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第32話

調査をしてわかったが、件の偽勇者は単独犯のようだ。

勇者パーティーの一員を名乗る若い女で、ゴーレムを使役しているところがたびたび目撃されている。


つまり正確には偽勇者という呼び方は適切ではないようだ。

あくまで勇者の仲間を名乗っているだけなのだから。

いや大して変わらんか。


いずれにせよ偽勇者行為はやめさせねばならない。

幸い、こいつの動向はしょっちゅう新聞に載るので追跡は難しくない。


いや幸いじゃねえよ、こいつが新聞に載りまくるせいで既に一部じゃ勇者はカルト的人気だぞ。

こないだ勇者専門誌が創刊されてたぞ。


まあそんなわけで、俺達がやってきたのは長い歴史を持つという街、カゾシミ都。

通称「貴族と奴隷の街」。

かなり物騒な通称だな。


このへんで食料その他が補給できそうなのはここくらい。

偽勇者は人々から金品などは一切受け取っていないようだし、十中八九ここに立ち寄るという予想だ。


「いいか、まず俺が街で偽勇者が現れてないか聞き込みをする。ユーリは外で街に訪れる人を警戒してくれ」

「わかった。ゴーレムを連れた栗色の髪の女だったね」

「まあ街にまでゴーレムを連れてくるとは限らん。魔法使いっぽい栗色の髪の女が来たら見張ってくれ」


しかし以前は街での聞き込みとか買い物とかの細かい作業は基本ユーリの仕事だったんだがなあ……。

まさか俺よりユーリの方が街を歩けなくなるとは。






偽勇者が現れたかは街に入ってすぐに分かった。


「“伝説の勇者”ユーリ様バンザーイ! “勇者の右腕”グレイス様バンザーイ」

「うおおおおおお! 宴だあああ!!」

「俺たちは歴史の目撃者になったんだ!!」


すでに街は偽勇者に汚染されていたからだ。


ユーリの似顔絵と、おそらく偽勇者の物と思われる似顔絵が所狭しと掲げられ、高台でおっさんが勇者について熱弁している。

何処からともなく祭囃子のようなものが聞こえ、ユーリをかたどった神輿が街を練り歩く。

街の中心では勇者像が絶賛建設中だ。


なんてこった。

何をしやがった偽勇者。


「あの、随分と街が騒がしいですけど何があったんですか?」

「これはこれは旅の方! この街は生まれ変わったのです!! 勇者パーティーの一員、グレイス様によって!! ここはもはや「貴族と奴隷の街」ではありません! そう、「自由と勇者の街」です!!」


勇者本人が来てすらいないのに厚かましいな。

グレイスってのが偽勇者の名前か?

とにかくそいつが盛大にやらかしてくれたのはわかった。


「あっそう。そのグレイス様ってのはまだこの街に?」

「いえ、お礼も受け取らずに出発してしまいました。 ところで、あなたはひょっとして“静かなる爆炎”アルバート様では?」


うげ、こいつ俺を知ってんのか?

いつの間にか俺の顔も広まっていたのか。

変な二つ名が増えてるし。


「さ、さあ、人違いでは?」


動揺で少し破裂。


「ああ、やはり間違いない!! 皆の衆ぅううう!! 勇者様のお仲間様だ! お仲間様が再びこの街を訪れてくださったぁああああああああ!!!」


一斉にこちらを向く群衆。ちょっと怖い。


逃げる暇もなく満員電車もびっくりの人だるまの完成だ。

こういう時に全力で逃げたり振り払ったりできないのがとても不便。


「あああああああああ!! アルバート様!! ぜひお礼をおおおおおおおおお!!」

「アルバート様ああああ!! こっちむいてぇええええ!!」

「アッアルアッアルバーッアッアルホァアアアアアアアアアアアア!!」


グレイスにお礼できなかった分フラストレーションが溜まっているのだろうか?

すごい圧だ。

お礼の品々が顔にめちゃくちゃ押し付けられる。


しかも何人か爆発に巻き込んでいるのに全然引かない。

むしろ爆破された奴らめっちゃ満足気。すごい笑顔。

怖い。


最終的に神輿で祭り上げられ、人々が踊り狂い、ごちそうが次々運ばれてくる状態になった。

なんか生贄に捧げられてるみたいだ。怖い。


ところで、この世界のごちそうと呼べそうな物を初めて見たが、なかなかどうしていい香りがするな。

最近は保存食ばかりなのもあって非常に魅力的だ。


しかしさすがの俺も他人のやったことでお礼を受け取るわけにはいかない。

このごちそうは絶対に食べたりなんかしない!






宴もたけなわというころ、ユーリが運び込まれてきた。

街の外で見つかってしまったらしい。


おかげで騒ぎは再加熱。

もう今夜は寝れないだろう。


まあ座れよユーリ、この肉なかなかにうめーぞ。

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