第12話
「くそっ! 目ビーム! 目ビーム! 目ビーム!!」
俺は目の前の巨大なダンゴムシっぽいモンスターの群れを一掃する。
気分は巨神兵……なんて言ってる場合ではない。
さっきからすごい数のムシが迫って来ているのだ。ヤバイ。
「アルーッ! こっち!! こっちも来てる! 助けて!!」
撃ち漏らしたダンゴムシにユーリが襲われている。ヤバイ。
「任せろ! 目ビーム!」
……不発。ヤバイ。
「くそっ! 目ビーム! 目ビーム! 目ビーム!!」
やっと出た!
「ちょ、アル! 壁! 爆発で壁っ!!」
「ゲッ! 走れっ! 走れユーリっ!」
ガラガラと壁が崩れ、天井が落ちてくる。ヤバイ。
部屋から逃げようと俺が足を踏み出すと……何かのスイッチを踏んだ。
吹き出す毒霧。ヤバイ。
「オゲェ! 麻痺毒!! ユーリぃ!! 解毒頼む!」
「急いで解毒薬を……キャア! またダンゴムシ!!」
……無理だ。
中層から難易度が跳ね上がりすぎる。
いくらでも湧くモンスター、そこら中にある罠、うっかりすると崩れる壁。
宝探しどころではない。
こうして無事地上に戻れたのが奇跡だ。
「アル……私足手まとい? アル一人なら、あんなモンスター……」
ユーリが不安そうに尋ねてくる。
「そんなわけないだろ? 俺は道具がろくに使えないんだぞ? 罠ですぐやられてしまうか、爆発で生き埋めになるのがオチだよ」
そう、俺たちにダンジョンは早かったのだ。
というか、やはり俺にダンジョンは向いてなかったのだ。
うなだれるユーリを帰りの馬車に乗せ、出発する。
ふと外の景色を見る。
あれだけ大きかったダンジョンの入り口が、今はすごく小さく見える。
さらばダンジョン。
少しだけ冒険っぽいことができて俺は満足だよ。
……? なんだ?
平原の方にさっきのとは別の、ダンジョンの入り口のような穴が見える。
「なあ御者の爺さん、あの穴なんだ? あれもダンジョンの入り口か?」
「あれか? ありゃあダンジョンの出口だよ」
「出口? ダンジョンに出口もクソもあるのか?」
「いや、そういう出口じゃなくてだな」
爺さん曰く、あれはダンジョンの“出口”と呼ばれる場所らしい。
穴のように見えるが、今は塞がっていて奥に行くことができない。
しかし一定周期ごとに塞がっている穴が開き、ダンジョンのモンスターや瘴気が噴き出す。
通常、ダンジョンのモンスターは地上で長く生きることはできない。
しかしこの“出口”から出てきたモンスターは別で、放っておくと街などを襲うため危険らしい。
「ふーん。なんでまたそんな仕組みがあるんだい?」
「そりゃ冒険者を誘い出すためさ。モンスターが出てくるとなりゃ放置するわけにはいかないだろ?財宝も出口も、ダンジョンは全部そのためにあんのさ」
ふーん。そういうもんかね。
つまり、あの下も一応ダンジョンなんだな。
入り口から結構離れてることを考えると、ダンジョンはなかなか横方向に広いようだ。
下方向にはもっと広いらしいから、そりゃ秘薬を持ち帰れた奴がいなくても不思議ではない。
……まてよ?
「爺さん、すまんが引き返してくれないか?」
「そりゃ構わんがどうした? あんたダンジョンは懲りたんじゃなかったのか?」
「いや、ちょっと一つ試したいことができてな」
もしかしたら閃いたかもしれない。
あれだけ苦労させられたダンジョンだが、この方法を使えばひょっとしたら……。