第13話
「さて、大体このへんかな」
俺が立っているのは“出口”から少し移動した平原、ダンジョンの端っこにあたるであろう場所だ。
ユーリの『探知』で周囲に人がいないことを念入りに確認し、ユーリも遠くに避難させる。
俺は深呼吸を一つすると、地面を思い切り殴りつけた。
爆発で土がめくりあがり、砂埃が舞う。
素手で地面をガシガシと掘ってみる。地面がどんどん抉れる。
30秒ほど掘り続けると、堅牢そうな石造りの壁が現れた。当たりだ。
再びユーリを呼びつけ、壁の裏を『探知』で確認する。
人はいない……。
ユーリを避難させ、壁を殴りつける。
分厚い壁にぽっかりと穴が開き、奥に見覚えのある光景が見える。ダンジョンだ。
崩落に注意しつつ、慎重に穴を広げていく。
焦る必要はない。浅く広く掘ることを意識しよう。
そう、試したいこととはこれである。
ダンジョンに入れないならば、ダンジョンごと掘り返してしまえばいい。
俺にはその力がある。
ボコンボコンと、砂場でも掘るかのようにダンジョンを掘り進めていく。
なかなか楽しくなってきた。
うはははははは! 大当たりだ!
さっきから宝の山! 山! 山!
中層あたりに入ってから財宝がザクザク出てくる!
すでに俺の掘った穴は、小さな村なら入りそうなほどの広さと深さになっていた。
並べた宝にユーリがせっせと『鑑定』スキルをかけている。
「アル、これすごい。結界石の指輪。魔力を込めるだけで結界が使用者を包む。超レアもの。こっちはムーンライト鉱石。月明りに照らすと魔力が発生する。高値で売れる。陽炎の杖。これもすごい高値。あとあれが賢者のスクロール。あとあれは……」
よほど珍しいものばかりなのだろう。
ユーリが目を輝かせながら説明してくれる。
我ながら素晴らしい方法を思いついた。
ダンジョンのモンスターは地上に出られないため、堀った穴から出てくることはない。
罠もダンジョンごとぶっ壊してしまえばいい。
壁や天井が崩れてくる心配もない。すでに吹っ飛ばしてある。
ダンジョンの崩落だけ心配だが、浅く広くなるよう掘っていればそれも大丈夫そうだ。
「アルの考えたダンジョン攻略法はすごい。みんなもやればいいのに」
こいつは時々無茶を言う。
「おいおい、俺以外に誰がこんなホイホイ素手で掘削作業ができるっていうんだ」
「アルみたいに一人ではできない。けど人をたくさん雇ってゆっくり掘っていくことはできるはず。ダンジョンに潜るより安全」
なるほど、確かに一理ある。
だがそれは無理な理由がある。
ダンジョンが「生きている」と言ったのは、御者の爺さんだったか。
あの話はそう眉唾でもなかったようで、ダンジョンは破壊されたところが自然修復していくようだ。
俺がこれだけ掘り進め広げた穴でも、2,3日あれば閉じてしまうだろう。
もし俺以外がこの修復速度以上の早さで掘るなら、熟練の魔法使いを複数雇う必要がある。
しかしたとえ雇ったとしても、深層に近づくほど壁が硬く、修復速度も早くなるためこの方法で深層までたどり着くのは難しいだろう。
熟練した魔法使いが何人もいながら、結局深層のお宝は手に入らない。
それならば、素直に入り口からダンジョンに潜ったほうがはるかに効率的だ。
この方法は、クッキーでも砕くかのようにダンジョンの壁を掘れ、かつダンジョンに潜ることはできない俺のような人間専用のダンジョン攻略と言えるだろう。
攻略というより盗掘か?
俺は再び採掘作業に戻る。
またガレキが溜まってきたな。外に運ばなくては。
しかし、そろそろガレキを運ぶのも面倒になってきた。
ユーリの言うように、これくらいは人を雇ってもいいかもしれない。
それは突然のことだった。
ズズンと地響きがなり、地面が振動を始める。
ガラガラとあちこちでものが崩れ、大量の土煙が舞う。
俺とユーリの足元に、とんでもない大穴が開いた。
しまった、ダンジョンの崩落か? いや違う。
落下の瞬間、俺は見た。
その大穴には、鋭い牙があった。
蠢く舌があった。
震える喉があった。
これは口だ。巨大な口。
山一つは飲み込めるであろうそれは、地鳴りの様な咆哮をあげ、俺達をばくりと一飲みにした。
明かり一つない暗闇を、成す術もなく落下する。
そんな状況の中、俺は道中の馬車で言われたあの言葉を思い出していた。
ゆめゆめ油断することなかれ
ダンジョンは恐ろしき所なり
ゆめゆめ油断することなかれ
ダンジョンはただの遺跡にあらず
ゆめゆめ油断することなかれ
ダンジョンは冒険者を喰らう魔物なり
“ダンジョン”は、俺達をいとも容易く飲み込んでしまったのだ。




