第23話
引き続き観中だ。
街の中心、聖剣の神殿に近づくにつれ、激しいアトラクションは減り、教会や宿泊施設、飲食店などが多くなってきた。
依然として人は多い。
というか、どんどん多くなっている。
さすがに引き返した方がいいだろうか?
いや、俺も大分と爆発の制御がうまくなった。
激しいアトラクションならまだしも、出店や教会を見るくらいなら余裕だろう。
爆発しないコツはそう、平常心を保つことだ。
爆発は肉体的な動きより精神的なものが大事である。
それが分かってからというもの、俺の心は常に修行僧のような状態だ。
常に平常心。
万物は空でこの世は無、一切皆苦が諸行無常の響きあり。
いいぞ、これなら悟りを開くのも時間の問題だな。
俺の背中に誰かの翼がぶつかる。
俺は動じない。
「チッ。たらたら歩いてんじゃねーよ」
ぶつかってきた奴が呟く。
俺は動じない。
動じないけどその汚ねえ背中に目ビーム撃って真っ赤な翼を生やしてやろうか?
え? この糞チンピラ風情がよ? てめぇが聖剣に触れたら聖なる力で蒸発すんじゃねえの?
……俺は動じない。
動じないし、この辺は教会に回復魔法使える人がいっぱいいるから大丈夫さ。
このまま観光を続けようじゃないか。
ほら、さっそくそこの出店に面白そうなものがある。
出店にはふわふわと白い、小さな雲のようなものが浮いていた。
「おっちゃん、これは何だい?」
「こいつか? こいつは飴雲っつうもんで、勇者様の好物だったって言われてる菓子だ」
そう言って小さな瓶を渡してくる。
蓋を開けると、中からモクモクと先ほどの小さな雲が出てきた。
これが菓子なのか。
スプーンですくって食べるらしい。
味は……なかなかいける。
甘い空気を吸ってるような、そこにあるようなないような不思議な食感だ。
面白い。
しかし、この見た目だと綿あめを思い出すな。
空飛ぶ綿あめだ。
俺は宙に浮いたそれを直接嚙り付こうとして……
「ゲホッ! ゴホッ!!」
むせた。
爆発……はしなかったが、少し突風が吹いたようだ。
出店に浮かんでた飴雲が吹き飛び、おっちゃんの顔が飴雲でベトベトだった。
「お客さん、ちょっと……」
悟りを開くのはまだ先になりそうだ。