「盗賊か!?」
馬車から武器を持った人間が二人出てきた。
爆発でボロボロだ。
馬を操っていた奴はすでにのびている。
これはまずい。なんとか誤解を解かなければ。
「ち、違うんだ! 見てくれ! 丸腰だ!」
そう、俺は今全裸である。
盗賊というより、盗賊に身ぐるみをはがされた人物というほうがしっくりくるだろう。
しかし丸腰アピールに両手を広げたのはまずかった。
俺の体はまばゆい輝きを放ち、二人の目を強烈にくらませた。
体のどの部分が光ったかは言わないでおこう。
「ぐああ! 目が!?」
「おっおのれ!?」
完全に二人のターゲットは俺へと向いた。もう話し合いは不可能だ。
俺の頬に冷や汗が垂れた。
……垂らした冷や汗は獰猛な虎へと姿を変え、あっという間に二人を気絶させてしまった。
異世界に来て間もないのに、さっそく行商を襲ってしまった。
一応、馬含め全員死んではいないようだ。
「今のは何!? 誰かいるの?」
壊れかけの馬車の中から少女のような声がした。
誰かいるようだ。
放っていくわけにもいかず、俺は馬車に足を踏み入れた。
そこには息をのむほどの美少女がいた。
青みがかったしなやかな髪、透き通るような白い肌、人形のように整った顔立ち。
そして、ほっそりと伸びた四肢の先には………手枷と足枷がはめられていた。
なるほど、つまりこいつらは行商は行商でも奴隷商だったのだろう。
それなら襲ってもいい、というわけではないが、幾分か気が晴れた。
この憐れな少女は間一髪のところを俺に助けられたことになる。
「きゃあああああああああ!!」
突如少女が悲鳴を上げる。しまった、俺は裸だった。
俺が羞恥心を思い出すと、それに呼応するように少女の目の前に小さな爆発が起きる。
「ヒィ!!」
まずい、まずは落ち着かせなければ。
「落ち着け。大丈夫だ。怖くない」
俺はゆっくりと少女に近づく。
「イヤアアアアアアア! 来ないで! 誰か! 誰か助けて!!」
「落ち着け。怖くない。痛くしない。落ち着け」
ここで爆発してはまずい。
俺はなるべく気持ちを静め、抑揚なく喋った。
手足を広げ敵意がないことを示し、じりじりと慎重に距離を詰める。全裸で。
「オチツイテ。コワクナイ。イタクシナイ。ダイジョウブ」
「こっ来ないで…やめて………お願い…」
少女は身をよじり逃げようとするが枷のせいでそれはできない。
じわじわと少女を追い詰める。
「ダイジョウブ。ダイジョウブ。ダイジョウブ。………ホラツカマエタ」
「あっあったったすけ誰かっあっあっあっ」
少女は完全に怯えきっている。かわいそうに。今までよほど怖い目にあってきたのだろう。