第24話
ユーリは飴雲がかなり気に入ったようだ。
でかい瓶一つ購入し、いそいそと鞄に詰めている。
……小さい瓶だけでも結構あったのに、あのでかい瓶は何食分入ってるんだ?
もし鞄の中で瓶が割れたりしたら、そりゃあすごいことになりそうだ。
「よし、行こうアル」
ユーリがこちらを見る。
そう、いよいよメインアトラクション、もとい聖剣の神殿に向かうのだ。
というか、もう目の前まで来ている。
すごい行列でなかなか入れないのだ。
「これでも少ないほうみたい。祝福の鐘が鳴る時間だと、もっとすごいって」
「ああ、勇者は祝福の鐘と共に現れた、だったか。祝福の鐘と共に、聖なる翼、聖なる光を携え聖なる剣を抜いた、ねえ。勇者ってのは天使かなんかだったのかね」
「さあ。勇者は天界から来たという人もいる。ただの村人だったって言う人も。あちこちに色んな話が残ってて、よく分かってないみたい」
まあ伝説ってのは尾ひれがつくもんだからな。
はたしてどこまで本当なのか疑わしいもんだ。
そんなことを話していると、ようやく神殿に入ることができた。
入場料でも取られるかと思ったが、さすがにそれはなかった。
神殿にはいくつもの石の柱が並び、中央に宝石の埋め込まれた台座、そしてそこに、淡く輝く剣が刺さっていた。
あれが選ばれし勇者にのみ抜けるという聖剣だろう。
……わかってたけど、見た目はレプリカそのまんまだな。
淡く光ってるくらいで特に違いは分からない。
並んでいた人々はそれを思い思いの方法で抜こうと頑張っていた。
力自慢っぽい人、魔法で自身を強化する人、自作の鐘を鳴らしつつかっこいいポーズをして抜こうとする人……等々。
誰が挑戦しようと聖剣は微動だにしていなかった。
そして、いよいよ俺達の番が来た。
まずはユーリが聖剣に手をかける。
そして……抜けなかった。
体勢を変えつつ何度も引っ張っているが抜けない。
「ピクリともしない。けど、アルなら抜けるかも?」
ユーリがその場からどく。
俺の番だ。
俺は聖剣をしっかりと握り、軽く力を込める。
そして……
「こっこれは!!」
……。
抜けなかった。
いやあ、これ結構ドキドキするな。
爆発するとこだったよ。
俺達は選ばれし者ではなかったてことだな。
まあそりゃそうだろう。
てか勇者に選ばれたらそれはそれで大変だっただろうし、これでいいんだよ。
負け惜しみじゃないぞ?
「アルなら抜けると思ったのに。残念」
神殿を出ながらユーリがそんなことを呟く。
前から思ってたが、こいつは少し俺を買いかぶりすぎだ。
爆発は別に俺の魔力がすごいとかじゃないぞ、たぶん。
時刻は深夜、俺は一人で聖剣の台座の前にいた。
この時間だと人はほとんどいない。
お祈りしてる人が何人かいるくらい。
警備の姿すらない。
昼間は爆発を気にしてあまり力を出せなかった。
しかし、今ならいける。
俺は再び聖剣を握り、力いっぱい引っ張る!
爆発が発生する。
……聖剣は抜けなかった。
これくらいは想定済みだ。
俺は用意していたつるはしを持ち出す。
そして、台座に向かって突き立てる!
台座には傷一つ付かなかった。
つるはしは折れて使い物にならなくなったというのに。
素手でも台座を殴ってみる。
やはり傷一つ付かない。
いや、台座だけではない。
台座に繋がっている床も、並んでいる柱も、この神殿そのものが物凄い防御力を持っている。
すごいぞ。
俺が全力で攻撃しても全く壊れない。
聖剣が抜けないなら、台座を掘ればいいんじゃね? とか、てか台座ごと聖剣持っていけばいいんじゃね? とか考えていた自分が恥ずかしくなる。
すごい。
この聖なる神殿は、俺の興味本位の行動など意にも返さない。
まさしく聖なるパワーだ。
これなら警備がいないのも納得だ。
聖剣は守る必要などない。
もし勇者以外が聖剣を盗もうとしたら、神殿ごと持っていく必要があるだろう。
俺は興奮していた。
初めてチートの力押しが負けた。
聖なる力は本物だった!
それはつまり、聖なるベッドとかが存在すれば、俺はやっとフカフカベッドで眠れるということだ。
実に素晴らしいぞ聖なる力!
景気づけにボンボンと爆発する。
ここなら周りを気にすることはない。
いやーいいね。
爆発は楽しいね。
服が全部消し飛んだけど気にするな。
着替えは外に置いてある。
軽く歌とかも歌ってみようか。
爆発でリズムをとりつつ、全裸でダンスを踊る。
楽しい。
爆発を我慢し続けた俺に、聖なる力は素晴らしいストレス解消を与えてくれた。
ダンスに合わせぐいぐいと聖剣を何度も引っ張る。
いやしかしほんとすごいな。
ここまでめちゃくちゃやって一切抜けそうにな……。
ボキリ、そんな音を立てて聖剣は二つに折れた。