第20話
爆発しないよう注意しつつ、馬車に揺られることしばらく。
俺とユーリは、「聖剣の街オルディア」の関所の前に並んでいた。
「しかし街に入るだけなのにすごい人だな。ユーリ、うっかりトカゲにならないよう気をつけろよ」
「うん。アルも爆発しないよう気を付けて。それにしても、外にずっと立たされてると、少し肌寒い」
ユーリがクシャミすると、ローブから尻尾が飛び出した。
おいおい、言ってるそばから大丈夫か?
あんまマリーさんの仕事を増やしてやるなよ?
俺がユーリの尻尾を隠そうと動くと、うっかり少しだけ破裂した。
まあ、お互い気を付けような。
それにしても、随分いろんな人が並んでいるな。
俺達のような冒険者らしき人もいれば、裕福そうな商人や貴族風の人達、そんな裕福そうでもない普通の人、大人、子供、老人、様々だ。
この人たち、みんな聖剣が目当てなのだろうか?
聖剣とは、女神からもたらされた神器の一つで、選ばれし勇者にだけ抜くことができるというアレだ。
この「聖剣の街」は、そんな聖剣が収められた、非常にありがた~い神殿がある街である。
ユーリが言う。
「ちょうどいい時間に着いた。どうせなら、街の中に入れてたらよかったけど」
ちょうどいい時間?
何が?
俺がユーリに尋ねようとしたところで、それは聞こえてきた。
街の中から、美しい鐘の音が響いてくる。
ガラーン、ガラーンと、街の奥からひと際大きく、美しいのが一つ。
それに呼応するように、大小様々な鐘の音が無数に。
いくつもの鐘が無差別に鳴っているが、不思議と騒がしさはなく、むしろ交響曲のようなハーモニーを思わせる。
この街中から響く鐘の音は、一日一回、決まった時間に鳴るのだそうだ。
「伝説では、勇者は祝福の鐘と共に現れたって言われてる。その者は、祝福の鐘と共に現れた。聖なる光と、聖なる翼を身に纏い、聖なる剣を抜いて襲い来る魔を祓ったって。」
なるほどね。
聖剣が抜かれた地、それはつまり勇者誕生の地。
この鐘は、かつて勇者誕生を祝福した鐘ってわけだ。
そしてきっと、これから勇者誕生を祝福する鐘でもあるのだろう。
この美しい音色は今、街を訪れた俺たちのことも祝福してくれているのだろうか?
そう考えると、なんだか新たな旅路の門出にいるような、新たな冒険が幕を開けるような、そんな予感がした。
……結果から言うと、その予感は見事的中することとなる。
なんというか、非常に不本意というか、とても厄介な形で、だが……。