第22話
浮き馬乗り。
魔法で浮かせたカップや馬に乗るアトラクション。
ふわふわとゆっくり空中に漂ったり、絶叫マシンのように激しく動いたりする。
動かし方は専属の魔術師の匙加減の様だ。
ちなみに安全バーのような類は一切ついていない。
投げ出されてる人もチラホラ見える。
伝説体験。
魔王軍を模したスタッフたちが襲い掛かって来るので、それを撃退するというアトラクション。
撃退するための武器は聖剣のレプリカ。
割と普通に鈍器。
スタッフは攻撃されると芝居めいた演技をしてくれたり、小さなうめき声を上げしばらく動かなくなったりする。
マジックショー。
手品の見世物、ではなく魔法の見世物。
この世界では演劇だろうとサーカスだろうと魔法を使うのが当たり前だが、中でも魔法技術の高さを中心にした見世物をマジックショーと呼ぶらしい。
派手な魔法は特に人気が高いようで、客席まで火の玉がバンバン飛んでくる。
人々が逃げまどう様子ははなかなか壮観だ。
うん、異世界ってのは恐ろしい所だな。
安全管理の概念がまるでない。
俺が現代の安全教育知識を持ち出せば、きっと皆感心して現代知識無双が……まあ、ないかな。
この世界には回復魔法がある。
おおげさに言えば、即死でなければ軽傷も同然。
こういう面が杜撰になるのは当然と言えるのだろう。
それにスキルのせいか全体的に頑丈な人も多いしな。
マリーさんとか、うっかり爆破してもアフロになるだけで済んだからな、あの人。
「アルは何か乗ったりしない?」
浮き馬乗りから戻ってきたユーリが尋ねてきた。
「俺が人ごみに行くと危ないからな。こうして遠くから見てるだけでいいよ」
俺は興奮したりすると爆発しやすくなることが分かっている。
アトラクションに参加したりすれば、ほぼ間違いなく被害が出るだろう。
「ここにはヒーラーがたくさんいる。爆発しても構わない」
「いやいや、そういう訳にはいかんだろ。俺は見てるだけでも楽しいから、ユーリだけで遊んできなさい」
ユーリはなんだか不満そうだ。
「……じゃあ、あれに乗ろう。あれなら人がいない」
そういってユーリは、街のはずれの方を指さした。
そこには一つの乗り物があった。
あの形、俺には見覚えがある。
「お、珍しく客だな。ちょっと見てきなよ。こいつは馬いらずっつうやつでな」
顔をすすで汚したおっちゃんが作業をしている。
「こいつはな、なんと馬も魔力も使わずに走る、すげえ乗り物なんだ!」
おっちゃんは目を輝かせながら説明する。
そう、そこにあったのは蒸気で走る乗り物、蒸気自動車だ。
俺はそのすごさを知っている。
元の世界で一つの革命を起こした、とんでもない発明だ。
しかし……魔法で浮き馬が高速で飛び回る街で、地面をゆっくり動くだけのこれに、客は誰一人としていなかった。
「これなら人がいないからアルも乗れる」
「お二人様ご案内! 揺れるからしっかりつかまってろよ!」
気づけばユーリはトカゲ姿でくっついてきた。
周りに人はいないし、おっちゃんは操縦してるからばれないだろうという判断だろう。
馬いらずは馬車より遅く、景色も大してよくない。
ひどく揺れるし、風向きによって煙が顔に直撃する。
おまけに数分走ればもう燃料切れだ。
けど、元居た世界の技術に思いをはせつつ、ユーリと初めてのった「アトラクション」は、なかなか素晴らしい時間だった。
がんばれおっちゃん。
俺は応援してるぞ。