第20話 塔内での休息
隣に、私と同じように緑色のつるで、ぐるぐる巻きにされ、頭を下に向けたセイランがぶらさがっている。
「すまない……」
彼は申し訳なさそうに、本当に申し訳なさそうに消え入りそうな声で言った。いつもの自信ありげな勢いは、すっかり感じられなくなっていた。
私からは表情は読み取れなかったけど、ひょっとしたら泣いているのかもしれない。
そんな彼を少し可愛いと思ってしまった。
「大丈夫だよ。たぶん」
セイランは果敢に、または無謀にも、この巨大な歩く樹木に向かって突撃をした。すると、ある程度接近したところで、生い茂ったツルが彼を襲ったのだ。
初めは長刀でうまく切り裂いていたのだけど、多勢に無勢……御影さんやセアラさんが駆け寄ろうとする前に、捕らえられてしまった。
なんとなく感じたことだけど、私を襲った、大きな歩く樹木から害意は感じない。私を捕らえた時点で、あの太い腕のような枝で叩きのめすことだってできただろうに、それをしなかったからだ。
「識別!」
ユノーナの声が聞こえる。炎の矢では無く、識別の呪文を指示したのは御影さんだ。
「ねえ、どうしちゃったの? ウチよ? 分かる?」
マガリは、歩く樹木に必死に話しかけている。しかし、反応が無いみたいだ。
「右目の左側!」
ユノーナがそういうと御影さんが狼に化身した。そして素早く近づいてくる。すると、また新たなツルが、彼目がけて伸びていく。御影さんはうまくかわしていた。
セアラさんがチャンスを窺っていた。
「あっ!」
ついに御影さんがツルに足を取られたとき、セアラさんが動く。ユノーナが指示したところに槍を突き立てた。
「グオオオ」
歩く樹木は、地響きのような悲鳴を上げた。
私を捕らえていたツルが緩み、私は滑り落ちた。ああ、地面は土ですごく硬くは無さそうだけど、落ちたら痛そうだ……。そう思ったけど、ふわっと柔らかいものの上に落ちた。狼になった御影さんだ。うまくツルから逃れることができていた。
彼は、私が上に落ちた衝撃を受けたけど、なんともなさそうだ。
「御影さん、ありがとう」
と言った瞬間、セイランも落ちてきた。
「グエっ」
「あっ」
さすがに背の高いセイランは重かったらしく、彼は変な声を上げて、四肢を広げぺしゃんこになっていた……。
「胸を強く打って痛い……」
化身を解いた御影さんがそう言ったので、彼の胸に手を触れる。
今までになく、触れたことに、心臓が高鳴った。
「ああ……癒やされるなこれ……」
「う、うん。大丈夫そう?」
「あ、ああ……ありがとう」
私も御影さんも、ちょっとぎくしゃくしていた。自然にしようとしてるんだけどできなかった。二人きりで話すことがあれば……さっきのこと謝りたい。それで元に戻れるだろうか?
歩く樹木にも触れて、セアラさんが傷付けたところを癒やす。
「呪いを受けていたのよ。この階への侵入者に気付き、攻撃しようとしたけど反撃されたって。ゴーレムが受けたものに似ているけど、あまり強い呪いじゃなくて良かった」
マガリが暗い顔で言った。御影さんが顔を曇らせて質問する。
「じゃあ、この階に奴はまだいるのか?」
「他の歩く樹木全部に探してもらったけど、もういないみたい」
「そうなのか……呪いを受けたのが一体だけなのが不幸中の幸いか……」
その後も、会話は続いている。でも私は、まぶたの重さを感じ、目をつぶった。すぐに眠りに落ちていく……。
遠くで、誰かが話をしている。聞き覚えのある声が聞こえる。
「それで、アンタはレェナのことをどう思っているのよ?」
マガリの声だ。御影さんが答えるのが聞こえる。
「うーんどうかな……」
「ハッキリしないわね。もしかして優柔不断?」
「……そうだな」
「何開き直ってるのよ。あの子はね、アンタのことが——」
マガリが言いかけたところに、セアラさんが割り込んだ。何を言いかけたんだろう?
「なあ、一俊。この国に住まないか? 我々は歓迎するし、住む場所も提供しよう。生活のことは心配しなくていい。悪い話じゃないと思うけど?」
何を言ってるんだろう。私は碧の湖に向かわないと行けないのに。御影さんは……一緒に来てくれる……よね?
「ちょっ。何を…………まあ、魅力的な話かもしれない」
「そうだろう?」
もしかして、一緒に来てくれないのかな……?
「でも、本当は……本当の目的はレェナさんだろう?」
「……イヤ、そんなことはないが……」
「だが、彼女次第だ。俺は……レェナと行動を共にする」
彼の言葉を聞いて安心した。私は再び、眠りに落ちていく。
目を開ける。木の枝がたくさん見える。天井のようだけど、平らでは無くて丸みを帯びている。
顔をごろんと横に向けると、隣には、御影さんが座っていた。短剣で、木の枝を削っている。
「ん……」
私の声が聞こえたのか、彼がゆっくりと振り向く。眼差しに、何か大切な物を見るような、そんな温かさを感じた。
「おはよう。疲れが出たかな?」
「おはよう。ううん、大丈夫。みんなは?」
優しい声に安心する。
周囲を見渡すと、いくつか藁で作られたベッドのようなものがある。少し離れたところでセイランが眠っていた。
「女性陣は、水浴びに行ってるよ。風呂というか」
「私も浴びたい」
「うん、行ってくるといいと思う。俺たちはここから出るなとマガリに言われているので待ってるよ。出てまっすぐ歩いて行けば、泉がある。暖かくて気持ちがいいよ」
彼が私の顔をじっと見ているのに気付いた。寝起きの顔……恥ずかしくなって顔を背ける。汗でベタベタするような気がするし、髪もボサボサのような……。
「あ、ごめん」
「ううん……」
私は顔を背けたまま起き上がり、走って外に出た。
泉はすぐ見つかった。マガリとユノーナとセアラさんが、水に浸かっている。温かいならお湯かな?
みんな裸だ。
「あらレェナ、起きたのね」
「うん」
マガリが声を掛けてくる。他にも妖精が何人かいるのに気付いた。みんな可愛いくて、女の子ばかりだ。ただ、マガリと比べると一回り小さい。
「気持ちいいわよー。突っ立ってないで入りなさい」
私はすぐ入りたかったけど……服を脱ぐのに躊躇した。えっと……ここ外だよね? 浸かるなら服を脱ぐのは分かるけど……。
ユノーナ達はさも当たり前のように入っているけど、躊躇う。
周囲を確認して……男の人が視界にいないことを確信した。そして、思い切って脱ぎめる。
うー。結構勇気いるな……これ……。




