第28話
無事魔族を撃破することができた。
“鮮血”のカミラ、恐ろしい相手だった。
まさかチートと真っ向からやり合える奴がいるとは。
魔族ってのはみんなこうなんだろうか?
こいつが特別強いだけだと思いたいところだ。
さて、後始末をしないとな。
街のあちこちが爆発でめちゃくちゃだし、聖剣の神殿はひっくり返っている。
おのれ魔族。
とりあえず聖剣の神殿は元の位置に戻しておこう。
よっこいしょ。
聖剣の神殿を運び、元あった場所に戻……そうとしたのだが、どうも窪みにうまく嵌らない。
おかしいな、前後逆か?
いやあってるな。
……やっぱり逆だった。
しかし、これからどうしようか。
カミラは街の上層部と繋がりを匂わしていたし、偽聖剣の件もある。
これらを糾弾して、この世界の闇を白日の下に晒すか?
確実に面倒なことになるだろう。
いっそしらばっくれるか?
それはそれでどうなんだ?
「アル、魔族は倒したの?」
ユーリが戻ってきた。人間状態だ。
「おうユーリ、無事だったか。悪かったな急にぶん投げたりして」
「……次からは一言って。魔族は倒したんだ」
ユーリが倒れているカミラを見る。
気絶しているだけでまだ生きているようだ。
マジで頑丈な奴だな。
「それでユーリ、着替えをくれないか。あとこいつを縛るロープか何か……」
「分かった」
そういったユーリが鞄を開けると、モクモクと煙が出てきた。
「おい、なんだこれ」
「もう、アルが乱暴するから、飴雲の瓶が割れちゃったみたい」
ああ、あれか。
やはりあんなでかい瓶を買ったのは失敗だったな。
すごい量の煙だ。
こりゃ荷物は全部べたべたになってるな。
「げほっごほっ!」
むせるユーリ。
煙のせいでなかなか着替えが見つからないようだ。
まずいな、戦闘が終わったことによってだんだん人が集まってきた。
このままでは俺の聖剣が大衆の目前に晒されてしまう。
しかたない。
「ダブルゴールデンフラッシュ!!」
説明しよう! ダブルゴールデンフラッシュとは! あそこが光ることであそこの視認を不可能にする、公然わいせつ罪を防ぐ奥義である!!
これでよし。
ユーリ、着替えはまだか?
野次馬たちがざわついてきてるぞ。
ん? いや、なんか野次馬たちの様子がおかしいな。
なんかこっちを指さしたりしてるし、どんどん人を呼んでいる。
なんだ? まあ魔族を倒したわけだし、注目されるのは当然か?
……いや、待てよ。
今、魔族は倒れていて、聖剣の神殿には聖剣がない。俺が折ったからな。
俺の体は光っていて、後方からユーリを照らしている。
鞄からでた飴雲はモクモクと横に伸び、まるでユーリに翼があるかのように……。
いや、祝福の鐘は?
まだ鐘の鳴る時間じゃないぞ!?
……そういえば、魔族に神殿をぶつけた時、すごくいい音が響いたな。
「なあ、あれって……」
待て待て待て。
「俺は聞いた……祝福の鐘の音を………」
違う。それは魔族に神殿がぶち当たった音だ。
「そして聖なる光、聖なる翼……」
違う。性なる光と、散乱した飴雲だ。
まずい、ユーリは荷物漁りに夢中で状況に気づいていない。
止めようとしたが遅かった。
ユーリは、鞄から、聖剣のレプリカを取り出した。
「勇者誕生だ!!!!!」
誰かが叫んだ。
「うおおおおおおおおおお!! 伝説は本当だったんだ!!」
「ついにこの日が来たんだ!!」
それに人々が呼応する。
「勇者様が魔物を打ち倒した!!」
「伝説の勇者!!」
ダメだ。
もう群衆は止まらない。
「ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!!」
勇者コールが巻き上がった。
「ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!!」
なおもコールは続く。
止む気配はない。
やっと状況をつかめたユーリが、青ざめた顔でこっちを見た。
「ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!!」
人が人を呼び、歓声はどこまでも膨れ上がっていく。
「ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!! ユウシャ!!」
これは……非常に……厄介なことになったな…………。