第36話
「なあユーリ、前から思ってたがこの魔法屋ってのは具体的に何の店なんだ? 魔法を教えてくれるのか?」
「違う。魔法関連中心の雑貨屋。魔具の修理とかしてくれる。あと冷蔵庫の氷買ったりとか」
へえー。
この世界って俺の世界でいう家電とかが大体魔法で成り立ってるもんな。
つまりこれは異世界の電気屋ってわけだ。
つくづく魔法ってのは便利だ。
俺の世界のあらゆる技術は魔法で代替可能。
ただ、魔法が便利すぎて変なところで技術が発達してなかったりもするんだよな。
魔法であらかた済むというか、大抵のことが個人で魔法を使うか魔法使いを雇うかで解決されている。
「なあユーリ、魔法を勝手に撃ってくれるものとかないのか?」
「あるにはあるけど、貴重」
「それ使って……例えば洗濯とかさ、自動でできるようにできないかな?」
「できるかも。でもわざわざ貴重なもの使わなくても、自分でやるか水魔導士に頼めばいい」
まあそう思うよな。
仮に安価で提供できたとしても、仕事を奪われる魔導士は反発するだろう。
やっぱ俺程度じゃ異世界知識無双は難しそうだ。
なんて他愛もない会話をユーリと楽しむ夕暮れ。
突然目の前に鬼の形相の女……グレイスだ。
「どうして……どうしてこんなところを歩いてるんですか! もう約束の時間はとっくに過ぎましたよ!!」
「おうグレイス、よくここがわかったな」
「仮面の二人組なんてすぐ噂になりますから。じゃなくて勝負は! 勝負はどうしたんです!!」
めちゃ怒ってる。
「いやあ、別にめんどくさくなったからすっぽかそうとか、うやむやにして逃げようって思ったわけじゃない。ただほら、約束の場所を描いた地図をうっかり破いちゃってさ。行きたくてもいけなかったんだよ。いやホントホント」
「破いたって、別に粉々にでもしなければ大体わかるでしょう!」
「だからうっかり粉々にしちゃったんだよ。断じて面倒くさくなったわけじゃない。ほんとに」
「どうやったらうっかりで粉々にしちゃうんですか!!」
そう言われてもホントのことだし。
「あとはほら、かの剣豪宮本武蔵はわざと遅刻して相手に揺さぶりをかけたって言うだろ? わざと遅刻することでお前がうちのパーティーにふさわしい忍耐力があるか試したんだよ。いやマジで」
「ミヤモ……? 誰です? とにかく、場所がわからないなら案内しますから! 何なら街の外出たらすぐにやりますからね!!」
えー。めんどくさーい。
「ちゃんとついてきてくださいよ! 今度逃げたら仮面でも暮らせないくらい勇者の評判を上げまくってやりますからね!!」
待て、それは困る。