第38話
「だぁあああああっ!! うぜぇえええええっ!!」
奥の手ってこれかよ!
あの糞ゴーレム女!
俺は目の前のゴーレムを粉砕する。
現在、時刻は深夜。
日が沈み草木も眠る頃合い、辺りに広がるのは闇ばかり。
本来であればとっくに寝ている時間である。
ゴーレムが2,30分おきに殴りに来なければ。
別に寝てるところを殴られたって痛くはない。
痛くないけど放置するとひたすら頭を殴ってくるので寝ようと思っても寝れない。
「やり口が陰湿すぎる! ひたすらどっかからゴーレム送り続けて睡眠妨害って、そんなのありかよ!」
「アル、私がゴーレムの相手する? 倒すのは無理でも、足止めくらいはできる」
「ダメだ。一応まだ勝負の途中、手出し無用だ」
こうなりゃ我慢比べだ。
向こうのゴーレムが尽きるまで付き合ってやる。
「向こうがゴーレムを作る労力より、俺がゴーレムを壊す労力の方がはるかに小さい。持久戦ならこっちが有利だ」
「……多分向こうは今頃ぐっすり寝てる」
は?
「その、ゴーレムは簡単な命令なら自動で動くって聞いたことある。だからきっとあらかじめたくさん作っておいて時間差で襲わせてる」
「じゃあなにか? 俺が寝れない中、向こうは休み放題寝放題ってわけか?」
ユーリがこくりと頷く。
ファッキン! 作戦変更だ。
どっかにいる本体を見つけてぶっ飛ばす。
「そもそもどうやってゴーレムを送ってんだ? こっちの場所がわかるのか?」
「ゴーレムに探知系の魔法が組み込んであるのかも。髪の毛とか、相手の情報をもとに自動追尾してる……のかな?」
髪か。いくらでも持ってかれる機会はあったな。
チートな防御でも抜け毛は防げないらしい。
気を付けよう。
探知系……ユーリの『探知』が集中して大体5~10メートルくらいだったな。
髪の毛とかの媒介をもとにした魔法、しかもざっくりとした位置だけでいいならもっと伸びるか?
100メートル? 200メートル?
いや俺の周囲に隠れられそうな場所はない。
こんな戦法をとってくるんだ、10キロや20キロあってもおかしくない。
「ユーリ、地図出せ地図! あとゴーレムについてもっと教えてくれ!」
「……こういうのは手出しに含まれないの?」
ん?
こんくらいセーフだよセーフ。
グレイスも俺に探されるのは想定しているのだろう。
ゴーレムの襲ってくる方向がしっかりばらけさせてある。
だがそれはこちらが一か所にとどまっている場合だ。
俺が全速力で移動し続れば偏りが見えてくる。
寝不足での移動はつらかったが、おかげで奴のいるおおよその方向が予測できた。
森のある方向だ。
ユーリ曰く、ゴーレム創造の消費魔力は作るゴーレムと元となる素材に依存する。
つまり、無からゴーレムを作るより泥から、泥からゴーレムを作るより岩から作った方が作りやすい。
魔力の豊富な森の土はまさしくうってつけだろう。
森だ。
奴は森にいる。
覚悟しとけグレイス、その栗色の髪が黒コゲになるまで目ビームをぶち込んでやる。